【ARTIST NEWS】倉敷安耶個展「腐敗した肉、その下の頭蓋骨をなぞる。」を開催。仏教絵画の「九相図」を題材に女性の無常を描く。

倉敷安耶個展「腐敗した肉、その下の頭蓋骨をなぞる。」を店内アートウォールにて2023年7月22日(土)〜8月11日(金)の期間に開催します。
 
 
 
 
概要
 
倉敷安耶は、2020年に東京藝術大学大学院修了後、京都、東京を拠点に個展やグループ展、滞在制作など精力的な活動を続けています。自身と他者との距離について思考し、他者との密接なコミュニケーションや共存の模索、融合をテーマに作品制作を行っています。

倉敷の作品は主に西洋絵画や自身が撮影した写真、ネットからダウンロードをした画像を組み合わせコラージュのようなものを作成し、支持体に転写します。その支持体もキャンバスや織物、鏡や石など様々で、転写する際に生まれるクラックと呼ばれるひび割れの先から支持体の性質が垣間見え、この偶発的要素によって都度表情が異なります。

本展では、共同体内での「眼差し」を振り返る⽬的として東洋、⻄洋絵画内における⼥性像に焦点を置き、聖書に登場する⼥性をモチーフとした《九相図》と題する作品を発表します。
九相図とは、屋外に置かれた死体が朽ち果てていく過程を九つの段階に分けて描く死体の不浄や無常観を表現する仏教絵画です。⽣前は美しく煌びやかな⼥性も死んだ後には⾁は腐り、⾻だけになっていく。仏僧たちへ向けた煩悩を捨てるために⼥性がモデルとして描かれました。代表的な小野小町伝説では腐敗した死体が野晒しの髑髏(どくろ)となり、目の穴に薄が突き刺さって痛い痛いと唄ったことが有名です。しかし、不浄の⾁体をさらすことが⾃らの強い意志と⾃⼰犠牲の精神を描写し、他者の発⼼を助けた者として尊ばれるという⼀⾯も九相図にはあったのです。

一方、キリスト教内ではイエス・キリストに対し⾹油を扱ったマグダラのマリアという女性が登場します。⾹油は死者の腐臭を和らげるため、また死体の不浄を祓うために使⽤され、つまりは近く来たるべき救い主の死を暗⽰するものとして考えられていました。香油は娼婦の商売道具でもあり、罪と死を象徴するマグダラのマリアらを主題とした宗教画ではアトリビュートとして頭蓋⾻が度々描かれます。
宗教は魂の救済のためではなく、共同体の保全と繁栄のために存在している側⾯もあります。共同体の秩序を保つためまた、宗教を信じる者にとって境界に規定されないもの、穢れ(けがれ)という存在への「眼差し」が不可欠でした。それは現代を⽣きる我々にとっても同様で、⾃分⾃⾝の⽴場や属性などを認識するきっかけとなるのです。

本展を通し、倉敷は境界からはみ出す異例なもの、あるいは境界上にある曖昧なものとの接触により⾃⼰と物質の属性と、⾃⼰と他者との相互関係の探求を試みます。⼥性の⼿元にある頭蓋⾻はいったい誰のものなのか。その答えは鑑賞者それぞれが持つ「眼差し」によって変わるでしょう。
《九相図》H652×W530mm, 木枠、ウール生地、織物、刺繍、糸、油彩、メディウム転写,2023
 
《ドローイング #九相図》サイズ可変(刺繍枠:φ130mm), 刺繍枠、刺繍生地、メディウム転写,2023
 
 
 
本展に寄せて
 
罪深い女は食事の席についたイエスの足もとに近寄り、泣きながらイエスの足を自身の髪の毛でぬぐい、そこに接吻して香油を塗った。香油は、遊女が商売で使用する物である。あるいは罪の女と同一視されているベタニアのマリアはイエスの頭に香油を注いだ。これらはイエスがメシアとして祝福されること、そして埋葬の文脈において香油が「腐臭」と名付けたものを予告、つまりは近く来たるべき死を暗示している。ベタニアのマリア同様、罪深い女と同一視されているマグダラのマリアは復活の日の朝、イエスの喪葬の目的で香油を用意して墓に行った。彼女はイエスの死後に迫害され、その余生を隠者として洞窟の中の教会にて過ごした。罪と死を象徴するマグダラのマリアらを主題とした宗教画ではアトリビュートとして頭蓋骨が度々描かれる。

主題となった九相図は死体の不浄を論じるだけでなく、無常観を訴えかけてくる。特に若さや美しさの無常を表出することに重きがおかれている。伝統的に、日本の九相図には女性の死体が描かれてきた。観想の主体は全て男性で、女性の死体は一方的な眼差しの対象とされ、女性のあられもない死に様を眺めることのできるポルノグラフイックな絵画でもある。

