【裏方のコラム】目と、手ざわりで選ぶ本

梅田 蔦屋書店の裏方スタッフが執筆する「裏方のコラム」。装飾・デザインチームを中心として、本や売場、その周りについてをお届けします。
 
 
目と、手ざわりで選ぶ本
 
 
好きな作家の新刊、世間で話題になっている本、大好きなあの芸人が出したエッセイ、賞を取った小説、友達に勧められた詩集……あなたが今しがた手にとった本は、どのような理由で選んだ書籍でしょうか。 理由は何にしても、その書籍とあなたが出合ったその瞬間を、梅田 蔦屋書店のスタッフは心の中で拍手を贈っています。本との出合いに祝福を。
 
私も新しい本との出合い、店内をフラフラしながら探している最中なんですよね。
どれどれ。おっ。この本も素敵だなー。
 
ところで、裏方のTがいつもどのように本を選んでいるかというと、それはズバリ「ジャケ買い」なのです。 ……どういうこと?
 
今回の裏方のコラムは、裏方のTが次に読む書籍を選んでいるところをこそっとお見せしつつ、私の「ジャケ買い」についてお話ししたいと思います。(書店員さんは書籍の内容をお勧めすることが多いですが)裏方のコラムなので、こんなイレギュラーコラムもあり……ですよね?
 
 

――装丁は本への入り口

先日から梅田 蔦屋書店内文学コーナーで始まったフェア【好きです 韓国文学】
裏方のTはこちらのフェアポスターを制作したのですが、打ち合わせの時点から文学コンシェルジュ河出さんの推しコメントが炸裂していて、韓国文学がずっと気になっていました。しかも展開後のフェア台を見ると、「ジャケ買い」してしまいそうな書籍がたくさんあります、そそられます。
 
ところで、皆さんは、ブックデザイナー(もしくは装丁家/装幀家)というお仕事をご存知でしょうか。著者が書いた物語などを「本」の形に仕上げるお仕事で、表紙(装丁)・帯・使用する紙・造本……のおよそすべてを手がけることもあります。 ブックデザイナーはその本の魅力を、その本のデザインで伝えようとしてくれています。私はそんなブックデザインとのファーストコンタクトを信じて本を選ぶことが好きなのです。ということは正確には「ブックデザイン買い」というべきでしょうか?
 
……と、そんなことを言っている間に【好きです 韓国文学】フェア台前にやってまいりましたよ。
(以降、個人的見解でお送りしますね!)
 
 
候補1『菜食主義者』ハン・ガン/著  きむ・ふな/訳 クオン
装幀:寄藤 文平・鈴木 千佳子
菜食主義者
 
書棚にある時から気にはなっていたんです。玉ねぎが。 こちらの装丁は寄藤 文平さんと鈴木 千佳子さんが手がけています。 白い(と言ってもはねつけるような白じゃない優しい白い)表紙に、オレンジ色の玉ねぎが繊細なタッチながらも横にゴロンと、しかも、大胆に配置されているその書籍は『菜食主義者』という本のようです。菜食主義者だけど安直に緑じゃない感じが、また意味があるのかな、なんて。
 
表紙の紙質が繊細でなめらかです。それが木蓮のはなびらみたいで。この本を読んでる間にずっと触れていられるのか。いいなあ。うわ、表紙をめくると見返しが玉ねぎだらけです。一見、水玉柄みたいで可愛いですが、表紙の繊細なイメージとうってかわって、なんだか、雲行きが怪しくて不安を煽ってきますね、玉ねぎが。
 
天アンカットってなんだろう。
 
私は実は最近知ったのですが、「天アンカット」というものがあるらしく、この本にも「天アンカット」が採用されているようです。実際に見てみてください。本をめくる側の小口と比べて、上側の小口がジャギジャギしていませんか?本の天(上)部分をそろえてカットしないという、「作業工程を省く」製本方法ですが、その言葉とは裏腹に、実際にはカットするよりも手間のかかる製本となっていて、それを知った私はすごく愛おしい気持ちになりました。これによって柔らかな雰囲気を残しつつ装丁されていることがよくわかります。……うーん。いいな。
 
