【イベントレポート】メキシコ拠点の美術家・岡田杏里、大型作品お披露目:個展『El yo y el Yo』オープニング
1月15日〜2月4日、銀座 蔦屋書店のGINZA ATRIUMにて、メキシコと日本で活動する若手美術家・岡田杏里氏の個展『El yo y el Yo』(エル・ジョ・イ・エル・ジョ:わたしとわたし)が開催された。オープニングイベントでは、新しい大型サイズの作品が正式にお披露目された他、精力的に準備してきたという岡田氏が本個展への思いやメキシコにまつわるエピソードを笑顔で語った。
※本記事は、約30分のイベントの内容を一部抜粋・再編集したものです。
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メキシコで大穴に落下 窮地の出来事で“黒"を発見
MC:本日の主役、岡田杏里さんにご登場いただきます。
岡田杏里氏(以下、岡田):こんばんは。本日はお集まり頂き、本当にありがとうございます。
MC:それではご挨拶お願いします。
岡田:この日を無事迎えられて、ホッとしています。と言いますのも、この個展のために二日間徹夜して、必死に準備してきました。それまでは「どうなるのかな」と不安でした。一方、この素敵な場所で展示をさせて頂けることが自分自身楽しみで、これまでの展示よりも良いプレッシャーを感じました。来てくださった皆様に楽しんで頂ければという思いがあり、(作品を)生み出す苦しみも味わいながら、今日という日を迎えられて本当に嬉しいです。
MC:今回の個展のポイントも教えて下さい。
岡田:今回は作品点数がとても多いです。日本とメキシコを行ったり来たりしながら制作してきた作品の数々です。一点一点に物語があります。気になる作品があれば、ぜひ私にお話を聞かせて下さい。メキシコでは壁画を専門に制作していて、後ろにある大きな絵はメキシコシティで描きました。作品をメキシコから日本へ持ってくるのは大変でしたが、無事持ってくることができました。
MC:お疲れの上、緊張していらっしゃる岡田さんの心強い助っ人として、今回当社から発行している作品集『Paintings by Anri Okada 岡田杏里』にご寄稿頂いている、川崎市岡本太郎美術館の元学芸員で、現・京都場ギャラリーのディレクターの仲野泰生様にお言葉を頂戴したいと思います。
仲野泰生(以下、仲野):皆さん、こんばんは。そして杏里ちゃん、おめでとうございます。凄く楽しい、メキシコ的な、ラテン的な空間で本当に素敵ですね。
岡田:ありがとうございます!
仲野:私はメキシコで、メキシコの国立大学に在籍中の杏里ちゃんと出会いました。芸術家の岡本太郎がなぜメキシコに惹かれたのか現地で調査する私も、すっかりメキシコに惹かれてしまった一人ですが、杏里さんに出会った時、メキシコの熱に浮かされた若き才能がここにもいると思いました。今や杏里さんは、その感性がメキシコと出会って花開いた感じがします。
MC:お二人の後ろにある作品は、サイズが大きくて迫力満点ですね。
仲野:メキシコには伝統的に、今回の杏里さんの作品のように、カラフルな「Papel Picado(パペルピカド)」という切り紙みたいな飾りを空中にぶら下げる文化があります。これはメキシコの死者の日、言わば明るいお盆みたいな催しなんですが、杏里さんの作品にも、メキシコの風土・文化が、明るい色彩のもうちょっと奥、日本で言うと生と死みたいな、色んな歴史と風土が彼女の中にもちゃんと息づいていると思います。
メキシコで大穴に落下 窮地の出来事で“黒"を発見
MC:本日の主役、岡田杏里さんにご登場いただきます。
岡田杏里氏(以下、岡田):こんばんは。本日はお集まり頂き、本当にありがとうございます。
MC:それではご挨拶お願いします。
岡田:この日を無事迎えられて、ホッとしています。と言いますのも、この個展のために二日間徹夜して、必死に準備してきました。それまでは「どうなるのかな」と不安でした。一方、この素敵な場所で展示をさせて頂けることが自分自身楽しみで、これまでの展示よりも良いプレッシャーを感じました。来てくださった皆様に楽しんで頂ければという思いがあり、(作品を)生み出す苦しみも味わいながら、今日という日を迎えられて本当に嬉しいです。
MC:今回の個展のポイントも教えて下さい。
岡田:今回は作品点数がとても多いです。日本とメキシコを行ったり来たりしながら制作してきた作品の数々です。一点一点に物語があります。気になる作品があれば、ぜひ私にお話を聞かせて下さい。メキシコでは壁画を専門に制作していて、後ろにある大きな絵はメキシコシティで描きました。作品をメキシコから日本へ持ってくるのは大変でしたが、無事持ってくることができました。
MC:お疲れの上、緊張していらっしゃる岡田さんの心強い助っ人として、今回当社から発行している作品集『Paintings by Anri Okada 岡田杏里』にご寄稿頂いている、川崎市岡本太郎美術館の元学芸員で、現・京都場ギャラリーのディレクターの仲野泰生様にお言葉を頂戴したいと思います。
仲野泰生(以下、仲野):皆さん、こんばんは。そして杏里ちゃん、おめでとうございます。凄く楽しい、メキシコ的な、ラテン的な空間で本当に素敵ですね。
岡田:ありがとうございます!
