【インタビュー】書籍『IKKOAN』制作秘話に迫る!
企画発案/クリエイティブディレション南木隆助さん×アートディレクター川腰和徳さん
書籍『IKKOAN』制作ストーリー。
現代の和菓子職人として、国際的かつ、多岐にわたる活動を精力的に行っている一幸庵店主の水上力 (みずかみ ちから) さん。
銀座 蔦屋書店との限定コラボレーションが実現したことを機に、書籍『IKKOAN』製作時のお話を、企画発案/クリエイティブディレクションを担当された南木隆助 (なんき りゅうすけ) さん、アートディレクターの川腰和徳 (かわごし かずのり) さんに伺いました。
-一幸庵の書籍『IKKOAN』を企画・発案されたのが南木さんですが、自費で見本誌まで制作されたそうですね。
(南木:以下、南)そうです。見本誌といっても、サンプルに近いものでしたが、「このようなものを作りませんか?」という話を持って行きました。
-幼少時より一幸庵のお菓子に触れてらしたということですが、その中で水上さんとコミュニケーションを取る中から、書籍の企画が持ち上がったのかと想像していました。
(南)幼少時より一幸庵さんのお菓子のすごさは実感していましたし、「本にできるのでは」と思っていましたが、どこからも出版される様子がなく、勿体無く思っていました。最初はダメ元で企画を持って行きましたね。
-企画を進めていく上で、クラウドファンディングを利用されたのはどうしてでしょうか?
(南)同僚でアートディレクターの川腰にデザインをしてもらい、サンプルとなる本が一冊出来上がって直ぐに、水上さんの海外講演に同行し、その本を海外の方に見せた時の反応がかなりビビッドで。日本の季節を表す七十二候のお菓子は、言葉の意味がシンプルで、伝わりやすかったのだと思います。
また、水上さんがパリを強く意識されていたこともあり、海外出版を見据えた書籍を日本語・英語・フランス語の三カ国語で構成することは決めていました。ところが、サンプル本を海外の複数の出版社に持ち込み、出版の交渉をしたところ、あまり反応がよくなかった。
ならばと、自費出版で100冊出すことで話を進めていた際に、クラウドファンディングの会社の関係者と出会いました。「いい企画なので、クラウドファンディングを利用し出版してはどうか」と、進めていただいたのがきっかけです。
-水上さんが「情熱大陸」にご出演された時も、海外からの書籍購入に関する問い合わせがすごかったです。
(南)特にフランスやアジアの方が多く反応してくれますね。パラグアイからの問い合わせが入ったこともあります!
-広く書籍が伝わるのは喜ばしいことですよね。書籍のロゴは、琥珀糖の組み合せで構成されていますが、そのデザインはどういうイメージで制作されたのでしょうか?
(川腰:以下、川)和菓子をいくつか見せていただき、そこからかわいらしい形をそぎ落とした上で、和菓子らしいフォルムを構成できないか、と考えました。また、海外での出版の話もでていましたので、ブランディングの意味も兼ね、海外でも通じるように敢えて「IKKOAN」としました。
やはりアートディレクションとしては、和菓子を革新的に見せるやり方を考えなければなりませんから。ロゴに始まり、装丁などのデザイン全てを含め、和菓子に興味がなかった人も手に取りたくなるようなものにしたいと思いました。
書籍『IKKOAN』の為に製作された桐箱も販売している。19,980円/税込。
書籍とセットで24,840円/税込。
※桐箱入りでのご購入ご希望のお客様は、予め銀座 蔦屋書店にお問合せください。
(川)そもそも、和菓子自体が既にアートですからね。
(南)当初より川腰には、和菓子の正面等、最低限のみ押さえた上で「和菓子らしさは一切気にせず、プロダクトデザインとして一番美しく見えるようにして欲しい」と依頼していました。海外のアートブックぐらい尖らせた作品集にしたかったのです。現在、販売している書籍には帯がついていますが、自費出版で作成した書籍は真白で、エンボス加工で薄らロゴが入っているだけだったので、一見何の本か分からないぐらい尖っていました。
-一見、何の本かは分からないけれども、一度開けば、色鮮やかで素晴らしい和菓子の世界が広がる、というわけですね。ところで、「地始凍」という作品は、川腰さんから水上さんにイメージをご提案されたと伺いましたが?
(川)そうですね。七十二候ある中で、「こういう見せ方をしたいので、こういう和菓子はどうでしょうか?」というようなやり取りをいくつかさせていただきました。
(南)面白かったのは、和菓子が、まるで女優がカメラに撮られることで綺麗になるように、水上さんの和菓子も繰り返し撮られる毎に色気が増して行くように感じた事です。
「地始凍」(ちはじめてこおる)
-水上さんは「朝作品を渡して、撮影してもらっていた」と仰られていたので、普段お二方とも仕事がある中、どのように5年間やられていたのかと不思議でした。それに、作品を朝、手渡されるわけですが、あの構図や表現はどのようにして作られたんですか?
