【イベントレポート】村上隆×菅野康晴×黒田佳雄「北大路魯山人展」トークイベント


11月2日〜10日、銀座 蔦屋書店のGINZA ATRIUMにて「北大路魯山人展」が開催された。開催を記念して11月7日、現代美術の世界的な牽引者であり魯山人の心酔者である村上隆氏、『工芸青花』編集長の菅野康晴氏、長年にわたって魯山人作品を取り扱う銀座 黒田陶苑三代目店主・黒田佳雄氏の3名が「北大路魯山人、その人と作品」と題したトークイベントを実施した。 
※本記事は、約60分のイベントの内容を一部抜粋・再編集したものです。 
 
村上隆、魯山人はピカソに並ぶ「巨人級」低評価の理由語る 
 
黒田佳雄(以下、黒田):本日はよろしくお願いします。
 
村上隆(以下、村上):はい、よろしくお願いします。「北大路魯山人展」という場で話ができるのは大変光栄です。「魯山人」という冠がついたイベントで話すのは生まれて初めてです。自分は、現在存命中のアート関係者の中で10本の指に入るくらい魯山人を語れると思っています。僕は、現代美術の制作と販売が本業で、日本画も骨董も「生活工芸」系の陶芸作品、もちろん魯山人の作品も随分コレクションしています。そういう蓄積と魯山人との相対的な考察においても、色々、話せると思います。 
 
黒田:村上さんが思う魯山人とは?
 
村上:彼の日本における、果たした功績の凄さに比べて、評価が異常に低い人物です。存命中のスキャンダラスな各種の炎上が、今も尾を引いているんでしょうね。どれくらいの評価が必要かというと、本阿弥光悦との比較くらいは行なわれて然るべきです。魯山人が成し遂げてきたことは、巨人級です。なんと言っても、現代の懐石料理の始祖そのものなんですから!
あとその巨人ぶりを理解できる逸話に、戦後の日本人の精神が弱りきってて、何でもかんでも西欧米国に追従していた時に、ピカソに会いに行き、三一扱いを受けて、憤激した魯山人が「あんな詐欺師が大芸術家のハズがない!」と喝破するんですが、作品の成り立ちとか、美の成立する部分でも、納得の行かないことがあって、ピカソを蹴散らすだけの勢い、自信もあったんだと思います。そういう審美眼、己の美の正義を持っていた人でした。
そしてそんな魯山人の当時の日本国内での好敵手だったのが、日本民藝館を創設した柳宗悦です。
 
菅野康晴(以下、菅野):『芸術新潮』編集部にいた 2001年に、骨董商4人が語る「現代の器」特集を作りました。多くは意見が割れたのですが、「器名人は誰か」という話のときは全員一致でした。魯山人です。ところがその後、いわゆる「生活工芸」界隈では魯山人が語られなくなる。
 
 
黒田:魯山人が語られなくなった理由とは?
 
村上:日本の文化人が、自国の文化歴史に対して、白痴化したからかと思います。西洋、特にアメリカの文化ばかり勉強している。母国や近隣の文化を勉強することを怠けてしまい、物の良し悪しの文脈が理解出来なくなってしまったのです。その証拠に、「生活工芸」の人たちも気がついていないことでしょうけれども、「生活工芸」の根源が、アメリカ文化に依拠している。菅野さんが編集して来た工芸系の文献を読むと、その部分が透けて見えて来ます。
本来、日本文化を探ると視線は朝鮮、中国に向かわざるを得ないのですが、この30年はこのあたりも軽視されています。柳宗悦は、イギリスがエジプトの遺跡を発掘したような目線で、朝鮮文化を発掘していったと思います。植民地主義的な目線によってです。しかし柳は、絵を描いていない真っさらな器を、あの頃始めて美として定義した。その意義、功績はありますが、まぁ、ブルジョアのインテリ趣味の域ではあったと思います。
魯山人と柳の大きな差は、柳のボンボンでブルジョワジーVS魯山人は捨て子。色んなところでゴツゴツぶつかり続けて育っていった、食べることにも金にも意地汚い、忌み嫌われる賤民だったのです。その意味でも、魯山人は自分の人生を賭けて、いわゆるボクサーの表現で使われるハングリースピリットを持って、自分の腕一本で上流階級まで上り詰めた。上流階級の人間からすると「何をこの下卑た奴が!」というくくりだったと思うのです。 
 
魯山人の核心は「食への渇望」食文化こそが日本文化の頂点 
 
村上:この会場に展示されている作品は、作品そのものを眺めてうんうん唸るようなものではなく、概念そのものが大事なのです。マルセル・デュシャン(編注:仏美術家。20世紀の現代アートなどに大きな影響をおよぼした)的なコンセプチュアルな芸術概念そのものであって、その魯山人の芸術の核心は、食への渇望が半端ない点にあります。孤児で食うに困って、非常に貧しいところから出て来て、腹の底から意地汚い。そのリアルと、日本、東洋の美の歴史の含蓄との融合に化学変化が起きて、奇跡的なバランスで魯山人芸術が花開いていたのです。 
 
 
黒田:なるほど。 
 
村上:今現在、日本における文化の頂点は、ゲーム、漫画とともに、食文化です。和食、割烹の世界を作ったのは魯山人その人。それがゆえに、日本の和食の料理人が成功すると必ず魯山人の食器を欲しがる。それは、彼が原点であり、出発点にして到達点、と理解しているからです。驚くべきコンセプチュアルな受け取られ方なんです。概念が命なので、作品そのものの出来不出来は、二の次で良い。彼の芸術の真髄である料理、そしてコミュニケーション。その舞台が器。その器が変幻自在なので、本格的に料理を学んだ人間たちからすると、魯山人の器に触れた瞬間、スケール感、無限大の広がりに心が開いてゆくのです。魯山人は昭和陶芸という時代に生きていて、当時活躍したであろう同世代の作家連中に罵詈雑言を浴びせかけた。事実、昭和陶芸の公募団体のお偉いさん達は、罵詈雑言をされても仕方ない、何の意味もない陶芸を作っていた。魯山人が生み出したものは、それとは天地の開きのある創造物。というか、思考、概念なんです。作品はコンセプトを運ぶビークルなのです。
 
