【イベントレポート】彫刻の魔術師・コムロタカヒロ「Vortex」―初日トークイベント

彫刻の魔術師・コムロタカヒロ「Vortex」― GINZA ART EXHIBITION 初日トークイベント

8月6日~25日にかけて、銀座 蔦屋書店のイベントスペースGINZA ATRIUMで「コムロタカヒロ「Vortex」― GINZA ART EXHIBITION」が開催されている。
 
本個展の主役である彫刻家・コムロタカヒロ氏は、2011年に東京藝術大学大学院の美術研究科修士課程彫刻専攻を修了。2012年および2014年にオルタナティブアートのプロジェクト「SIDE CORE」に参加。以後、国内外で作品を展開している。

コムロ氏の彫刻作品は、既存の価値観にとらわれない。80~90年代のアクションフィギュアやソフトビニールフィギュア、そして神話、宗教などに着想を得たアートだ。

英語で「渦」を意味する「Vortex」と名付けた今回の個展では、初お披露目の木彫作品のシリーズを展開。全高2.5mの「Magic dragon」を筆頭に、全15体の作品を展示。世にも不思議なマジカル空間を創出している。本記事では、初日の6日にコムロ氏が会場で実施したトークイベントの模様をお届けする。聞き手は、『美術手帖』の岩渕貞哉編集長。
 
今回の作品は、銀座 蔦屋書店・OIL by 美術手帖でご購入いただけます。
 
オモチャを宗教彫刻に転換 魔法の秘密は“CGの活用”
 
コムロタカヒロ(以下、コムロ):今回の個展に出した作品たちは、数量的にもサイズ的にも、これまでの経験の中でもキャパシティー超えで、大変な作業でした。特に「Magic dragon」という作品は、自分の中でも一番大きな作品でした。こうしてここに立ち上がってくれている状態が奇跡です。自分の想定を超える仕事をしていたので、最後の最後までどうなるか分からなくて、怖くてしょうがない仕事でした。この立っているという【奇跡】が、空間に魔法をかけられるんじゃないかと思っています。皆さんにも、この空間が【魔法の渦】に巻き込まれていると想像して楽しんでほしいです。
 
岩渕貞哉(以下、岩渕):銀座 蔦屋書店のこのアトリウムは、天井が吹き抜けとなっていたり、本棚に囲まれていたり、ギャラリーのホワイトキューブとは異なる特徴的な空間です。会場を見て、どういう展示にしたいと思いましたか?
 
コムロ:この空間自体、本に360度囲まれていて、すでに面白い空間だなと感じました。例えば上方にある本は、仮定としての本、仮想の本じゃないですか。僕はこれを無限の本を表現していると思いました。それがまるで【魔法の無限図書館】、世の中の全ての知識がある場所のような気がしたんです。最初はそうしたイメージで作品を作っていこうと思いました。ですが何度か足を運ぶうちに、もう少し冷静になったと言いますか、作品主体、作品から空間をどうやって作るか考えました。そこで空間を生かした作品、ここでしか展示できない作品を作りたいと思い、縦に長くて高い像、皆さんの視線を上へ誘導するイメージで「Magic dragon」を作りました。
 
 
岩渕:制作についてうかがいます。これらの彫刻は最初、CGのデータで制作されているんですよね。
 
コムロ:はい。ここにある作品は全て、雛形としてCGで原型を作っています。その原型は、パソコンの画面上で、架空の粘土をこねくり回しながら作れるソフトを活用しています。

岩渕:CGの段階では、現実世界に出力されたときのサイズは確定してないですよね。データのときのイメージから、彫刻として生み出されたときに、どんな感覚をおぼえましたか? 
 
コムロ:CGの段階では、オモチャのように自分の手の中に収まる、手でこねくり回せる大きさです。パソコンの画面も25インチとかで、(確認できるサイズ感は)大きくても20cmくらい。その中で大きさを想定してやっていきます。ただやはり実際のサイズで出していかないと分からない点はあります。そういった意味で想定はなかなか難しいです。今回は、断面化したデータを実寸大で紙に出力したら500%くらいに拡大されて、合計200枚くらいになりました。紙の束を見て「これからとんでもないことに取り組まないといけないんだな」と思いました。それが去年の冬頃。そこから約半年かけて作りました。
 
岩渕:コムロさんの作品は、子供の頃に遊んだ玩具やアメコミのキャラクターなど、様々な要素からインスピレーションを受けて、子供の愛玩具に無意識的に潜む不気味さや社会的な要素を入れ込んでいくことで、新たな存在を生み出しています。また、木で掘り出し、重量のある物体として現れたときに、彫刻としての存在感が立ち上がってきます。
 
コムロ:そうですね。オモチャは玩具、愛玩するものです。小さいもので、人間たる自分が優位に立っています。一方、彫刻はサイズも存在感もより大きいです。もてあそぶ対象ではなく、人間と同等、対峙するような存在になってきます。そうなった時に、仏像やギリシャ神話の神々の像のように、【人間を超越した未知なる力】みたいなものが備わっています。彫刻はそういう力があります。今回の「Magic dragon」は人間を超えるサイズで、僕一人ではなく、皆で作り上げました。そうした意味でも、一個の人間の力を超えている部分があると思います。
 
