【イベントレポート】歌舞伎俳優 尾上菊之助の初写真集「五代目 尾上菊之助」刊行記念トークイベント

1月6日、歌舞伎俳優の尾上菊之助(5代目)が、銀座 蔦屋書店のGINZA ATRIUMで行われた写真集『五代目 尾上菊之助』刊行記念トークイベントに登壇した。
 
歌舞伎『風の谷のナウシカ』の主演やテレビドラマ『グランメゾン東京』(TBS系)の丹後学役で脚光を浴びる人気歌舞伎俳優が、本写真集や歌舞伎への想いなどを大いに語った。聞き手は銀座 蔦屋書店の日本文化コンシェルジュの佐藤昇一。本作の撮影にたずさわった写真家・岡本隆史氏も後半に参加した。

※本記事は、トークイベントの内容を一部抜粋・再編集したものである。

制作は急ピッチで進行 台風前日に写真セレクト

佐藤昇一(以下、佐藤):司会と進行をさせていただきます。どうぞよろしくお願いします。今日は、本当にご多忙の中、尾上菊之助さんにお越しいただきました。

尾上菊之助(以下、菊之助):本日は皆様のお時間を頂戴しまして、ありがとうございます。

佐藤:今回の「五代目 尾上菊之助」は、初めての写真集ですよね。

菊之助:そうです、初めてです。襲名のときに冊子を作らせていただいたんですけど、それは写真集と言うほどのものではなく、自分の学生時代の写真なども入ったりしていました。歌舞伎の専門写真集としては今回が初めてです。

佐藤:今まで写真集を出されなかったのは、タイミングの良い機会がなかったからですか?

菊之助:需要がないからです(笑)。

佐藤:いやいや、ここに需要がありますよ! 今回ここにいらっしゃる皆様は、お買い上げいただいたお客様ですから。
(会場拍手)

菊之助:お高いものをありがとうございます……(笑)。
 


佐藤:撮影を担当した岡本隆史さんとは、およそ十年のお付き合いなんですよね。

菊之助:はい。10年前にロンドンで『NINAGAWA十二夜』の公演をしたとき、岡本さんが撮影しに来てくださったんです。それ以来、岡本さんに本格的に写真を撮っていただきたくて、毎月歌舞伎座の劇場に来ていただくことになりました。いつもの舞台が始まる前に、岡本さんが重い機材を運んできてくださって、稽古場や資料室にバック紙(編注:撮影用の背景紙)を立てて写真を撮っていただき、それから公演に臨む、そんな日が毎月1日あり、気がついたら10年間経っていました(笑)。

佐藤:そうなんですね。

菊之助:「ふたりで写真集を出そう」と思って始めたわけではないんですよ。岡本さんに撮っていただきたいと漠然と思って、私の記録みたいな感じで撮りためてきました。そうして2020年のオリンピックイヤーに、海外の方もたくさんいらっしゃるし、撮ってきたものを本にできればいいかなと雑談していた矢先、佐藤さんから「蔦屋書店で写真集を出しませんか?」とお話をいただきました。

佐藤:実は、私は菊之助さんが写真集をお出しになっていないことが、ずっと気になっていました。そこで、日本文化コンシェルジュとして、価値のあるものを世にお届けするという使命を担っている身として、菊之助さんの写真集を実現したいと考え、たまたま番頭さんとお会いする機会があったので、思い切ってお願いしてみました。そうしたら、歌舞伎座の公演後に菊之助さんがお時間をくださって、私の話を真摯に聞いてくださって、写真集の出版をご了承いただきました。本当に嬉しくて、感謝の気持ちで胸がいっぱいです。

菊之助:でも、いざ写真集を作るとなったら時間があまりなくて、昨年6月からプロジェクトが始まりまして……(笑)。博多座のときですよね?そこで写真選びが始まり、あっという間に12月6日の発売日を迎えました。

佐藤:さて、今回の写真集では、外箱に菊之助さんのお家の色と近いものを選んでいます。

菊之助:はい。梅幸茶(ばいこうちゃ)に近い色で作っていただきました。思えば五代目菊五郎の写真集もこの梅幸茶の色です。六代目もそうでした。自分もなぜかこれを選びました(笑)。

佐藤:ちなみに収録する写真を決定したのは、確か台風で歌舞伎座が休演になった、その前日の夜でしたよね?自分も参加させていただきましたが、オフィスに候補の写真をプリントアウトして並べました。