仲野:私はメキシコで、メキシコの国立大学に在籍中の杏里ちゃんと出会いました。芸術家の岡本太郎がなぜメキシコに惹かれたのか現地で調査する私も、すっかりメキシコに惹かれてしまった一人ですが、杏里さんに出会った時、メキシコの熱に浮かされた若き才能がここにもいると思いました。今や杏里さんは、その感性がメキシコと出会って花開いた感じがします。
MC:お二人の後ろにある作品は、サイズが大きくて迫力満点ですね。
仲野:メキシコには伝統的に、今回の杏里さんの作品のように、カラフルな「Papel Picado(パペルピカド)」という切り紙みたいな飾りを空中にぶら下げる文化があります。これはメキシコの死者の日、言わば明るいお盆みたいな催しなんですが、杏里さんの作品にも、メキシコの風土・文化が、明るい色彩のもうちょっと奥、日本で言うと生と死みたいな、色んな歴史と風土が彼女の中にもちゃんと息づいていると思います。
MC:なるほど。
仲野:ただ、これだけカラフルな色彩画家の杏里さんなんですけど、メキシコで“黒"の発見をされて、彼女の色彩の変化につながったのではないかと思います。そのあたり、いかがでしょうか?
岡田:はい。初めてメキシコに行ったのが2014年で、その時にオアハカという先住民の文化が色濃い街に半年住んでいました。現地の人と夜ご飯を一緒に食べた帰り道、穴に落っこちて死にそうになりました(笑)。その時本当に、こうやって簡単に人は死ぬんだなと思いました。
仲野:穴と言っても凄いよね。水路というか、下水道みたいな感じで。
岡田:道端の脇を歩いていたんです。日本人の感覚だと大丈夫なんですけど、向こうでは「穴があるから気をつけろ」って言われちゃうんです。けっこう大きな穴が空いているんですよ。夜道の真っ暗闇で穴に落っこちて、そのまま流されちゃいました。なんとか意識を保って、自力で落ちた穴から這い上がって通行人に助けてもらい、数日寝たきり生活になりました。その死に直面した時のことが大きいと思います。それから黒い色を使うようになりました。自然感と言いますか、日本とメキシコの違いの一つが、死が身近にあるという点かもしれません。
仲野:生と死の隣に日常があるんだけど、決してじめじめした死ではない。死者のためにお墓に行って歌ったり、骸骨のグラスでテキーラやメスカルを飲んだりする。それを皆で一緒に楽しむ感じですよね。杏里さんは、原体験として、穴に落ちてメキシコの死生観を感じてしまったのではないでしょうか。よくご無事で(笑)。
岡田:皆さんも穴には気をつけて下さい……(笑)。
仲野:メキシコのオアハタはとても良い場所ですよね。メキシコシティーは銀座と同じように都市ですけど、そこから飛行機で小1時間、バスだと7時間くらい。先住民族のサポテカ族とかミシュテカ族とかそういう人達がいっぱいいて、本当に現地の文化が残っている。たぶんそこで杏里さんは色彩とか色んなものを感じたと思います。またそういう事故に遭遇して、良い意味で自分のアートの肥やしにしていけたのではないかと思います。身体に大怪我を受けて黒を発見するというのは、歴史や文化を文字通り身体で感じる行為です。それが、色彩は明るいけれども、自然に出ている杏里さんの世界観に繋がっているのではないかなと思います。
仮面文化に惹かれてメキシコ熱中 新作は共生がテーマ
仲野:メキシコには古代の壁画もあるし、ディエゴ・リベラ、ホセ・クレメンテ・オロスコ、ダビッド・アルファロ・シケイロスという巨匠の壁画もあります。壁画を描くきっかけになったのはメキシコですか?