(川)私たちの仕事が休みの土日に撮影を行っていました。
(南)作品の構図は、かなり即興で進行しましたね。
(川)どういう作品が水上さんから上がってくるか、その場その場で変わっていきますから。どの季節の何を表現しているのか、和菓子から直接インスピレーションを受け、それをどうビジュアルに落とし込むかはその場で決めて、何パターンか撮影を行い、写真を選んで…を繰り返し行いました。
(南)そうして、上がってきたものを見て、水上さんが仰るんです。「もっといいものができる気がする!」と。ですので、とてもいい図案のボツ案が数多く存在します。
-実際、クラウドファンディングサイトで、書籍に掲載されていない図案の1つを拝見しました。
(南)あの作品も、僕はかなり好きでした。
-およそ400に近い作品を見て来られたお2人にとって、印象深い作品は何でしょうか。
(南)「雷乃収声」という作品があるんですが、水上さんのお菓子の造形として今まで見たことのないものだったので、「水上さんがまた進化した!」と驚きました。もちろん、とても美味しいんですよ。
-「雷乃収声」は、水上さんが「この作品は店頭では出さない」と仰られた作品です。食された南木さんが羨ましいです。
(南)「蟷螂生」も思い出深いですね。水上さんが一番最後まで粘って作られた作品です。これも本当に美味しいんですよ。シナモンスティックでピンチョスのようにお菓子を食べると、シナモンの香りが口の中で残り香として残るんです。
(川)改めて見返すと、自分で見ても「すごいな」と思いますね。水上さんは水を表現するのが非常にお上手で、「鮭魚群」という作品を撮影で受け取った時、まるで宝石のようで衝撃を受けたのが思い出されます。
「雷乃収声」(かみなりすなわちこえをおさむ)
「蟷螂生」(かまきりしょうず)
-「雉始雊」の作品は、水上さんが「ナイキをイメージして作ったんだ」と仰られていました。
(川)これは、お菓子にインスピレーションを受けて、その場でベースの色を決めました。即興性が高く、かつクオリティの高い作品に仕上がったと思っています。
(南)すごかったのは、水上さんは上がってきたものに対して「和菓子っぽくないね」「餡がわかりにくいね」等、一度も仰られなかったことです。あがってきた作品に対して、水上さんご本人がもっと良いものができるか、できないか、自分がお菓子として納得できるか、できないかというところだけで闘っておられましたね。
「鮭魚群」(さけのうおむらがる)
「雉始雊」(きじはじめてなく)
-最後に、淡交社から2018年1月〜2月に発売予定の書籍について、教えていただけますか?
(南)水上さんの生い立ちから始まり、サダハル・アオキさんとの対談ページなど、より水上さんにフューチャーした本となっています。その他に、「平成の和菓子職人と歴史ある茶器が向き合う」というテーマで、尾形乾山の素晴らしい茶器と、水上さんが作る和菓子のコラボレーションしています。
新刊書籍の1ページ。今回、特別に淡交社よりご提供いただいたもの。
-書籍『IKKOAN』は元々、南木さんの「もっと日本の人が水上さんの存在を知って欲しい」との思いから始まりましたが、次の新刊で、今度は水上さんの人となりまで知ることができるのですね。
(南)そうですね。水上さんは将来、パリかN.Yで展覧会を行いたいという希望を持っていらっしゃるので、前作『IKKOAN』はまさにそのための「作品カタログ」というイメージです。
-海外のお客様は、今回の銀座 蔦屋書店コラボレーションパッケージも「ユニークだ!」と気に入ってくれそうです。
(川)これがきっかけで、もっと世界に水上さんが出て行ったり、日本に和菓子職人が増えたり、世界に職人が増えたりと、様々な「きっかけ」になったらと思います。日本文化の発展に寄与できる仕事に関われたことが幸せです。
-新刊刊行時にはぜひ銀座 蔦屋書店で刊行イベントを行いたいです!本当にありがとうございました。
左から、アートディレクターの川腰和徳さん、企画発案/クリエイティブディレクションを担当された南木隆助さん。
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銀座 蔦屋書店との限定コラボレーション商品のことや、書籍『IKKOAN』の製作エピソードについて、
一幸庵店主の水上力 (みずかみ ちから)さんへのインタビューでも掘り下げています。
こちらもぜひご覧ください!
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【プロフィール】
南木 隆助 (なんき りゅうすけ)
プロデューサー/アーキテクト。東京出身。慶応大学坂茂ゼミ卒。
ブランディングや空間設計のプロジェクトを手掛ける。過去の仕事に、パリ魯山人展の空間設計や築地場外のリブランディング「築技」開発等。
2016年外務省日本ブランド発信事業に選出され、欧州にて講演。
川腰 和徳 (かわごし かずのり)
アートディレクター/プランナー。鳥取出身。多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒。
アートディレクションを中心に様々な広告ブランディングを手掛ける。
2017年NYADC金賞・CANNES LIONS銀賞・朝日広告賞グランプリなど多数受賞。
取材撮影・構成・文 : 銀座 蔦屋書店 石谷