【第1回】代官山映画オヤジの部屋『平成を代表する映画~邦画編~』

皆様、今回ブログの連載を始めさせていただくことになりました、映画オヤジこと吉川です。代官山 蔦屋書店1号館2階の映像フロアの住人です。改めましてよろしくお願い致します。

 
さて、記念すべき第1回目のお題は、【平成を代表する映画】としました。まもなく新元号が発表され、終わろうとしている平成とは?映画にとってどんな時代だったのか?

平成とは西暦で言うところの1989年から2019年。30年前の映画はオヤジにとっては、比較的最近の映画ですが、若い方には大昔の作品となるでしょう。その間映画界は成長したのでしょうか?
ちょっとだけその30年間を俯瞰(ふかん)してみましょう!

連載第1回目は、その平成30年を駆け抜けたふたりの日本の映画監督にスポットを当ててみたいと思います。
まず一人目は北野武監督です。

平成元年の8月に封切られた北野武第1回監督作品『その男、凶暴につき』の衝撃は形容しがたいものでした。いわゆる撮影所育ちやTVなどの映像業界出身の映画監督にはない自由な発想と過激なバイオレンス描写に多くの観客は度肝を抜かれました。
 
その男、凶暴につき
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しかし、簡単に言うと北野監督が凄いところは、そこから先です。そこからの30年間なのです。
異業種監督に必ずついてくる一部の批判を受けながらも、継続して作品を発表できるパワーと才能があったのです。

異業種監督の多くはその継続性を維持できず、何作かは評価されるものの次回作が待たれる“映画監督”にはなり得なかったのです。しかし北野監督はその継続が日本より海外での評価を高め、ついに『HANABI』でベネチア国際映画祭金獅子賞を獲得したのです。
 
HANABI
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キタノ・ブルーと称される独特の色合いの画面から醸し出される哀愁と暴力は唯一無二の存在となりました。そして忘れてはならないのは、その北野監督が見出した大杉蓮という俳優のことです。まさに、この30年間を突っ走り燃え尽きた平成を語る上に欠かせない名優と言えるでしょう。

北野監督に育てられた俳優は、他にも寺島進など多数いますが、その俳優を語る機会は別に設けましょう。

映画オヤジとしては大成した北野監督が、多くの馴染みの俳優陣と共に楽しげに作り上げた『アウトレイジ』3部作よりも、監督自身が生まれ育った東京の片隅での青春像が描かれた『あの夏、いちばん静かな海』や『キッズ・リターン』の方が、実は好きなのです。
 
あの夏、いちばん静かな海
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キッズ・リターン
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東映がヤクザ映画を作れなくなったため、『アウトレイジ』を作った北野監督でしたが、無事に『孤狼の血』ができた今、もうヤクザ物は卒業して、新しい元号の年にはまったく違う(例えば恋愛もの)ジャンルの映画を撮ってもらいたいですね。
 
 
 
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もう一人は是枝裕和監督です。
平成を代表するだけではなく、日本を代表する監督になってしまいました。

是枝監督のデビューは平成7年、1995年です。作品は『幻の光』でした。カンヌ映画祭に初出品したのが2001年の『DISTANCE』から、そこから17年の後、カンヌ映画祭最高賞であるパルムドールに『万引き家族』という作品でたどり着きました。
 
幻の光
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DISTANCE
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TVドラマ『寺内貫太郎一家』や映画『三丁目の夕日』に見られる家族形態はいわゆる昭和のもの。平成ではいわゆる核家族が進化し、家族の崩壊の後には【個人】の存在しかないとして、是枝監督は『誰も知らない』という傑作を2004年に世に出しました。
 
『誰も知らない』
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そこから是枝監督の日本の(平成の)家族像を見つめ続ける作業が始まります。

歩いても、歩いても』『海よりもまだ深く』の2作における母と息子役はいずれも樹木希林と阿部寛。映画オヤジはこの阿部寛の役に自分を投影して身につまされたのです。
 
『歩いても 歩いても』
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海よりもまだ深く
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そう、是枝監督の作品はいつも登場人物の誰かに観客それぞれが自分を投影する役を見つけることが出来るという特徴があるのです。
空気人形』に出てくるビデオレンタル屋の店長は映画オヤジそのものでした。
 
空気人形
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もうひとつの是枝監督作品の特徴はオリジナルストーリーであることです。平成の日本映画界に染み付いてしまった悪癖はコミック原作、ベストセラー小説の映画化という知名度優先にこだわって生まれたのです。是枝監督がそうではない映画で世界を制したことは、なんとも皮肉な結果と言えるでしょう。

原作が存在する作品としての最高作は『海街diary』でしょう。家族を失って【個】で生きていかなければならなくなったすずという少女を引き取った3姉妹の1年の物語は、豪華な出演女優陣と共に新たな忘れられない是枝家族映画になりました。
カンヌを制した『万引き家族』は、その【個】が寄り添うことで、血では結びついていない家族を作ろうともがく人間たちを見つめています。画面は決して登場人物たちに必要以上に近づきません。その被写体との絶妙な距離感こそが是枝文学とも言える映像としての文体となっているのです。
 
海街diary
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SEKAINO KOREEDAとなってしまった監督の新しい元号での新作は、日本映画ではなくフランス映画だそうな。もう日本の家族は描ききったということになると、それはそれでちょっと悲しいと映画オヤジは思うのでした。

次回は【平成を代表する映画~洋画編~】です。
 
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代官山 蔦屋書店 映像担当コンシェルジュ
吉 川  明 利
 
【プロフィール】
小学校6年で『若大将』映画に出会い、邦画に目覚め、中学3年で『ゴッドファーザー』に衝撃を受け、それからというもの"永遠の映画オヤジ"になるべく、映画館で見ることを基本として本数を重ね、まもなく47年間で10000本の大台を目指せるところまで何とかたどり着く。2012年より代官山 蔦屋書店映像フロアに勤務。

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