 
魯山人と生活工芸の器は「行為」に価値あり 
 
村上:菅野さんが推奨していらっしゃる「生活工芸」の人々は、清貧の美の追求者であるハズなので、魯山人のことを本当に理解できたら、柳からの鞍替え必至なハズです。ですが、そうはならず、敵対者と見なされてしまっているのは、魯山人の作品の値段が高額だから。「高いと悪い」という概念がバブル経済崩壊後の日本にはあって、高額だと嫌悪の対象となってしまう。でも、魯山人は、そもそもの出自が貧困の極地ですから。誤解を解く為に、日本の美の教養の塊、菅野さんと結託したいと思っているのです。
 
菅野:村上さんも以前おっしゃっていましたが、器に関して、昭和陶芸の作家たちと魯山人の違いを端的にいえば、前者は「物」が答えであり、後者は食べるという「行為」が答えだということだと思います。そこが魯山人陶の卓抜さなのですが、じつは「生活工芸」の答えも「物」にはなく、人々の暮しのなかで使われることを「答え」とした。つまり魯山人と生活工芸は価格も客層もまるで異なるにもかかわらず、「行為」が答えという点で共通するのです。
 
 
村上:おお!!いいですね。そういう理屈と歴史の学びで、「生活工芸」の人々が魯山人に開眼してくれることを切に願いますね。魯山人史上最高の評価の時代が到来するのかなぁ?僕からすると「魯山人まだまだ安いなぁ」と思うんです。安いほうが買えるからいいんですけどね。今回の展示ではいいものがいっぱい出ているのであれもこれも欲しいです(笑)。ただし、和食を食べに来日する中華圏の方々は魯山人に気がついて、値段が上がっているという話も聞きます。 
 
 
黒田:間違いなくそう思いますね。今や、世界的に魯山人は注目されています。中華圏もそうですし、欧米の人も日本の陶芸、特に魯山人に興味を示しています。
 
村上:中国の青花の時代の器とか、本国中国ではオークションで100億円を超えてますが、それを買う体力は現在の日本にない。悲しいことです。日本人はここ20年、バブル経済が崩壊してから30年ほど経つ中で本当に馬鹿になってしまった。「金=悪」というくだらない理屈にはまってしまって歴史の継承ができなくなったし、自分たちの文化は何かということも理解できなくなってしまった。その中で、運良く好事家たちが、いいコンディションで魯山人の作品を残してくれて、こうやって黒田陶苑さんのところへ帰ってきてもう一度売りに出すこともある。僕的にはこの文化、食文化がこれだけ発展しているなら、陶芸芸術ももっと発展してしかるべきではないかと思ってプッシュしたいです。 
 
文:桜井恒ニ 

■3Dオンラインビューイングでの販売は2020年11月30日(金)まで開催中 
https://store.tsite.jp/ginza/blog/humanities/16872-0940251103.html
 
[登壇者プロフィール] 

村上隆 (むらかみ たかし)
アーティスト、有限会社カイカイキキ代表 1962年、東京生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。博士号取得。博士号論文「意味の無意味の意味」
有限会社カイカイキキ代表。 
京都に陶芸店「となりの村田」をオープン。 陶芸に関する展覧会は横浜美術館でのスーパーフラットコレクション展、十和田市現代美術 館、熊本市現代美術館では陶芸と現代美術を繋ぐキュレーション展「バブルラップ」展を開 催。
2020年より本人も陶芸作品を制作開始。
 
菅野康晴 (すがの やすはる) 
『工芸青花』編集長。1968年栃木県生れ。早稲田大学第一文学部卒業後、1993年新潮社入社。『芸術新潮』及び「とんぼの本」シリーズの編集部に在籍後、2014年「青花の会」を始める。担当した本に、川瀬敏郎『一日一花』、坂田和實『ひとりよがりのものさし』、中村好文『意中の建築』、三谷龍二他『「生活工芸」の時代』、李鳳來『李朝を巡る心』など。共著に『工芸批評』(新潮社青花の会)。 
 
黒田佳雄 (くろだ よしお) 
銀座 黒田陶苑三代目店主。1962年神奈川県鎌倉市生まれ。 京都での5年間の丁稚奉公の後、株式会社黒田陶苑入社。2011年同社代表取締役就任。 同社の伝統である若手陶芸家の育成に力を注ぎ、さらに海外の美術館などで北大路魯山人らの作品を紹介するなど国内外で陶芸の魅力を伝えている。新人の発掘には定評があり、多くの人気陶芸家を輩出している。古陶磁蒐集や作陶を趣味にするなど、公私ともにやきもの好きとして有名。 
 

[イベント情報] 
イベント名:「北大路魯山人展」
会期:2020年11月2日(月)~10日(火) 
3Dオンラインビューイングでの販売会は11月30日(金)まで
https://store.tsite.jp/ginza/blog/humanities/16872-0940251103.html 
主催:銀座 蔦屋書店
協力:ARCHI HATCH
販売:店内での展示が終了しても作品は2020年11月30日までご購入可能です。 お問い合わせ:お電話または、メールにてお問い合わせいただけます。 
※3Dオンラインビューイング上にあっても売約済みの場合があります。 
 

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