一方で死体を曝すことが、女性にとって信仰心の表明であるとみなされる土壌もあった。近世初頭には、絵解きなどを通じて、九相図が直接的に女性教化の役割を担うこととなる。九相観説話の中の女性たちは、自らの強い意志と自己犠牲の精神によって不浄の肉体を曝し、他者の発心を助けた者として尊ばれてもいる。

中世には、九相図に小野小町伝説が合流した。美貌を誇った小野小町が驕慢の果てに零落し、京都の寺院へ行きつき、死後には葬る者もなく死体は腐敗する。やがて野晒しの髑髏となり、目の穴に薄が突き刺さって痛い痛いと唄ったとのことである。

宗教は魂の救済のためではなく、共同体の保全と繁栄のために存在している。聖なるものとは共同体が崇拝するものである。不浄とはある体系を維持する為にそこに包含してはならないものであり、穢れとは体系的秩序との関連においてしか生じ得ない。

「内」と「外」、及び、その境界線の象徴性はカテゴリーを通して行われるのであり、認知的である。だが境界からはみ出す異例なるもの、あるいは境界上にある曖昧なるものとの接触は自己と物質の属性と、自己と他者との相互関係について学ばせてくれる。身体によって表せる象徴体系は一層直接的であり、肉体の境界はあらゆる境界を象徴しうる。

レヴィ=ストロースによる「料理の三角形」の三頂点には「生のもの」、「火にかけたもの」、「腐ったもの」が置かれ、人間の意識の外で構造的にカテゴライズされている食べ物の問題を表す。腐ったもの、すなわち腐敗とは、微生物の働きにより、有機化合物が人間にとって有害な物質に変化することをいう。発酵と腐敗の違いとは、人間が人間の視点で決めたこと、つまりそれは眼差しである。
 
 
 
アーティストプロフィール
 
倉敷安耶(くらしきあーや)
一貫して自身が肉体という物質の壁、またはそこに付属するカテゴライズによって、人間が絶対に断絶された孤独な存在である中での、他者との距離について考えてきた。作中では転写技法を用いた平面作品を中心にパフォーマンス、インスタレーションなど複数のメディアを取り扱い、他者との密接なコミュニケーションや共存の模索、あるいは融合などを試みる。例えば我々が別々の身体を持つが故に生まれる分断に対し、我々の溝を少しでも均し、現実世界での共生を図るための制作。あるいはその究極体として、身体から解放され、個々の存在は個々として存在しつつも全体と折り混ざり、一体化していく涅槃を目指す行為としての制作。または孤独への対応策として、鑑賞者と自身の間に何らかの形で作品を挟むことによって、一時的な近しい(と仮定した)関係性を紡ぐ行為など。
 
1993年 兵庫県生まれ
2018年 京都造形芸術大学大学院修了
2020年 東京藝術大学大学院修了
現在、京都と東京を拠点に活動
 
<主な受賞歴>
浅田彰賞「SPART 2017」(2017)、入選「シェル美術賞2020」(2020)、アソシエイツアーティスト「VIVA AWARD 2021」(2021)、グランプリ受賞「WATOWA ART AWARD」(2021)など。
 
<主な個展>
「BnA_WALL 3rd Mural A~ya Kurashiki Solo exhibition」(BnA_WALL  Art Hotel in Tokyo /東京/2021)、「そこに詩はない。それは詩ではない。」(myheirloom/東京/2021)、「浅はかなリ、リアルの中でしぜんにかえる」(和田画廊/東京/2022)など。
 
<主なグループ展>
「(((((,」(駒込倉庫/東京/2022)、「Idemitsu Art Award(旧シェル賞)アーティスト・セレクション」(国立新美術館/東京/2022)、「ニューミューテーション#5 倉敷安耶・西村涼『もののうつり』 」(京都芸術センター/京都/2023)など。「Artists' fair kyoto2022」(京都新聞社/京都/2022)や「ART MARKET TENNOZ2023」(WHAT CAFE/東京/2023)など、国内のアートフェアにも参加。
佐藤国際文化育英財団第26期生 。クマ財団3期生。
 
 
 
展覧会詳細
 
倉敷安耶 個展「腐敗した肉、その下の頭蓋骨をなぞる。」
 
会期:2023年7月22日(土)~8月11日(金)※終了⽇は変更になる場合があります。
時間:当店Webサイトをご確認ください。
会場:銀座 蔦屋書店 アートウォール
料金:無料
主催:銀座 蔦屋書店
お問い合わせ:03-3575-7755(営業時間内) / info.ginza@ccc.co.jp
 
 
 
販売について

作品は銀座 蔦屋書店店頭・アートのオンラインマーケットプレイス「OIL by 美術手帖」にて販売します。
店頭|7月22日(土)10時30分より販売開始
OIL by 美術手帖|7月24日(月)10時30分より販売開始
 
※作品はプレセールスの状況により展覧会会期開始前に販売が終了することがあります。
 
\オンラインストアで購入する/
2023年7月24日(月)10:30~販売開始
 

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