【本のBATON Vol.5】時を旅する写真集|写真コンシェルジュ 濱崎

 時を旅する写真集
 
昔写真が発明されたころ、1枚の写真を撮影するのに1時間以上も時間を要しました。像を定着する処理にはさらにもっと多くの時間も要しました。やがて、カメラやフイルム・感材の発達により、1000分の1秒でも撮影することが可能になり、デジタルに移り変わった現代においては、撮った写真をすぐにその場で見られるだけではなく、撮って数秒後には地球の裏側でも見ることができるようになりました。
写真は現代を写す鏡とも言われますが、一方で、写真は撮った瞬間から過去のものとなります。未来を写すことは、現代の物理学においては不可能です。今や誰でもスマホで写真を撮ることができますが、それだけに、写真を作品として提示する写真家にとっては、なにかしらの哲学が必要になってきます。その重要なファクターのひとつが<時>です。もちろん見る側にも。今回は、その<時>を鋭敏に感じることのできる写真集をご紹介したいと思います。
 
『KAKERA』 田附勝/著 T&M Projects
 
新潟県各地の博物館の収蔵庫や発掘現場で保管されていた、縄文土器のかけらを撮影した作品集。中敷きや梱包として使用されていた新聞と共に撮影されており、その新聞の見出しから往時も偲ばれ、時間の層も感じることができます。
 
『The Pillar』Stephen GILL/著  nobody books 
 
田舎の広い敷地に杭(Pillar)を二本立て、一本にはセンサー付きのカメラを設置し、もう一本の杭に止まる鳥たちを撮影した作品集。シャッターを押す撮影者は著者でなくセンサーに委ねられており、予測不可能な自然の動態が素晴らしい。アイデアが面白いだけではなく、ページを捲るたびに崇高な自然の美を感じることのできる、昨年最も話題になった1冊です。
『THE AMERICANS』 Robert Frank/著  Stidel
 
昨年惜しくも亡くなったロバート・フランクの、写真集史に残る傑作写真集。50年代のリアルなアメリカ社会を浮き彫りにし、ドキュメンタリー写真が私的なアート作品になりえることを証明しました。2020年4月発売の雑誌『SWITCH』でも特集され、その人気も再燃しています。
 
『永遠のソール・ライター』 ソール・ライター/著  小学館
 
2017年に渋谷のBunkamuraで回顧展が開催され一気に注目された写真家、ソール・ライターの作品集。古き良きニューヨークを、天性の色彩感覚によって捉えられた写真は、おしゃれなだけでなく視覚の持つ可能性を大きく広げてくれます。いつ見ても発見のある飽きない写真集です。
 
『India』 鬼海弘雄/著 Crevis
 
浅草を舞台にしたポートレートで知られる鬼海弘雄は、1979年から2016年まで計17回もインドに通い、かの地と人を撮影した。1枚ごとに気の利いたタイトルと撮影年が載っているが、それを見なければいつ撮影したのかはわからないほど、人間の営みの普遍性を感じることのできる傑作です。
 
 
プロフィール:写真コンシェルジュ 濱崎
文学部美学科を卒業後さまざまな職を経たのち、2001年より大型書店に勤務し芸術書を担当。家族ができたことをきっかけに、写真を撮ることや写真集を見ることに夢中になる。ダイアン・アーバス、ロバート・フランク、植田正治、鬼海弘雄らの写真集に感銘を受け、写真や写真集の魅力を広く知っていただきたいと考え、梅田 蔦屋書店の写真コンシェルジュに。以降は、素晴らしい写真家たちとの出会いや言葉に触れていただくためのトークイベントを50回以上開催しつつ、一方で、書籍はもちろん、写真展示やグッズ、ワークショップ開催などをとおして、写真という面白ワールドへの垣根を低くしていく提案もおこなっている。
写真家としての顔も持ち、2015年には写真集『あと乃あと』(冬青社)を出版。2018年には大阪のgallery176で個展を開催し、同年TAIWAN PHOTOにも参加。現在も、二眼レフや大判などのフィルムカメラをお伴に作品を制作している。
比較的年齢を経てから写真の虜になった経験から、写真の伝道師となるべく日々奮闘中。
 
コンシェルジュをもっと知りたい方はこちら:19人のコンシェルジュたち

「本のBATON」は梅田 蔦屋書店コンシェルジュによる書籍・雑貨の紹介リレーです!
五つ目のバトンは写真コンシェルジュがお送りしました。
次のバトンもお楽しみにお待ちください。
 
 
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