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【第26回】間室道子の本棚 『夜のふたりの魂』 ケント・ハルフ/河出書房新社

~代官山 蔦屋書店文学コンシェルジュが、とっておきの一冊をご紹介します~


「元祖カリスマ書店員」として知られ、雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする、代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ・間室道子。
本連載では、当店きっての人気コンシェルジュである彼女の、頭の中にある"本棚"を覗きます。
本人のコメントと共にお楽しみください。
 
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『夜のふたりの魂』
ケント・ハルフ/河出書房新社
※画像をクリックすると購入ページへ遷移します。
 
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70歳のアディーはある日、近所の同年代の男性・ルイスの家を訪ねる。「ちょっと、ご提案があって」と言って。

提案とは、「時々私の家に来て、一緒に寝てくれないか」というものだった。セックスのことを言っているのではない。もうだいぶ前にそんな気分にはならなくなった。ただ、夜を乗り切りたい。眠れない夜、誰かがベッドで隣にいてくれたら。そばにいて、お話ししてくれたら、と言葉を重ねる彼女。

妻、夫を亡くして今はひとり身同士の男女は、こうして同じベッドに入ることになる。初めての夜の、ルイスの身支度の仕方に品がある。また翌日アディーの家を出た彼が具合が悪くなってしまうのも、高齢ゆえというより十代の少年の緊張の初デート後のようでほほえましい。

近所の人たちに深夜や早朝の出入りを見られ、「夫婦でもないのに!」と顰蹙を買う。だがふたりは堂々とし続ける。何人か味方もおり、彼らより高齢の82歳のルースがすごくいい。

さまざまな体験をしてきた人だけが持てる度量、若い頃、この狭い町を出て行けなくて今もじりじりしている感じ、独特のユーモア。読者はルースがいてくれることに感謝するだろう。この物語に、アディーたちとともに。

ベッドの中で、アディーとルイスは話す。彼の過去の女性たち、彼女の悲劇的な思い出、外で会おうという約束や、互いへの気持ち。

アディーには、離れて暮らしている息子ジーンがいた。彼にはトラウマがあり、そのせいで6歳になる自分の子供ジェイミーを愛せない。夫婦間もうまくいかなくなり、不安定になったジェイミーを祖母であるアディーが預かることになる。

夜中に悲鳴をあげる孫を心配し、いつくしみ、アディーはルイスとベッドインしている真ん中に孫をおき、三人で眠りにつく。この場面はどんな家族より家族だと思えてくる。

高齢期を迎えた現代の男女のあり方、住み方が切なく描かれた傑作。ラストの静かであらたなる始まりの予感がすばらしい!
 
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代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ
間 室  道 子
 
【プロフィール】
雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする「元祖カリスマ書店員」。雑誌『婦人画報』、朝日新聞デジタル「ほんやのほん」などに連載を持つ。書評家としても活動中で、文庫解説に『タイニーストーリーズ』(山田詠美/文春文庫)、『母性』(湊かなえ/新潮文庫)、『蛇行する月』(桜木紫乃/双葉文庫)などがある。
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