【売場担当のコラム】冷やし中華にマヨネーズ?|人文担当 関

梅田 蔦屋書店にはそれぞれの分野に特化した知識をもったコンシェルジュや売場担当者がたくさんいます。担当するジャンルについてはもちろん、本のこと、日々のこと、それにも当てはまらない❝まさか❞のことまで、一人ひとりの個性を大切にしながら紡ぐ、コラムのコーナーです。第三回目は人文担当 関がお送りします。
 
 
 
 冷やし中華にマヨネーズ?
 
高校まで長野県で育った私は、大学進学で名古屋に引っ越しました。もうずいぶん前の話ですが、当時はまだ名古屋弁を話す方が多く、下宿先の大家さんや大学の友人と話すと、わからない言葉や独特のアクセントに戸惑いました。そこで、「郷に入っては郷に従え」とばかりに、名古屋弁について書かれた本を何冊も読み、名古屋弁の習得に努めました。そのかいあって、徐々に名古屋弁を覚え、コミュニケーションもとりやすくなりました。
 
名古屋弁の本はたくさんありますが、ここでは、『なごや弁 乙女心もときめくなごや言葉』(佐藤正明著、2016年7月、風媒社)を挙げておきます。昔ながらの自然な名古屋弁を、マンガを通して楽しみながら覚えることができます。この本が発売された時、私は名古屋から離れて暮らしていたのですが、学生時代にこの本があれば、もっと早く名古屋弁を習得できたかもしれないのに、と悔しく思ったものです。
 
 
―― 「マヨネーズつけますか?」
ようやく名古屋弁や、独時の「名古屋めし」に慣れてきた夏休みに、高校時代の友人が名古屋に遊びに来て、夕食を食べに近くのラーメン屋に行きました。

暑かったので、二人とも冷やし中華を注文したところ、お店の方に「マヨネーズつけますか?」と聞かれ、少し驚き、しばし考えました。二人とも冷やし中華にマヨネーズをつけて食べる習慣などないからです。少し考えて、せっかくだからとマヨネーズをつけてと注文し、数分後、横にマヨネーズが添えられた冷やし中華が出てきました。


冷やし中華にマヨネーズ?

恐る恐る、箸でマヨネーズを少しとって、冷やし中華にまぜて食べたところ、意外なおいしさに驚かされました。そもそも具材である、きゅうり、トマト、ハム、卵は、マヨネーズをつけて食べるのは自然ですし、何よりもマヨネーズのまろやかさが、スープの酸っぱさを緩和させ、甘みを加えて、より深みのあるおいしさを出しているのです。それ以来、私は、冷やし中華を食べるときにマヨネーズが欠かせなくなってしまいました。この話を、東京の知人に話したところ、「(マヨネーズをつけるなんて)ありえない!」と、あきれられましたが、これを読んでいるみなさんはいかがでしょうか?

 

―― 東と西、ニッポンの食文化の境界線
『決定版 天ぷらにソースをかけますか?』(野瀬泰申著、2018年7月、筑摩書房)によると、「(冷やし中華に)マヨネーズをつけるが優勢」なのは、愛知、岐阜、三重、滋賀、福島県で、それ以外のほとんどの地域は、「つけないが優勢」「つけるなんて!(ありえない)」という結果になっています。著者はこの謎に迫り、愛知・岐阜・三重県を中心に多くの店を展開する、ラーメンとソフトクリームの某ファストフード店と関係があるのでは、と推測します。その某ファストフード店の返事やいかに?! ネタバレになるので、これ以上は控えます。

タイトルの「天ぷらにソースをかけますか?」ですが、驚くことに、「かける」「かけない」が東日本と西日本できれいに分かれ、東日本は「かける」が20%未満なのに対し、西日本は「かける」が増え、和歌山県ではなんと80%以上だそうです。もちろん、この謎に対しても推論が述べられていますが、こちらも、気になる方はぜひ本書を読んでいただけましたらと思います。他にも、「『お肉』といえば何の肉?」(東日本では豚、西日本では牛がトップになる傾向)、「『ぜんざい』と『お汁粉』の呼び方どっちが優勢?」(東日本ではお汁粉、西日本ではぜんざい)など、様々な食文化の境界地図が満載です。
 
 
―― 「食の方言」調査報告
「東海道における食文化の境界」の章は、著者が実際に日本橋から三条大橋までの東海道を、35日間かけて自身の足で歩き、「サンマーメンの存在地域はどこか」「名古屋の喫茶店のモーニングサービスはどこに始まってどこで消えるのか?」「うなぎの背開きと腹開きの境界線はどこか」等のテーマを調べた、貴重な報告です。

新聞記者ならではの、自らの目で確かめたいという気概があったとはいえ、今までこれだけの手間暇をかけて調べた方がどれだけいたでしょうか。東京から京都まで、新幹線だと2時間ちょっとですが、その間に、これほどの豊かな食文化があることに、改めて驚かされました。

さらに、東海道の調査を終えて2年半後には、今度は糸魚川ー静岡構造線を18日間かけて歩いて、各地の食を調べています。まさに空前絶後の「食の方言」調査報告です。食を知る事は、冒頭の方言の話に戻りますが、地元の方とコミュニケーションをとることではないかと思います。ぜひ本書を旅や出張、あるいは転勤時のお供にしてみてはいかがでしょうか。

なお本書は、『天ぷらにソースをかけますか?』(2008年1月、新潮文庫)に続編『納豆に砂糖を入れますか?』(2013年9月、新潮文庫)を増補して、2018年7月にちくま文庫として刊行されました。

PROFILE|人文担当 関
長野県出身。子供の頃から熱烈な中日ドラゴンズファンで、きしめんが大好物だったこともあり、名古屋に住むことに憧れる。高校卒業後、その夢が叶い、名古屋の大学に進学。学生時代はドラゴンズを応援するかたわら、大小さまざまな、個性豊かな書店に通いつめているうちに、書店員になりたいと思い、卒業後は愛知県内の書店に就職。以後、長年にわたり、大型店で歴史書など人文書を中心に担当し、著者をお招きしたイベントを多数開催。イベントを通じて歴史学者のお話を聞き、優れた著作に触れるにつれ、歴史の面白さにますます魅了され、休日は各地の史跡を訪ね、博物館などの展示を見に行くことが多くなりました。やがて梅田 蔦屋書店にご縁をいただき入社。お客様の立場になって考え、提案できるコンシェルジュ目指して、日々奮闘中です。
 
今回ご紹介した書籍
『決定版 天ぷらにソースをかけますか? ニッポン食文化の境界線』
野瀬泰申 著 / 筑摩書房
『なごや弁 乙女心もときめくなごや言葉』
佐藤正明 著 / 風媒社
ご感想はこちらまで:umeda_event@ccc.co.jp
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