「私だけのものと出会う」フェア 大橋利枝子さんインタビュー(前編)
スタイリストである大橋利枝子さんは「fruits of life」というご自身のブランドで、選んだ衣服と暮らしまわりのものを提案しています。「たくさんのものは作りません。心から大切に思えるものだけを少しだけ。」という想いのもとに、素敵なものづくりをされており、2月22日(土)から3月2日(月)の期間、二子玉川 蔦屋家電のフェア「私だけのものと出会う」にご協力いただきます。雑貨MDチームの山森がお話をお伺いしました。
山森:今回のフェアについて、まずはお受けいただきありがとうございます。フェア出展の依頼を受けたときの率直な感想をお聞かせいただけますか。
大橋:企画書を読ませていただき、面白そうだなと思いました。
山森:そういっていただけると嬉しいです、ありがとうございます。蔦屋家電にいらっしゃったことはありますか?
大橋:いえ、ありませんでした。もちろん、テレビや雑誌などで見たことはあったので、どのような雰囲気のお店なのかは知っていました。
山森:そうでしたか。私は蔦屋家電で販売している雑貨の品揃えなどを決める仕事をしていますが、今回のフェアでは、「本当にやりたいこと」(つまり、「私だけのもの」)をどうにかして実現させたいと強く思っており、ずっと憧れていた大橋さんにご連絡をさせていただきました。
大橋:そんな大げさな……(笑)。素敵な企画にお声がけいただいて、嬉しいです。
山森:今回のフェアは「私だけのものと出会う」というテーマですが、その言葉を聞いたときに大橋さんの中で思い浮かんだものはありますか?
大橋:そうですね……何でしょう。やはり、「大切にしたいもの」「大事にしたいもの」というイメージですかね。
山森:なるほど。あとは限定的なものや、少し古いもの、アンティークやヴィンテージというような意味を連想する方が多いと思いますが、確かに「大事なもの」という意味にも捉えられますね。大橋さんの中で「大事なもの」とは何でしょうか?
大橋:「大事なもの」というか、「大事にしていること」があります。それは、自分が作っている服を大切に着てもらいたい、ということです。そんな想いを込めながら服を作っています。私含め、皆さんそうだと思うのですが、「これでいいや」と適当に買ったものってぞんざいに扱ってしまったりしませんか?
山森:はい。とても耳が痛いです……。
大橋:例えば洋服だったら、ハンガーにかけないでポイって投げて、そのまま放置してしまったり。大切な服だったら、すぐにハンガーにかけるじゃないですか。食器も乱暴に扱って割ってしまったり。大切なものだったら、そういうことはしないですよね。自分が作った服がそういう存在になるのは悲しいので、丁寧に扱ってもらえる、大切に着てもらえる服を作りたいなといつも思っています。
山森:作り手の想いがちゃんと込められているものは手に取ったときの重みが違うと感じます。私はものを作る側ではなく、店で販売するものを選ぶ側ですので、余計にそう感じるのかもしれません。私の仕事は、たくさんのものの中から、大事な想いが込められているものを見つけ出す仕事かなと思います。
大橋:そうですね。やはり、工場で大量生産しているものには手仕事の温かみはないけれど、ひとつひとつ大切に作られているものからは温かさを感じます。
山森:大橋さんが服を作るとき「大切に着てもらいたい」という想いのほか、意識されていることはありますか?
大橋:「女性を美しくしたい」という想いがベースにあります。気に入った服を試着したとき、必ず顔がパーッと明るくなるでしょう?そういう瞬間がやっぱり嬉しい。女性の表情を明るくすることができる服を作っていきたいなと思っています。
山森:もともとスタイリストとして活動されていましたが、服を作ろうと思ったきっかけは何でしょうか。
大橋:「fog linen work」で服のデザインをしないかと誘われたのがきっかけですね。そこで、6年間経験を積みました。学生時代は服を作る勉強をしていたのもあり、「fog linen work」を経て、より自分が作りたいものが明確になっていきました。そして、「fruits of life」をスタートするに至りました。
山森:ずっと服に関わる仕事をされている中で、「想いをもって作る大切さ」を感じたエピソードはありますか?
