【第256回】間室道子の本棚 『福家警部補の考察』大倉崇裕/創元推理文庫

「元祖カリスマ書店員」として知られ、雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする、代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ・間室道子。
本連載では、当店きっての人気コンシェルジュである彼女の、頭の中にある"本棚"を覗きます。
本人のコメントと共にお楽しみください。
 
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『福家警部補の考察』
大倉崇裕/創元推理文庫
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ミステリーに「倒叙もの」というのがある。犯人目線で事件=たいてい殺人が描かれていく手法で、『刑事コロンボ』あるいは『古畑任三郎』みたいな、と言えばわかりやすいだろう。

「誰が」「いつ」「どうやって」「なぜ」は最初から明かされている。それは一見完全犯罪。(だって最初から誰がやったかがわかっているうえに犯行がずさんでいつ逮捕されてもおかしくない、なんてミステリー、誰が読む!?)

閑話休題、古畑にしろコロンボにしろ、犯人はなんらかの専門知識のある人で地位や、名誉もある。多くが自信満々でうぬぼれ屋さんだ。倒叙ミステリーのお楽しみは、この完璧に見えた殺人がどうしてバレるに至ったかにある。通常の推理ものとは異なる「読む回路」が刺激されるのである!

前置きが長くなったが、日本の推理小説界における倒叙ものと言えば、大倉崇裕さんの「福家警部補シリーズ」だろう。警部補は女性でたいへん小柄。事件現場にやってきても「交通課?」「広報?」「事務の人?」「少年課じゃないの?」と犯人はじめ身内である警察側にも首をひねられる。またやたらと警察バッジを、落とす、無くす、家に置いてくる、という失態をやらかす。福家の魅力は、この「捜査一課の人間に見えない」にある。

政治的に正しいことが要求される昨今、ゆくゆくは「身長152センチのぼーっとした(彼女はしょっちゅう徹夜明けで現場入りする)女性が現場にあらわれても「この人が現場責任者かもしれないのだから」と最初から敬意をもってお出迎え、になるのかもしれないけど、倒叙ものの読みどころの一つは探偵役のナメられっぷりにあると私は思うの。

コロンボはよれよれ、古畑は慇懃、福家は浮いている。犯人は安心し、”私の犯行をこんなさえない奴が担当するのか”、とものたりなささえ感じる。でも探偵役はスッポンのごとく事件に食いつき、ささいなことから真相を掴む。この大逆転がたまらない。

福家警部補シリーズ5作目となる本書には4話が収録されており、犯人は大きな病院の皮膚科の部長、女性の名バーテンダー、一流証券会社の営業である。で、残りの一作「上品な魔女」が異色。いままでにないタイプなのだ。

主婦のさゆりは自宅で夫を殺す。屋根からの転落事故としか見えないはず。で、いままでの犯人は福家を軽く見たり意外に油断のならない相手だと用心したりする。つまり「敵」としての能力を測るのだ。だがさゆりはあれこれやりとりした後、福家に対して思うのだ。「この人、嫌い」。

何度かこの欄で書いていることだが、正義は悪と戦うには向いている。でも、”この刑事さん、きら~い”に対して福家はどう立ち向かうのか。そしてさゆりは専業主婦だが、家事に長けているほかにあることの「専門家」である。ラストは不気味な余韻を残す。おすすめ!
 
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代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ
間 室  道 子
 
【プロフィール】
雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする「元祖カリスマ書店員」。雑誌『婦人画報』、朝日新聞デジタル「ほんやのほん」などに連載を持つ。書評家としても活動中で、文庫解説に『蒼ざめた馬』(アガサ・クリスティー/ハヤカワクリスティー文庫)、『母性』(湊かなえ/新潮文庫)、『蛇行する月』(桜木紫乃/双葉文庫)、『スタフ staph』(道尾秀介/文春文庫)などがある。

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