【第18回】間室道子の本棚 『ブラック・スクリーム』 ジェフリー・ディーヴァー/文藝春秋

~代官山 蔦屋書店文学コンシェルジュが、とっておきの一冊をご紹介します~


「元祖カリスマ書店員」として知られ、雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする、代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ・間室道子。
本連載では、当店きっての人気コンシェルジュである彼女の、頭の中にある"本棚"を覗きます。
本人のコメントと共にお楽しみください。
 
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『ブラック・スクリーム』
ジェフリー・ディーヴァー/文藝春秋
 
 
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シリーズものって「おなじみさんが出てくるだけで満足」という読書になりがち。しかしこのリンカーン・ライムシリーズは、13作目にしてフレッシュな魅力を保ち続けている。

それは、作者ディーヴァーがミステリの「誘拐ものの常識」をひっくり返したことにあると思う。誘拐小説は、読者に犯人の手ごわさを知らしめるため最初はどうしたって誘拐犯が有利で、警察はなすすべもなく身代金が奪われたり被害者が死んだりする。犯人確保の作戦がとられても、最初の30ページぐらいだと読者は「どうせ失敗するんでしょー」と気持ちが逸れたり、いらいらして本をブン投げたくなったりする。

ところが本シリーズでは、まず、さらわれそうな人がさらわれず、いかにもカモになりそうな人物が無事で傍にいた人が急に事件に巻き込まれたりするので1ページたりとも気が抜けない。また、犯行が初期の段階で見破られ、被害者が助かるものも多い。リンカーン・ライム、すごいぞ!と早くから痛快な気分になれるのである。

一方犯人は早い段階で自分を追う者の優秀さを知ることになり、復讐に燃えたり狡猾さを深めたりする。また「あっ、今回最初の被害者死んじゃった!」ももちろんある。これがディーヴァー流の「警察側が手をこまねかなくても成立する、誘拐もののスリル」なのだ。

シリーズ1作目『ボーン・コレクター』で登場したリンカーン・ライムは元NY市警の名捜査官で、脊髄損傷のため首から上と左のひとさし指1本しか動かせない。それでもハイテク機器をそろえた自室を市警の臨時捜査本部とし、のちに恋人となる女性刑事アメリアを手足のように使って犯人を追いつめていく。本書『ブラック・スクリーム』では、手術と懸命なリハビリで右手と右腕が動かせるようになっているが、それでも「ライム、イタリアへ」と聞いて、驚くファンも多いだろう。

NYで起きた異常な誘拐事件――自作の音楽とともに瀕死の被害者を動画にアップ――の犯人を追って、ライムは介護士トム、そしてアメリアとともに、ナポリへ行く。

犯人以上にリンカーンたちを悩ませるのはイタリアの捜査機関からの邪魔者扱い、そして文化の違いだ。捜査に加わるナポリの森林警備隊の青年がナイスキャラで、まず捜査中でも「ランチのテイクアウト」は論外で、きちんとレストランで座って食べよう、と譲らない。また、アメリアの暴走運転を体験した翌日、酔い止め薬を準備してきたのがカワイイ。

イタリアでも次々起こる誘拐と動画アップ。またアメリカ領事から調査を依頼されたもうひとつの事件とは?

「ページをめくる手が止まらない」という言葉は、このシリーズのためにある!
 
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代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ
間 室  道 子
 
【プロフィール】
雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする「元祖カリスマ書店員」。雑誌『婦人画報』、『Precious』、朝日新聞デジタル「ほんやのほん」などに連載を持つ。書評家としても活動中で、文庫解説に『タイニーストーリーズ』(山田詠美/文春文庫)、『母性』(湊かなえ/新潮文庫)、『蛇行する月』(桜木紫乃/双葉文庫)、『スタフ staph』(道尾秀介/文春文庫)などがある。

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