【イベントレポート】 実現されなかった「夢」と引き継がれたアイデア 「安藤忠雄 挑戦」建築家 安藤忠雄ポートフォリオ最新作『ANDO BOX Ⅴ』発表・展覧会

『中之島プロジェクトⅡ【地層空間】』
 
 
2019年6月11日、建築家・安藤忠雄氏のポートフォリオシリーズ第5弾『ANDO BOX V』(アマナサルト)の刊行を記念して、銀座 蔦屋書店で安藤氏のスペシャルトークイベントが開催された。
 
2014年に第1弾となる『ANDO BOX The 1st Round [drawings]』が刊行されてから5年、今回は大阪の中之島を舞台に、1980年代末に構想されたアンビルトの代表作『中之島プロジェクトⅡ【地層空間】』に焦点をあてた。
 
中之島とは、大阪中心部を流れる川の中州であり、両側を川に挟まれた島内には市役所や図書館、公会堂など、旧くから地域の文化、行政の中枢を担う施設が建ち並ぶ。『中之島プロジェクトⅡ【地層空間】』は、この島全体を一大文化ゾーンとする構想である。
 
パリの中心部を流れるセーヌ川の中州・シテ島にも例えられる中之島の地理的、文化的ポテンシャルを最大限に活かしながら、文化施設を充実させる手段として、安藤氏は新たな施設の建設を地上ではなく、すべて地下に行うことを提案した。
このプロジェクトに関して、安藤氏は次のようなコメントを寄せている。
 
「既存の歴史的景観、緑溢れる都市公園の雰囲気はそのままに、島そのものを文化複合体へと再生する――誰に頼まれたわけでもない、自主提案であったがゆえに、構想はどこまでも膨らんだ。『〝夢〟だからこそ』と現実の仕事以上に、力を込めて2つのドローイングを描いた」
 
 
 
 
6人で半年かけて描いたドローイング
 

『ANDO BOX V』は、高品質ポートフォリオや写真集の企画、出版を手掛けるアマナサルトが最先端の技術と職人の技を結集し、安藤氏とスタッフが1970年代に手描きで製作した長さ10メートルのドローイング2枚を高精細プリントで再現したもので、同プロジェクトの模型も含まれている。
 
イベント当日は、中之島を上空から捉えた平面図と地下空間の断面図、それぞれ長さ10メートルのドローイングが特設の壁面に掲示され、圧倒的な存在感を放っていた。
 
トークイベントでは、安藤氏がこのドローイングを描いた当時を振り返った。
 
「このドローイングを近くで見て頂いたらわかりますが、白い線を残しながら塗っています。学生や事務所のスタッフと私、総勢6人ほどで半年かけて描きましたが、もう1回頼みたいと言っても、彼らは2度ときません。あんなしんどいのはもう嫌だと(笑)」
 
会場では笑いが起きたが、高精細プリントによって原画そのままに表現された一本一本の細かな線が連なって10メートルもの長さのドローイングになっていることを考えると、半年間の苦労とそれを成し遂げた情熱がうかがえる。
 
 
 
 
直島とフランスで花開いた構想
 

安藤氏もコメントで触れているように、『中之島プロジェクトⅡ【地層空間】』は自主提案であり、「夢」だった。実現されることはなかったが、そこで発見されたアイデアは、後に別のプロジェクトで開花する。安藤氏が明かす。
 
「地上は公園にして、ほかはぜんぶ埋めてしまえということで地下に美術館、博物館、図書館をと考えたのが【地層空間】でした。直島の地中美術館は、ここからスタートしているわけです」
 
安藤氏の設計で2004年にオープンした地中美術館は、瀬戸内海の風景と自然を損なわないようにという配慮から、建物の大半が地中に埋設された。この建築の原点が、【地層空間】にあった。
 
【地層空間】と同時に発表された、島の歴史的建造物のひとつ、1918年につくられた中之島公会堂の改造計画『中之島プロジェクトII【アーバン・エッグ】』もまた、その後の安藤建築の展開につながる重要な意味を持つプロジェクトである。
 
「古い建物の中に新しいものを入れるということを考えたのも、地層空間と同時に中之島で考えた『中之島プロジェクトⅡ【アーバン・エッグ】』でした。建物の外郭はそのままに、内部に卵型のシェルに包まれた新たなホールを挿入する。実現はしませんでしたが、ここで試みた新旧の入れ子構造のコンセプトが、現在、パリで進行中のブルス・ドゥ・コメルスの建築に生きています。」
 
「ブルス・ドゥ・コメルス」(商品取引所)は19世紀に建てられた円形の建物で、ドーム形の屋根を持つ。安藤氏は、この建物を活かして内部に円筒状の展示空間を設けた。そのアイデアの萌芽を、1980年代末のアンビルトのプロジェクトに見て取れる。〝コンセプトの一貫性〟という安藤建築の特質を考える上で、非常に興味深い事実だ。
 
安藤氏の解説によって【地層空間】の持つ意味やポテンシャルが明らかになり、安藤作品への関心がより高まったのだろう。トークの後、会場に用意された『安藤忠雄の建築』シリーズ(TOTO出版)などの著書はほぼ完売。また、安藤氏自身が撮影した写真によるポートフォリオ集『ANDO BOX Ⅲ』も好評だった。
 
 

 
【プロフィール】
安藤 忠雄(あんどう ただお)
1941年大阪生まれ。独学で建築を学び、1969年安藤忠雄建築研究所設立。代表作に「光の教会」「ピューリッツァー美術館」「直島・地中美術館」など。1979年「住吉の長屋」で日本建築学会賞、1993年日本芸術院賞、1995年プリツカー賞、2005年国際建築家連合(UIA)ゴールドメダル、2010年ジョン・F・ケネディーセンター芸術金賞、後藤新平賞、文化勲章、2013年フランス芸術文化勲章(コマンドゥール)、2015年イタリアの星勲章グランデ・ウフィチャ―レ章、2016年イサム・ノグチ賞など受賞多数。1991年ニューヨーク近代美術館、1993年・2018年にパリのポンピドー・センターにて個展開催。イェール、コロンビア、ハーバード大学の客員教授歴任。1997年から東京大学教授、現在、名誉教授。
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