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【第1回】代官山絵本通信 『家をせおって歩く美術家の絵本』

2018年、福音館書店の幼年誌『たくさんのふしぎ』に掲載された『家をせおって歩く』が「かんぜん版」として絵本になりました。美術家の村上慧(むらかみさとし)さんの手作りの白い家を背負って日本中を移住する生活が手書きのイラストや写真と一緒に紹介されています。

家や生活について見つめなおす機会が増え、ふと村上さんが家をせおって歩く姿が思い浮かびました。「当たり前」や「普通」が分からなくなった時、村上さんの活動を見聞きすると、自分だけのヒントが見つかるような気がしています。

今回は、美術家・村上慧さんの活動と著書をご紹介します。

  

村上さんは、建築を学び「住居」や「生活すること」をテーマに作家活動をしている中で、2011年の東日本大震災をきっかけに家を背負って歩くプロジェクトをスタートさせました。
発泡スチロールでできた人ひとりが入る家をせおって寝泊まりすることは、歩いて行った先で、その土地の人々に交渉し敷地を借りて寝泊まりしながら、1年間に何十回も引っ越しすることになります。スタートもゴールもなく、歩くこと自体が目的ともいえる村上さんの活動を一言で説明するのは大変です。本当の意味での「公共空間」が少ない日本では様々な問題にぶつかります。

例えば、家を一晩置くための敷地探しをしているとき、敷地の所有者や公園の管理人、警察官が家の説明を求めます。しかし、理解してもらうことは少なく、許可がもらえず一晩中寝泊まりする場所を探すこともあるそうです。「みんな」のための公園や広場のはずなのに、「みんな」って誰のことなのだろう、という疑問が浮かんできます。

また村上さんは、働いて手に入れたお金の半分を家賃に費やさなければいけない社会のシステムに疑問を持ちます。
昔は誰のものでもなかった土地を「所有」したり「借り」たりするとはどのようなことなのか、人々が生活するために必要な、お金と土地の決まり事が本当により良い暮らしのためのものなのか、土地や家賃に拘束されない家を背負って歩くことで社会の理不尽さや矛盾が浮き彫りになります。

村上さんの活動を知ると、「普通」や「当たり前」という言葉の居心地の悪さに気づかされます。村上さんの家は、「普通」や「当たり前」に縛られずにその人にしか出来ない社会との関わり方があることを私たちに教えてくれているのかもしれません。
 
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一見分かりにくいものや、直接何かの役に立たないことでも、その背景には様々な影響や想いが詰まっていることがあります。『家をせおって歩く・かんぜん版』で紹介されている家の内部やより良く過ごすための工夫は外から見ただけじゃ分からないことばかり、韓国とスウェーデンを旅歩いた様子は日本との文化の違いが良く分かります。

村上さんの家は、知れば知るほど驚きと発見があり、あの家に遊びに行ってみたい、自分も家に寝泊まりしてみたいというわくわくした気持ちにさせてくれます。

正しい暮らし方はひとつではないし、まして人に決められるものではありません。『家をせおって歩く かんぜん版』は、みんなの「普通」に疑問を持ち、だれかの「普通」を守るための勇気と好奇心の絵本です。
  
「村上さんにスケッチしていただいた代官山 蔦屋書店」

記事「『家をせおってあるく』が届くまで 第10回」(https://www.fukuinkan.co.jp/blog/detail/?id=308)
代官山蔦屋書店では『家をせおって歩く かんぜん版』の他に、2014年4月から約1年間の村上さんの活動日記をまとめた『家をせおって歩いた』(夕書房)の貴重なサイン本も数量限定でご用意しています。この機会にぜひお買い求めください。

キッズコンシェルジュ
石山雄紀
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