菊之助:選定にあたって、今まで岡本さんが撮ったものをパソコンで送ってくださっていました。何を選ぶか自分で考えを整理してみると、自分の足取りをあらためて確認できたと言いますか、「こんな役やってきたんだ」と懐かしかったです。岡本さんがその瞬間瞬間を切り取ってくださったのですが、まとめて見ると膨大な量で、何を目安に選んだらいいのかずっと悩んでいました。そんなとき、台風の前の日に一番ご尽力いただいたのが、歌舞伎月刊誌『演劇界』の編集長大木夏子さん。「『演劇界』では写真をこういう風に扱いますよ」とたくさんアドバイスしてくださいました。自分も、(佇まいなど)形がいいものであるとか、魂がこもった写真を形として残したかったので、大木さんに相談しつつ、ページ構成を考えました。

佐藤:ページ構成の検討の過程を教えてください。

菊之助:最初は、女形(おんながた)と立役(たちやく)を分けようと思ったんです。ただ、ページをめくる度にワクワクするような写真集を作りたかったのですが、分けるとめくる度にワクワクするようなページ構成になりづらかったんです。男と女と舞踊と、横に引き延ばした写真、ポートレート的な写真。それをどういう構成にするか、その日何時間くらい練りましたかね。

佐藤:大分長かったですよね。

菊之助:終電間際までですかね。皆さんのお力を借りて。台風が迫ってきて「早く帰ったほうがいいですよ!」みたいな感じだったんですけど……(笑)。でもおかげでその日にほとんどの流れが完成しましたね。

佐藤:個人的には、そのとき菊之助さんの奥様にもいらしていただいて、奥様と菊之助さんがお二人で話し合って考えた点も参考になりました。私も岡本さんもそうですけど、それぞれの人が菊之助さんという人をどう見ているのか。どう追いかけてきたのか。色んな距離感の意見があって面白かったです。

菊之助:たしかに自分がいいと思っていても、「こっちもいいんじゃない?」と言われたりしました。客観的な面白さは、自分では分からない点もありますね。

佐藤:今回の写真集だけでは気づきにくいんですけど、ポートレート写真と舞台写真が混じっているものはとても珍しいですよね。最初はどうしようかと悩みましたね。

菊之助:そうですね。最初は別々で考えていて、2冊作ろうという話にもなっていました。ただポートレイトだけですと、形がカチッと決まっているものですから、なかなか動きが出しづらい。舞台での息遣いや汗などをポートレイトに間に挟むと、写真も違った意味で生きてくるのかなと思って。選んでいるとき面白かったです。

佐藤:初めて写真集作りに関わっていかがでしたか?

菊之助:セレクトするのが大変でしたね。岡本さんが撮ってくださる写真って、本当に生きた写真なんですよ。その中でもより力が入っているものだとか、力が抜けているけれども、自然で役が浮き立っているものとか、数多い写真の中でどれを選べばいいのか。それが一番苦しくて大変な作業でした。 

佐藤:楽しかったことは?

菊之助:台風の日でしたが、机を何台も並べて、セレクトした写真を写真集の順番にバーっと並べたときは気持ちよかったです(笑)。そこに行くまでが大変でしたけど、並べて「この役はここにしよう」とか「あれはここにしよう」とか並び順を楽しかったです。

佐藤:たしかに壮観でしたね。

岡本氏との撮影は「私にとって修行の場」

佐藤:今ずっとお話をうかがっていて、岡本さんという写真家が、菊之助さんにとって大事な存在なんだと思いました。写真集を出す話になったときも、岡本さんの写真を世に出したいということをおっしゃっていました。岡本さんが客席にいらっしゃって恥ずかしい気持ちもあるかと思いますが、あらためて出会いと魅力を教えていただけますでしょうか。

菊之助:最初の出会いは篠山さんの事務所です。それから独立されたとうかがっていて、私も一度お仕事させていただいて、写真も好きですけど人柄も好きなんですよ。岡本さんの撮っている写真って、あたたかいんです。海で遊んでいる子どもたちとか、海にたたずむ家族とかいう写真を見て、この人に撮っていただきたいと思ったんですね。「この人はきっと、相手の内面を見てシャッターを切るんだろうな」と。そういう感覚で写真を撮っているんじゃないかなと推測して、ぜひ一緒に仕事したいと思ってお声をかけさせていただきました。

佐藤:劇場で実際に撮っていただいて、いかがでしたか?