岩渕:オモチャやフィギュアは、子供の頃に遊んだり話しかけたりして、持ち主の思いや記憶が蓄積されていくものです。それが彫刻になることで、祈りのような別種の思いを託す、より普遍的な対象になるのは興味深いですよね。【新時代の宗教彫刻】に近いと言えるかもしれません。
 
コムロ:おっしゃるとおりです。僕としても、オモチャというフォーマットを、拝む対象に転換している感触があります。自分の心の拠り所と言いますか、自分の力を超越した何かを宿させる【器】として、オモチャというフォーマットを使っているところはあります。
 
岩渕:コムロさんの作品と対峙していると、異世界から転送されてきた物体と対面しているような、不思議な感覚をおぼえます。
 
 
コムロ:それも、CGを使っている面白さが出ていると思います。CG無しでいきなり実寸大で彫り出すと、素材の強度とか重さとかバランスとか様々な制約がありまして、諦めないといけない点が出てきます。純度120%で表出することが、【違和感】を生み出すのにつながっているかもしれません。
 
 
彫刻は「最高にドキドキします」
 
岩渕:作品に書かれている言葉や記号には、どのような意味があるのですか?
 
コムロ:僕は錬金術や魔術などに通ずる【オカルト的な精神世界】に興味があります。そうして文献などを漁っているうちに、錬金術に出てくる魔法陣に出会いました。錬金術は、鉛から金を作るものという扱いですが、そうした術だけではなくて、【精神的な高み】に行くためのプロセスも多分に含まれています。そうした過程で使われていた、魔法陣などに影響を受けています。その魔法陣には文字やシンボルが散りばめられています。例えば数字は1から5~6くらいまで入っていて、それをつなぐと五芒星や六芒星になります。これが一つの魔法陣になったりしていて、仮想的な意味が散りばめられています。
 
岩渕:作品には、「アブラカダブラ(ABRACADABRA)」という言葉が頻繁に登場します。この言葉が意味するものはなんですか?
 
コムロ:僕が気に入っている魔法の呪文です。ここ1年はモットーみたいに自分にも言い聞かせていました。「我の言葉のとおりに物事を創造せよ」という意味があります。自分の意識を具現化せよ、という意味があります。元来、想像や思いを実際に実現することは大変です。けれどもそれを想い続け、実際に体を動かし続けると形になっていきます。「それって努力しているだけじゃん」と言われたらそうですが、僕は魔法みたいなものだと思っています。時間はかかるけれども、思っていることは形にできる。自分が彫刻を作る時は、そうした思いを持っています。彫刻にもそうした思いを込めていて、皆さんがそれを感じられればいいなと思っています。
 
 
岩渕:アトリエにうかがって、制作中の作品を見せてもらいました。真夏の暑い夕方だったんですが、彫刻の現場は粉塵が出たりするのでエアコンなど付けることができず、過酷な環境だと実感しました。また、木を削り出して磨いてといった作業には、途方もない時間と手間がかかります。この展覧会の作品をそろえるにも、3〜4年かかっているそうですね。そこまでして彫刻にこだわる理由はなんですか?
 
コムロ:僕はどうしても立体じゃないと駄目なタイプなんです。手で触れないと嫌なんです。手で触れるものがそこにある感じが、最高にドキドキするんです。その原点が、幼少期にオモチャで遊んでいたことです。手の感触が、強く残っているんだと思います。たしかに絵も素晴らしいですが、僕の中で絵は、一つの想定として「こういうことですよ」と画面の向こうで止まっている感覚があるんです。彫刻はそこからさらに、絵の画面や自身の精神世界から飛び出てきて、【現実空間に一緒に共存できる状態】を作り出せます。彫刻のそういう感触が、最高にドキドキします。
 
岩渕:ありがとうございます。今回の展示で限界までやりきったいま、未来のことを聞くのも酷かもですが、今後の展望など聞かせてください。
 
コムロ:今回、自分より大きいものを作ってみて「デカい物はいいな」と実感しました。等身大の作品とは次元が変わる存在感を感じました。今後も、できればデカい物だけの展覧会をやりたいです。
 
岩渕:最後に、今回の展示について、来場者のみなさんに一言お願いします。
 
コムロ:今回の展示は形や色だけではなく、マークやシンボルもこだわっています。宝探しではないですけど、じっくり見て色々発見したり勘ぐったり、想像したりしてもらえれば嬉しいです。
 
 
今回のトークイベントは、多数の来場者の注目を集め、盛況のうちに終了。コムロ氏の創作への思いの一端が垣間見えた。
 
本個展の開催は、8月25日まで。銀座 蔦屋書店に突如出現したコムロ氏の魔法空間を、足を運んで直に体感してみてはいかがだろうか。
 
文:桜井 恒二
 
今回の作品は、銀座 蔦屋書店・OIL by 美術手帖でご購入いただけます。
 

 
【プロフィール】
コムロ タカヒロ / TkoM
1985年東京生まれ、東京在住。2011年東京藝術大学大学院美術研究科修士課程彫刻専攻修了。2012年と2014年にオルタナティブアートのプロジェクト「SIDE CORE」に参加。2013年東京で個展を実施。以降、東京や米国での展覧会を中心に国内外問わず幅広い活動を行っている。
 

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