岡田:きっかけは、インドで壁画を描くプロジェクト「ヘキカキカク」に携わったことです。知り合い経由でこのプロジェクトのお手伝いをさせてもらいました。大学にいる時にも壁画としてモザイク画を作っています。メキシコに行ったら、生活の中に壁画が溶け込んでいて「私も壁画を描きたい」と一層思い、今に至っています。
仲野:杏里さんにメキシコで出会った時、すでに旅慣れた感じがして、今までどんな旅をしてきたのか聞いたらアジアの旅の話をしてくれました。誰も日本語とかできやしないアジアの国々に行って、それが巡り巡ってメキシコ行きにつながったんだと思います。
岡田:私もそれは感じています。
仲野:アジアではどのあたりを旅したんでしたっけ?
岡田:インド、ネパール、中国の雲南省あたりです。
仲野:全部1人で?
岡田:はい。アジアの1人旅を書いた旅行記があるんですけど、それが大好きで100回くらい読んでいます。色んな匂いがするアジアをいつか自分も行きたいと考えて、大学生の時に行きました。
仲野:そうした旅のきっかけがあり、メキシコへとつながっていくと。メキシコは最初どういう点に惹かれたんですか?
岡田:メキシコは、仮面ですね。
仲野:今回の牛の作品も、仮面っぽいですよね。
岡田:はい。古代アステカ王国の遺跡という仮面があるんですけど、それを間近に見た時に吸い込まれる感じがしました。
仲野:メキシコは仮面の国でもありますもんね。宝石で作った仮面もあるし、ノーベル文学賞を獲ったオクタビオ・パスも「メキシコ人は皆、仮面を被っている」というようなことも言っていますよね。私の好きなメキシコのプロレスラー・ルチャリブレなども仮面をつけています。仮面の文化が根付いていますよね。そういうところに惹かれた。
岡田:最初はそうですね。
仲野:メキシコ滞在は現在3回目ですけど、印象はどんどん変わってきましたか?
岡田:はい。メキシコは日本よりも面積が広くて、場所によって文化も色も違います。行く度に新しい場所を訪れるようにしています。
仲野:そうしたら、旅をすればするほど世界観が変わって、作品も変わりますね。最初お会いした頃の作品は黒が印象的でしたが、今回はもっとカラフルで、色の洪水を受けているようです。中でも特徴的なのが、動物とか植物とか人間とか、生き物が一緒くた、同列になった印象を受けます。
岡田:人間や動物を家族のように考える文化を、作品を通じて身近に感じて欲しいと考えました。
仲野:分かります。メキシコのマヤなどの文化で、赤ちゃんを産む手伝いをするお産婆さんは皆シャーマンで、赤ちゃんが産まれると「あなたのトナは……」と言います。トナというのは守護神で、動物なんだそうです。あなたの赤ちゃんのトナは虎ですよ、蛇ですよ、ジャガーですよと話す。マヤやアステカの文明は人間と動物、植物が共生している面があります。
現在、日本も世界も大変な状況です。だからこそ今、逆にそうした先住民の知恵を学ぶ時代になっていると思います。岡田さんの作品は、ただ明るく楽しいだけではなく、そうした先住民の知恵も入っている気が僕はしています。
MC:仲野さん、貴重なお話ありがとうございます。そろそろお時間となりました。岡田さんには、お集まり頂いた皆さんとご歓談頂ければと思います。その前に最後、岡田さんから一言お願いします。
岡田:私は一つのテーマを持って制作しているんですけど、作品を見てくださった時に、色々な解釈が生まれると思います。私はそこにも興味があるので、ぜひお聞かせ下さい。本日はありがとうございます。
文:桜井恒ニ
[プロフィール]
岡田 杏里 (おかだ あんり)
メキシコと日本を拠点に活動する美術家。「現実と幻想」、「現代性と土着性」をテーマに創作活動を行う。旅と生活で発見したちょっと不思議な風景や土地の神話や伝説、風土に密着した民族性、人間の根源に流れるものを、タブロー、壁画、インスタレーションで制作し発表している。
公式サイト: https://anriokada.wixsite.com/anri-okada
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