菊之助:実は劇場って、あんなに客席は広いけど、写真を撮れるスポットって決まってるんですね。花道の横か、監事室の横か。それか2階。かなり限られた場所で撮らないといけない。そこから狙うのは、かなり芝居を分かっていないといけないし、ここで決めだというところで押すために、ツボが分かっていないと、撮る方はすごく苦労されると思います。その中でも岡本さんは様々なことをご理解なさって、私が心を込めているところをちゃんと切り取ってくださる。色んなご苦労があるんじゃないかと思って作品をいつも拝見させていただいております。

佐藤:こうやって聞いていますと、ぜひとも岡本さんの話を聞いてみたいなと思います。よろしければぜひ……。

(岡本氏登壇。会場拍手)

岡本隆史(以下、岡本):初めまして。岡本隆史です。

佐藤:気恥ずかしかったかもしれませんが、菊之助さんの思いを聞いていかがでしたか?

岡本:恥ずかしいですね(笑)。菊之助さんとは10年間一緒に撮影させていただいているのですが、実は本当に一番最初に撮影したのは僕がまだ篠山紀信先生の助手をしていた時だったんですよ。
菊之助さんは多分知りません。蜷川幸雄さん演出の『NINAGAWA十二夜』で、確か千穐楽ですかね、篠山先生がどうしても外せないスケジュールがあって、先生から「お前、撮っといて」と言われ歌舞伎座に向かいました。その頃はやはりまだまだ未熟で、菊之助さんは一人三役を演じ、早変わりで仮面をつけた偽物と入れ替わったりもするものですから、途中どちらが本物の菊之助さんかよく分からなくなったりした覚えがあります(笑)。事務所に帰って写真を確認したら一部仮面の方だったりと・・・。
カーテンコールは本物も偽物も蜷川さんもみなさん並んで出ていたので良かったです(笑)。

佐藤:本写真集の菊之助さんと岡本さんの後書き、おふたりが並走している感じがすごい好きです。岡本さんから、菊之助さんに思うことは?

岡本:菊之助さんは、撮っていて気持ちが良いんです。ファインダーから覗いていて、とにかく美しい。女方や立役はもちろん、化け物のような役でも恐ろしさの中にどこか凛とした筋が一本通っている。
例えばまさに先月演じられたジブリさんのナウシカのイメージのような、他の役者さんでは出せない、菊之助さんにしか当てはまらないのではないかと思うくらい真っ直ぐさと透明感を合わせ持っていて適役だと思いました。

菊之助:二人三脚で10年ご一緒させていただいて、毎月のように重い機材を劇場に運んで撮っていただいて、私も気づかされるところがあるんですよね。ポートレートだと形を決めて撮るんですけど、手の角度が少し異なるだけで役の印象が違います。ものを持つ高さも自分は理想的な高さだと思っても、写真を撮っていただくと実際は理想より低かったりします。それを写真を通じて、気がつきました。自分を客観的に勉強させていただいている時間でもあります。こうして10年間研鑽をつんでまいりましたが、もっと皆さんに喜んでいただける役者になりたいと思っています。そのためにも、岡本さんとの時間は私にとって修行の場になっているので、これからも続けていきたいなと思っています。

舞台の合間をぬって残した吉右衛門と丑之助との写真

佐藤:岡本さんにとっては、今回の写真集は何冊目ですか?

岡本:写真集としては2冊目です。

菊之助:そうなんですか。

岡本:1冊目は、鼓童(こどう)という和太鼓集団を撮ったもので、肉体美に迫ったアート写真集です。

佐藤:今回2冊目を出されていかがでしたか?

岡本:正直、よくこの短期間でこれだけのものができたな、というのが感想です(笑)。自分で言うのもなんですが、ページをめくる度にほんと良く組めているなと毎回思います。

佐藤:この写真集の撮影でのご苦労は?

岡本:苦労は全くないですね。撮りたいと思わせてくれる被写体の方なので、撮っていて本当に楽しいです。
(会場に向かって)皆さんよりも僕が一番楽しんでいるんじゃないかな。ファインダーから覗くと凄いんですよ。客席の一番後ろから撮っているんですけど、超望遠レンズを通すとこんなに大きく見える。
細かな動きや気持ちを追いながら「あぁ、美しい・・・」とか呟きながら撮っている感じです。

佐藤:会場からも「うらやましい」という声がもれていますが……今回の写真集でおふたりのお気に入りのカットを教えてください。まず菊之助さんからお願いします。

菊之助:私のお気に入りはこちらです。『梅ごよみ』の仇吉。今まで後ろを向いて撮ることがなくて、試しに撮ってみたんです。女形は、舞台ではお客さんに前をお見せするんですけど、帯の具合や襟の向き具合ですとか、うなじから背中、腰、足にかけての線が綺麗じゃないと、芸者はいい形に見えない。これを撮ったとき、後ろ姿ももっと研究して、後ろから見ていただいたときも納得していただけるような形になっていかないといけないと思って、これを選びました。

佐藤:ありがとうございます。岡本さん、こちらは当店で開催されている写真展のど真ん中に展示している大きな写真ですが、いかがですか?

