【第27回】間室道子の本棚 『本と鍵の季節』米澤穂信/集英社

~代官山 蔦屋書店文学コンシェルジュが、とっておきの一冊をご紹介します~


「元祖カリスマ書店員」として知られ、雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする、代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ・間室道子。
本連載では、当店きっての人気コンシェルジュである彼女の、頭の中にある"本棚"を覗きます。
本人のコメントと共にお楽しみください。
 
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『本と鍵の季節』
米澤穂信/集英社
 
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主人公は男子高校生の松倉と堀川で、どちらも図書委員。おヒマな活動(残念なことだがイマドキ「本を利用しよう!」という学生は少なく、図書室はいつも閑散としていて少ない作業を終えてしまうと彼らにはやることがない。ヒマつぶしで「古今東西題名しりとり」をしようかと言い出すくらいだ!)のあいだに持ち込まれるのは、学園の内外で起きた謎である。

コンビが登場する推理ものってシャーロック・ホームズとワトソン的になりがちで、片方は天才で片方は助手役とか、片方はラストで正しい推理を披露し、片方は物語の途中で的外れなことを言いまくるとか。本書が稀有なのは、二人とも頭がいいことだ。彼らは互いを認め合っており、対等に推理する。そのうえで、性格やアプローチの仕方が違うのが読みどころ。

松倉はクール、堀川は巻き込まれ型。というわけでだいたい堀川に話が持ち込まれる。彼が依頼者に頼りにされているのか、「この人なら“私が言ってないこと”まで探り当てたとしてもどうにでもできる」とナメられているのか、ビミョウなのが面白い。

また、皮肉屋の松倉は依頼人のことも持ち込まれた謎もすべて疑ってかかる。依頼者はとどのつまり俺たちに何をさせようとしているのかと考えるのである。堀川は相手の言うことに飲み込まれてみる。そして内側から、依頼者がついた嘘の見過ごせない部分や切ない理由を掴む。

いわゆる学園ミステリの「謎は謎だがたわいなく、誰も傷つけない」ではなく、彼らが挑むのは「謎を残して死んだ祖父の金庫を開けてほしい」とか「自殺した三年生が最後に読んでいた本を見つけ出したい」というシリアスな依頼で、結末には苦みが漂う。

本を閉じて、主人公のふたりに感じることは、「どっちがタイプか」とか「よく真相を言い当てたなあ、感心感心」ではなく、友達でいろ!ということだ。

堀川の持っていた美容室の券に「ご友人を紹介いただくと、カット料金四割引き」とあり、松倉と散髪に行く話があったり、自殺した三年生の事件で「クラスメートが残したものを自分ならどうするか」と緊迫した議論を交わす場面もある。でも、本書のラスト二行目――「僕は友を待っていた。」

このシンプルな、心からの言葉は、読者を掴む。待ち人よ来い、友達でいろ!と誰もが願わずにはいられない。

青春ものって、学校が舞台だとか出てくるのが十代だとかにくくられがちだけど、読み手の心を若々しくする、それが青春小説の醍醐味だ。彼らと同年代はもちろん、大人にもおススメの一冊。
 
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代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ
間 室  道 子
 
【プロフィール】
雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする「元祖カリスマ書店員」。雑誌『婦人画報』、『Precious』、朝日新聞デジタル「ほんやのほん」などに連載を持つ。書評家としても活動中で、文庫解説に『タイニーストーリーズ』(山田詠美/文春文庫)、『母性』(湊かなえ/新潮文庫)、『蛇行する月』(桜木紫乃/双葉文庫)、『スタフ staph』(道尾秀介/文春文庫)などがある。

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