【第268回】間室道子の本棚 『休むヒント。』群像編集部/編/講談社

「元祖カリスマ書店員」として知られ、雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする、代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ・間室道子。
本連載では、当店きっての人気コンシェルジュである彼女の、頭の中にある"本棚"を覗きます。
本人のコメントと共にお楽しみください。
 
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『休むヒント。』
群像編集部/編/講談社
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タイトルどおりのエッセイ集。「令和になっても日本人って、ヒントがないと休めないのか」とあぜんとするか、「休めないよね」とため息をつくかは読み手の環境しだい。

とにかく執筆陣が豪華で、角田光代さん、酒井順子さんといった有名どころから、フレッシュな竹田ダニエルさん、くどうれいんさん、石田夏穂さん、年森瑛さん。書の武田砂鉄さんもいればクイズの伊沢拓司さんもいる。漫画家つづ井さん、ぼる塾の酒寄さん、『極夜行』の角幡さんなど、多種多様の権化のようなラインナップ!

題名もさまざまで、滝口悠生さんのはシンプルな「釣り」。古川日出男さんの「問いの立て方が間違っているのではないか」と、蓮實重彦先生の「会議を大っぴらに「さぼる」男女が増えぬ限り、この国の未来は途方もなく危ういと思う」は、これだけでううむとうなる!

私にいちばん作用したのは、つまりヒントを得るというより「この一編を読んだらなんだか疲れがとれた」となったのは、吉田篤弘さんの「線を抜く」だ。作家であり、相方の吉田浩美さんと装幀ユニット「クラフト・エヴィング商會」を組んでいるこの著者は、すでに目の前にあるものを魔法のように見せるのがばつぐんにうまい。「休」という漢字から始まり広がる、とてつもない世界へよいこそ!

で、今回は残りのスペースで私の休むヒントを書いていこうと思うの。あこがれは「さぼり」。でも根が真面目なので(ほんとうです!)なかなかできない。最高なのはトルコのホジャだ。童話に出てくる町の賢者で、いろんなことをとんちで乗り切るタイプ。「みんなが一所懸命な時に一人だけズル」ではないの、ウラミを買わずに周囲をケムに巻く華麗なる素っ頓狂。

ホジャは週に一度、教会で説教をしなければならない。どうしたって頭がカラ、という時だってある。で、彼はある回準備なしで集会所に行き、壇上から「今から私が話すことがわりますか」と呼びかけた。みんなは困惑し、「わかりません」ともごもご。ホジャは「そんな無意欲無関心なあなたがたにわたしの大切な話をしても無駄」、てなことを言って、しれっと退場。このあと一週間、自由だ!

でもまた説教の日が。またも手ぶらのホジャが「私がこれから何を言うかわかりますか?」と言うとこんどは全員が「わかります」とうなずいた。「じゃあ話さなくてもいいですね!」とホジャは言い放ち、あぜんとする人々を残して去った。また1週間、自由!

こうなると町のみなさんにも賢者のやり口がわかるというもの。三週目は「わかります」と「わかりません」が半々だった。さて、ホジャはどうしたと思います??

この話を思い出すたび愉快になり、気持ち晴れ晴れ、ココロやすらか。ホジャについては、今は絶版だけど和田誠さんのイラストつきで岩波から本が出てました。図書館でどうぞ!
 
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代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ
間 室  道 子
 
【プロフィール】
雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする「元祖カリスマ書店員」。雑誌『婦人画報』、『Precious』などに連載を持つ。書評家としても活動中で、文庫解説に『蒼ざめた馬』(アガサ・クリスティー/ハヤカワクリスティー文庫)、『母性』(湊かなえ/新潮文庫)、『蛇行する月』(桜木紫乃/双葉文庫)、『スタフ staph』(道尾秀介/文春文庫)などがある。

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