大橋:そうですね……。お客様が試着して、例えば「この服を着ると痩せて見える」と感じたり、ちょっといつもより自分が素敵に見えると思ってもらえたら嬉しいなと思います。あとは、おしゃれをすることが楽しいって思ってもらえたり…。忙しいととりあえずこの服でいいやという気持ちで買っちゃうでしょう?寒いからセーターを買おうとか。でも、私の作った服を前にして、「これを着てどこに出かけよう」と楽しいイメージを膨らませてもらえたら嬉しいなと思っています。
山森:なるほど。確かに服にはそういうパワーがありますね。
大橋:私のアトリエにお買い物に来てくださったお客様の話を思い出します。家族の看病が大変で、おしゃれから少し遠のいてしまっていたようなのですが、アトリエに並んだ服を見て感動してくださいました。そのとき「やっぱり楽しいですね、おしゃれって」と言ってくださったんですよ。しかも、後日談として、その方のお嬢様に「いいじゃない」と言ってもらえて嬉しかったとご連絡をいただきました。それを聞いて、私までとても嬉しくなりました。
山森:手に取ってくれたお客様の顔が見える嬉しさってありますよね。
大橋:そうそう。いいなあって思って。接客するのも楽しいじゃない。
山森:もの選びのプロフェッショナルとして、「ものを見る目」の養い方を教えていただけませんか?「どうしたら、素敵なものに囲まれて暮らせるのだろう」とお悩みの方も多いと思います。
大橋:やっぱり、いろいろ見ることと、買って使ってみることですかね。
山森:やはり、そうですか!
大橋:使わないと良し悪しは分からないですよね。服も着ないと分からない。
山森:雑貨MDとしてものを選んでいくに当たって、「どういう視点を大切にしたらいいのだろう」「何を軸に考えたらいいのだろう」と、日々悩んでいます。お客様もきっとそうだと思います。「ああ、これかわいい」「ほしい」と思っても、まず必要かどうかというところに立ち返る。必要か否か以外の視点で、どう選んだらいいのだろうか、と。
大橋:そうですよね。流行のものや人気があるものから、ものを選ぶこともあると思います。いきなり、自分しか知らないものを選ぶのは難しいじゃないですか。インスタグラムで周囲がシェアしているものが「欲しい」という気持ちはみんなあると思いますし。
例えば雑貨だと、流行しているものには元となった「本物」があって、それを真似して作る人がいっぱいいるから、「偽物」がある。そうすると、真似したものを間違って手に取ってしまい、それが本物だと思ってしまいます。だから、色々見た方がいいんです。
山森:「本物」を知らないと、「偽物」も見抜けませんよね。
大橋:そう。同じようなものでも、色々な種類があると、実物を見ないことには分からない。画像だけ見ていても分からないから、実際に手に取って見るということが大切だと思います。値段が高くて買えなくてもいいの。お店に行って見るだけでも、全然違いますから。見ないと良いも悪いも分からないと思います。
山森:本当にそう思います。やはり手に取って、見て、感じないと。
大橋:知識がない段階だと分からないから、手頃なものを買いますよね。洋服の場合、着てみると着心地が悪くて、やはりこれは駄目だと気付く。雑貨もそれと同じだと思います。はじめのうちは手頃なものを買って、使って、駄目だ、を繰り返して、次の段階に上がっていけばいい。だんだん、見れば良し悪しが分かってくるようになります。失敗を繰り返しながら分かってくることは必ずあります。いきなり見る目は養われません。
山森:自分に似合う服を選ぶのは特に難しいと感じています。それもやはり失敗を繰り返せば分かるようになってきますか?
大橋:そうですね。雑貨は自分に似合うかどうかではなく、好きかどうかということだけなので、選びやすいですよね。でも、洋服の場合は、自分に似合うかどうかという問題が生じてきますから……。トライ&エラーを繰り返すしかないでしょうね。
山森:やはり、試してみることが大事ということですね。
大橋:自分の好きなものって、学生の頃とあまり変わらなかったりしませんか?
山森:はい、すごく分かります。
大橋:人生の中で大きくは変わらないので、自分の好きなものの中から選んでいくのがよいかもしれませんね。他にも、お店の人の意見で選ぶというのもひとつの手法です。家族や友達、第三者の意見を聞いてみる。「こういうの似合うんじゃない?」と言われたら、「いやいや、私はそんなの似合わない」と試さないのではなく、とりあえず試着してみることで、新しい発見があるかもしれません。
山森:ありがとうございます。後編では、二子玉川 蔦屋家電で展開する商品のお話をお伺いします。
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