 
候補2『砂漠が街に入りこんだ日』グカ・ハン/著  原 正人/訳  リトルモア
装幀:川名 潤
『砂漠が街に入りこんだ日』
 
こちらの装幀は川名 潤さんが手がけています。
「逃げて、孤立しても、生きていくのだ。」 まず目に入ったのは、発色の良い黄色に書かれたそのコピーです。 以前は違ったようですが、最近は帯まで含めてブックデザイナーがデザインしていることが多いです。この本も例外ではなく、グレーでまとめあげられた本の表紙を引き立てる、アクセントカラーの魔法が効いています。この本を読んでいる人が電車で前に座っていたらきっと、この帯読んじゃうなあ。強い心持ちを感じます。
 
表紙カバーを取ってみますね……

カバーをとると、砂漠が広がっていました。
 
砂漠の夜に月の光に照らされてさらさらと砂が舞いつつ、砂山の稜線が白銀色に光る風景が脳内再生されます。そんな銀色であしらわれた文字が、表紙の、砂漠のような黄ボール紙の上に浮かんでいます。すごく綺麗……。こちらの本は韓国出身の著者がフランス語で書いたものを日本語に訳しており、タイトルがフランス語表記なのですが、それがまたエキゾチックです。本の背から表紙にかけて、ちょこっと文字が回り込んでいるのも、その繊細な仕事が意図されているものだと感じられませんか?
……うーーん。いいな。
 
 
候補3『彼女の名前は』チョ・ナムジュ/著  小山内 園子・すんみ/訳  筑摩書房
装幀:名久井 直子
『彼女の名前は』
 
映画化された『82年生まれ、キム・ジヨン』(以降『キム・ジヨン』)の著者が書いた、次作の短編集『彼女の名前は』。『キム・ジヨン』を担当されていた名久井直子さんが『彼女の名前は』の装丁も担当されています。カバーイラスト担当は『キム・ジヨン』は榎本 マリコさんで、『彼女の名前は』は樋口 佳絵さんですが、意図してか『キム・ジヨン』と同じく顔が見えない少女たちが描かれています。
優しいタッチで描かれていて、顔は隠れているけれど視線は感じるというか。少女たちは今どんな表情をしているのだろう。装丁を見ることは、内容を深く考えるきっかけになると思うのです。
 
紙の使い方がすてきです。
 
この装丁でハッとさせられるところは紙でした。表紙、帯、見返し、結構多様な紙質の紙を一冊にまとめているのに美しいです。表紙は暖かい手触りの紙で、優しい。帯の朱色と中の薄い水色の紙は表紙カバーイラストの女の子たちに使われている朱色や水色のカラーと共鳴して気持ち良いし、めくるたびに景色が変わるような感じがするし、充実しています。これだから紙の違いを感じられる書籍は大好物なのですよね! ……うーーーん。いいな。
 
……ということで、他にもたくさんある素敵な本に目移りもしつつも、以上3冊の本のブックデザイン実況をお送りしました。 (自分で盛り上がっていたので不安ですが、)裏方のTの「ジャケ買い」風景はなんとなく感じ取っていただけたでしょうか。
 
実際に本を手にとって見ていただくと、リアルに感じられると思うので、ぜひお店に足を運んで見て、触れていただければと思います。本を読むとき、本を選ぶときに「そういえばブックデザインってのがあるんだっけ。この本はどんなデザインで、どんな想いで作られたんだろう。」と考えるきっかけとなれば幸いです。
 
結構長尺で悩んでおりましたが、様々なブックデザインを噛みしめた上で、君に決めた!とハン・ガン著の『菜食主義者』を購入。 内容はこれからじっくりと、読み進めていきたいと思います。
 
私と、本との出会いに祝福を。
(あ、あと文学フェア【好きです 韓国文学】は現在絶賛展開中です。お見逃しなく。)
 
 
2020年10月19日〜11月23日  梅田 蔦屋書店  文学フロアで開催中!
 
 
今回ご紹介した書籍
『菜食主義者』
ハン・ガン著 / きむ・ふな訳
クオン
『砂漠が街に入りこんだ日』
グカ・ハン著 / 原正人訳
リトルモア
『彼女の名前は』
チョ・ナムジュ 著・小山園子 / すんみ訳
筑摩書房

PROFILE|裏方のT
梅田 蔦屋書店内のフェアポスターなどを制作しています。本に触れることが幸せ。
 
ご感想はこちらまで:umeda_event@ccc.co.jp
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