【菅原敏 詩集『かのひと 超訳 世界恋愛詩集』×五人の陶芸家】今井律子×小野小町「そうね、私は年をとった」編
5人の陶芸家が、詩集『かのひと 超訳 世界恋愛詩集』から一遍の詩を選び、その詩にインスパイアされ制作した作品を、銀座 蔦屋書店BOOK(文具)にて展示販売いたします。(3月20日(火)~)
発売を記念し、小野小町の「そうね、私は年をとった」を選んだ今井律子さんにインタビューを行いました。
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可愛らしくもどこか儚さを感じさせる今井さんの作品。小野小町の、昔の恋を想う底知れぬ哀しみは、今井さんの作風に自然と融和していきます。「夜の衣を裏返して着た」の一文には、誰もが経験したことのある切ない恋心がうたわれています。恋する人を思ってひとり眠る夜、そんな夜からイメージを発展させて、今井さん独自の世界観に落とし込んでいます。日本人ならではの、内に秘めた静かで繊細な感情を、一筆一筆細やかに描いた、渾身の作品です。
-なぜこの詩を選んだのですか?
今井:詩集を受け取って最初に読んだのが与謝野晶子と小野小町でした。同じ日本人女性として、詩が含んでいる繊細な感情が、海外の作家の作品よりも自分の感覚に瑞々しく届きそうだと感じたからです。そして偶然にも菅原さんにもこの二作家の詩を私の作品に選んでいただいたので、より今の自分の在り方と近いと思える方を選ばせていただきました。
与謝野晶子の詩からはとてもパワフルで熱い炎のようなイメージを受けました。自分のメッセージを伝えるために批判を恐れずインパクトの強い言葉を意図的に選び、多くの女性の価値観を開花させた人。小野小町はそれとは対照的に、とても熱いけれど静かな感情を、熱いまま外に出さずに複雑で美しい表現で構築し直して伝える人だと感じました。わかりやすい派手な形ではないけれど、深く静かに心の奥に届くような、今の自分の粘土との向き合い方は、こちらの感覚に近いと感じました。
-この詩をどのようにイメージ(器)に転換されたのか教えてください。
今井:当初は繊細な感情の描写に、自分の理解の範囲を超えていると思いましたが、いつのまにかキーワードとなっていたのは「夜の衣を裏返して着た / むばたまの 夜の衣を 返してぞきる」の部分です。浮かんだ情景や感情をそのまま描くのでは絵本のような幼いものになってしまうと思ったので、作者の悲しみや怒りやかつての恋人を思う気持ちを内包する、美しいだけではない星の夜空を背景において、その夜空と何処かで繋がっているような図柄を、轆轤で自由に引いた器に描きました。
-小野小町について、何か思い入れやエピソードがあれば教えてください。
今井:小野小町については生前の詳細がほとんど不確かであることが、詩人としての存在をより神秘的なものにしていると思いました。そんな正体不明な大昔を生きた女性が、現代の私たちと何ら変わらぬ思いを抱き、それを創作に繋げている点が、先の見えない今を自分らしく強く生きる力を与えてくれるような思いがします。
-今回、詩から器を作ってみて、いかがでしたか?率直な感想を教えてください。
今井:最初は、物を作ることに対するアプローチとしてとても面白そうだと思いましたが、想像以上に思考を研ぎ澄ませる行為であり、疲弊する制作でした。ですが普段とは全く異なる経緯で粘土に向かい手を動かすことは新鮮で楽しくもあり、個人的にとても興味深い経験となりました。機会があればまた挑戦したいです。
-ありがとうございました。
【プロフィール】
今井 律子 (いまい りつこ)
1984年群馬県生まれ。2003年大学で陶芸をはじめる。2011年栃木県釜業技術支援センター卒業、2012年益子町にて独立。どこの国のものかわからないような多国籍感、アンティークのような温もりが感じられる作品が特徴。古代の遺跡から発掘されたような名もなき人が作ったものに惹かれ、作為のない造作物から受けたインスピレーションを自身のフィルターを通し作品にしている。
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構成:銀座 蔦屋書店 石谷