岡本:僕も好きな作品です。普通ブロマイドなどを撮られているカメラマンの方は、ひと演目で何人もの役者さんを狙わないといけません。でも僕はずっと一人。菊之助さんだけを追っているんですね。見得を切って決まるとか、見せ場だとかいうところは勿論、それ以外もずっと良い瞬間を狙っています。
引っ込んでいく後ろ姿から何かを気にかけて振り向く姿など、歌舞伎のブロマイドではまず撮られない写真ですが、僕はそうしたふとした瞬間にその役の芯の部分が垣間見えると思っていて、そういうチャンスをいつもうかがっています。バック紙のスチール撮影では決まりのポーズは菊之助さんがご自身でやってくれるので、この時はそれ以外にふと閃いたこのバックショットの見返り姿をリクエストして撮らせていただきました。

佐藤:次の写真は……あ、お父様ですね。菊五郎さんと。
 


菊之助:『め組の喧嘩』です。喧嘩場での一番最後の場面です。焚出し喜三郎が出てきて、大勢がウワッと入り乱れているときのこの構図を抜いてくださいました。辰五郎と藤松のふたりというのは、ごちゃごちゃしてて綺麗な構図が出来上がりにくいんですけど、岡本さんがこうやって撮ってくださいました。私も辰五郎はぜひやってみたい役ではありますので選びました(会場拍手)。

佐藤:素敵な写真ですね。

岡本:これはおふたりが近づくシーンをずっと狙っていて、なかなかその機会がなかったんですけど、これが見えたときは「来た!」と思いました。

菊之助:ハハハ!

佐藤:ずっと菊之助さんを見ていたからこそ撮れた写真ということですね。男の色気が漂う1枚ですね。

岡本:ありがとうございます。

佐藤:次は、『夏祭浪花鑑』で中村吉右衛門さんと。

菊之助:これは始まる前ではなくて、住吉の場面が終わって、歌舞伎座のエレベーターに三人で乗って上がって、岡本さんが待ち構えてくれていたところに行って撮りました。岳父(吉右衛門さん)は仕度で戻らないといけないから、非常に短い時間だったんですけど……。なんか和史がお饅頭みたいな顔していますけど(笑)。私も「夏祭」という演目に出させていただいたのは初めてでしたので嬉しかったですし、家族も出させていただいて、(和史さんも)毎日楽しんで舞台させていただいたのでこの写真を選びました。

佐藤:舞台から抜け出てきたような印象を受けます。「夏祭」の家族の姿がしっかり出ていらっしゃいます。

菊之助:この写真を撮ったのは、舞台袖に引っ込んだ直後でした。岳父は本当に汗かいていました。立ち回りした後で息も上がっていて、(和史さんをおんぶして)重いと思うんですけど、相当体力を使いながら写真に協力してもらいました。私にとっても思い出深い写真になりました。

岡本:僕は普段、役の姿の吉右衛門さんを撮らせていただくことはあまりないので、結構緊張して待っていました。
スタジオセットした控え室で待っていて、いついらっしゃるか分からない。すると急に騒々しくなり、吉右衛門さんが息を切らせながらお付きの方々を引き連れ走ってやってきました。
普通、役者さんはセットに入る時どこに立ったら良いか自分では分からないものなんですね。ですが吉右衛門さんは、何も言わずに僕が立って欲しいと思っていたポジションに寸分違わず立たれました。きっと今までの経験もあるのでしょうが、このセットでこのライティング、3人で撮るならばここだと瞬時に見極めていらっしゃったのでしょう。その時点で良い写真が撮れると確信しました。

佐藤:かっこいいですよね。吉右衛門さんの凄さが垣間見えるエピソードです。

新作と古典をともに 今後の活動語る

佐藤:続いてはこちら。岡本さんがお選びになった『京鹿子娘道成寺』のこの1枚。
 


岡本:道成寺は何回も撮らせていただいているのですが、10年も撮っているとカメラも進化します。カメラの進化に伴って昔では撮れないものが撮れるようになったなと感じたのがこちらの写真です。
2019年5月の和史くんが丑之助を襲名したときのものです。昔はどんなに消音装備をしても微かにはシャッター音が漏れてしまうので、お客様の不快にならないタイミング、シャッター回数でしか撮ることができませんでした。
それが今のカメラは全くの無音で1秒間に20枚も撮れてしまう。これによってジャンプの瞬間のほとんど全てが撮れるので、その中でも一番良い形のこの写真をチョイスすることが出来ました。

