【第262回】間室道子の本棚 『成瀬は信じた道をいく』宮島未奈/新潮社

「元祖カリスマ書店員」として知られ、雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする、代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ・間室道子。
本連載では、当店きっての人気コンシェルジュである彼女の、頭の中にある"本棚"を覗きます。
本人のコメントと共にお楽しみください。
 
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『成瀬は信じた道をいく』
宮島未奈/新潮社
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続編は難しい。「誰も死なないし年を取らない」というサザエさん方式は小説ではあまりなく、数か月とか数年とか時が経過している。で、登場人物の成長や変化が読みどころ=作者の書きどころとなるんだけど、「二番煎じ」「主人公の魅力の薄れ」「無理やり話作ってる感」に陥るケースはめずらしくない。本書はあの『成瀬は天下を取りにいく』の二作目。「期待と不安がいりまじる」ってあまりに凡庸だがそうとしか言えないことってあるんだ、と本書を前にビリビリ知った!

結論からいうと、しーんぱーいないさー、である。私は自分を恥じた。成瀬あかりの異彩を放つ魅力は、「ミドルティーンの生真面目さ」という時代がもたらすものではないし、性格・思想でもない。あれは彼女の背骨。こんなこともわからなかったなんて、成瀬、すまん。相変わらず面白いよ。

第一話にでてくるのは小学四年生のみらいちゃん。この子は成瀬に心酔しており、班のみんなに「総合学習の時間」の「地区で活躍してる人」の発表で、某有名コンクールに出場したり夏祭りの司会をやったり(くわしくは正編をどうぞ!)している成瀬あかりさんと島崎みゆきさんのコンビを取り上げようと提案する。そのあと校長先生に話を聞きに行くのだが、みらいちゃんと私はドギモを抜かれる。この学校では夏休みに絵画、作文、書道などのコンクールのリストが配られ、生徒はそれぞれ好きな課題を自由にやる。成瀬はおどろくことをしていた。

「やった」以上に、「そういうことをしてもいいという発想」を私はなぜ持たない!思いついたところでやらないでしょう、できないでしょう、ではないの。とにかく私のカタイ頭とセマイ視野を成瀬は今回も小気味よく壊す。

あと、みらいちゃんはしょっちゅう泣く子で、初インタビューの日、成瀬の相方の島崎が、来年は地元の大津を離れて東京の大学を受験する予定、と言ったのを聞き涙を流す。ぶっちゃけ、みらいちゃんが夢中なのは100パー成瀬だ。でも島崎がいなくなることに嗚咽が止まらない。で、面白いのはここから。

ふつうなら、同席していたお友達の「この子はよく泣くんです」の説明で、そんなもんかー、となり、おちつくのを待つか、やみくもになぐさめるかだと思う。でも成瀬は、みらいちゃんがなぜ泣いているのかをみらいちゃん自身に説明する。たとえるなら、床がびしょびしょな時ただ拭いてまわるのではなくこの水はどこから来たのかを追及、分析、提示。成瀬らしいシーンだ。相手はビックリ&ポッカーン。涙はひっこんでいる!

ほかにもクレーマーだのユーチューバーだの市議会議員の娘でええとこのお嬢さんだのが続々登場。成瀬はあいかわらず、人からどう思われるかは眼中にない。自分が人としてどうありたいかだけ。迷いはない。決断のみ。そんな彼女は意図せず相手に教えているのだ。言葉が生きて届くことが人を生かすと。「面白い」とは何かを。困難を突破するのに”好き”と”勢い”にまさるものはないと!

成瀬の「強」「大」ではなく、「珍」と「変」が周囲を巻き込み、いつのまにか繋いでる。そんな読み味が最高!
 
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代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ
間 室  道 子
 
【プロフィール】
雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする「元祖カリスマ書店員」。雑誌『婦人画報』、『Precious』などに連載を持つ。書評家としても活動中で、文庫解説に『蒼ざめた馬』(アガサ・クリスティー/ハヤカワクリスティー文庫)、『母性』(湊かなえ/新潮文庫)、『蛇行する月』(桜木紫乃/双葉文庫)、『スタフ staph』(道尾秀介/文春文庫)などがある。

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