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【第2回】代官山絵本通信 『斉藤倫の物語』

キッズフロアでは長らく休刊でした「絵本通信」を再始動いたします。
読み物を中心に、テーマごと、作家さんごとにスタッフのおすすめタイトルをご紹介するフリーペーパーです。みなさまの児童書選びの一助となれば幸いです。

今回のテーマは「斉藤倫の物語」です。
詩人が書いた初めての児童書という『どろぼうのどろぼん』は、一目ぼれならぬ一読して児童書の読み物の世界にすごい作家さんが現れたと嬉しくなるような作品でした。
心のどこかにチクリと刺さるようなテーマを扱いながらもその読後感の豊かさ、温かみは思い返してもまだじんわりと熱を持っています。

それ以降、次回作をいつも心待ちにしているのですが、2019年の春に刊行された『ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集』は児童書の世界を飛び越えて、たくさんの大人の心をも掴んだ作品です。書店のSNSはもちろん、様々なメディアで取り上げられ、この本を紹介する方の熱量といったら、こちらも驚くほどでした。

どこを抜き書きしても素敵になってしまう言葉の魅力に加えて、カテゴリーが限定されない不思議な成り立ちで、私にとっては物語だけど誰かにとってはアンソロジーだろうし、詩の味わい方を教えてくれる本でもあります。こんな風に児童書という型からするりと抜け出したような軽やかさも「いいものはいい」と言うしかないのです。
斉藤倫は作品ごとに新たな魅力を放つ一方で、変わらない芯のようなものがあることがこの絵本通信の作成過程でくっきりと浮かび上がってきました。
 
斉藤倫の物語に登場するのは、人々に忘れられたモノたち、自分の居所から動くことができないとうだい、この世界のどこかでショブンされるのを待つ犬…

どれもみな、日の当たる場所で順風満帆な人生を過ごしているわけではありません。

もちろん、モノたちはその声を聴くことができる"どろぼん"によって救い出され、とうだいは渡り鳥たちに自分の役割を教えられ、犬はやさしい飼い主と出会うのだけれど。

そういったものたちのお話は、完璧でない世界や完全でない自分にそっと寄り添い、これは「私の物語」だと思わせてくれます。

それは物語を紡ぐために選び取られた言葉はもちろんのこと、選ばれなかった膨大な言葉にも作者の眼差しが注がれ、それらの言葉のことを決して忘れていない、そんな気がするからでしょうか。
すべてを語りつくさない(きっとそう決めているに違いない)ことによって生まれる物語の隙間や余白を楽しみ、心で直接物語を受け止めれば、理屈を超えて「わかる」瞬間がきっと訪れます。

物語を読み終えて本を閉じたとき、ほろ苦いオレンジピールがチョコレートの甘さを引き立てるように、切なくも何ともやさしく温かい気持ちにみたされ、今まで目もむけなかったところにちょっといじけた自分を受け入れてくれる誰かがいることに気付けるかもしれません。
 

キッズコンシェルジュ
瀬野尾 真紀
 
 
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【プロフィール】 斉藤 倫 (さいとう・りん)
1969年生まれ。詩人。2004年『手をふる 手をふる』(あざみ書房)でデビュー。14年初の長編物語『どろぼうのどろぼん』で日本児童文学者協会新人賞、小学館児童出版文化賞を受賞。他に『クリスマスがちかづくと』(福音館書店)絵本『はるとあき』(共作 うきまる・絵 吉田尚令/小学館)などがある。また『えーえんとくちから 笹井宏之作品集』(PARCO出版)に編集員として関わる。
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