菊之助:カメラが進歩するなら、役者も進歩しないといけないですね(笑)。そうやってテクノロジーの進化で、選ぶ側もより幅を持って写真選びをできるのはありがたいです。ただできれば、その1秒20枚、全て美しいと言われる役者になりたいですね。

(会場拍手)

佐藤:次のこちらも素晴らしいですね。

岡本:美しいですよね。僕が独立してまもなく、『NINAGAWA十二夜』ロンドン公演の楽屋で撮った一枚です。
ロンドンなので、日本の楽屋の色とはちょっと違います。このとき初めて菊之助さんが顔する(編注:顔に化粧をほどこすこと)のを撮りました。
役者さんが顔する姿の撮影はなんとも言えない独特な空気が楽屋中張り詰めていて特別な緊張感があります。その緊張感ゆえ、ぞっとするほどの美しい横顔が撮れました。

佐藤:このときのこと、覚えていらっしゃいますか?

菊之助:そうですね……。シェイクスピアの本拠地で、シェイクスピアを歌舞伎にして演じることに対して、どういう反応があるのかすごく緊張していた覚えがあります。でも蜷川さんも温かく、厳しく指導してくださいましたし、後は出るだけだという思いで舞台に立ちました。そしてこのとき、すごく寒かったんですよ。パブで煙草とか大丈夫な時代だったんですけど、楽屋では駄目だったんですよ。うちの父はすごくヘビースモーカーで、わざわざ寒い楽屋外の出入り口に行って吸わなきゃいけなかったため、「煙草吸いたい」という気がバンバン伝わってきたのを覚えています(笑)。

佐藤:残念ながら、イベントはそろそろお時間です。今回の写真集は『風の谷のナウシカ』の歌舞伎公演の開始に合わせて発売されました。せっかくですので、最後に公演を終えた今の心境をお聞かせください。

菊之助:はい。この作品は4、5年かけてジブリさんとお話させていただいて、それから制作、脚本にたずさわりました。打ち合わせを繰り返して頭で色んなことを考えていても、役者としていざ板の上で動くとガラッと変わっていきます。それでも、私がジブリを歌舞伎としてやりたいという想いを、皆さんが協力して支えてくださいました。あれは現場で作り上げたものです。いくら準備をしても、役者自身の歌舞伎の蓄積が舞台を作り上げるんだなと痛感しました。どんなに新しい歌舞伎でも、やはり先人が築き上げてくださった知恵や経験がないと歌舞伎役者は舞台に立てないし、作品を生み出せません。新しいものを作ろうとか奇抜なことをしようという思いはないです。先人たちのように、時代ごとに普遍的なテーマを捉えて新作歌舞伎を作り上げ、歌舞伎の間口を広げる動き、そして古典歌舞伎。この両方をやっていきたいです。
 
 
文:桜井恒ニ 編集:銀座 蔦屋書店


[プロフィール]
五代目 尾上菊之助 (ごだいめ おのえ きくのすけ)
歌舞伎俳優 (屋号/音羽屋)
1977年8月1日生まれ。七代目尾上菊五郎の長男。岳父は二代目中村吉右衛門。1984年2月歌舞伎座『絵本牛若丸』の牛若丸で、六代目尾上丑之助を名乗り初舞台。1996年5月歌舞伎座『弁天娘女男白浪』の弁天小僧、『春興鏡獅子』の小姓弥生・獅子の精で五代目尾上菊之助を襲名。
 
岡本隆史 (おかもと たかし)
写真家。神奈川県生まれ。
 写真家篠山紀信氏に師事し、2007年独立。雑誌、広告、舞台、Webなど、主に俳優、女優、アーティストなどのポートレート撮影を中心に幅広い分野で活動中
 
 
写真集情報
 
<銀座 蔦屋書店限定版>
「五代目 尾上菊之助」+限定オリジナルプリント1枚「京鹿子娘二人道成寺」
価格:30,000円 (税別)
オンラインストア
 
< 豪華特装版>
「五代目 尾上菊之助」+押隈1種+オリジナルプリント1枚(たとう入り)
価格:288,000円 (税別)より
▶オンラインストア
 
現在ご購入いただけなくなっております。3月7日より再度販売を開始します。
※3月6日現在、鏡獅子、土蜘のみ少数在庫あり。なくなり次第終了となります。
 
<通常版>
「五代目 尾上菊之助」
価格:25,000円 (税別)
▶オンラインストア
 

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