【クリスマスコラム】あなたに贈りたいことば | 文学コンシェルジュ 河出
本を贈る時、それがどんな言葉でできているかを考える。その本に書かれている言葉で、贈る相手に何を感じてほしいのか。それは驚きか。懐かしさか。優しさか…それはいろいろだけれど、少なくともこれだけは言える。もしあなたが誰かに本を贈るとしたら、それは贈る人の目に触れてほしい言葉で書かれているはずだ。ここにこの5冊が集まったのは、その単純な理由による。
あなたが子どもだった時、おはなしを読んでくれる誰かはいただろうか。いたとしても、あなたはもうその大切な時間を覚えていないかもしれない。私がもう一度子どもになれるとしたら、おはなしの時間にロダーリの物語を聞きたい。心優しく、昨日見た夢のようで、見たこともない景色のようで、温かい物語を。「緑の髪のパオリーノ」にはそういう物語が収められている。
ジャンニ・ロダーリ『緑の髪のパオリーノ』
あなたが少女だったことがあるならば、「どこにでもあるケーキ」という、美しい本のページに綴られている言葉のどれかが、「わかる」かもしれない。あなたが少女だったことがないとしても、あるいはこれらの言葉のどれもわからなかったとしても、ここに書かれている言葉が本当であることを、どうか信じてほしい。
三角みづ紀『どこにでもあるケーキ』
愛というものはいろいろな形をとる。「おおきな木」で描かれているかたちを、あなたは受け入れることができないかもしれないが、けれどもそれは確かにひとつの、どうしようもない愛のかたちである。
「悲しみの秘義」は、大きな喪失を経験した著者が、様々なことばを引きながら、自分自身の奥底にゆっくりと降りていく、その様を静かな文章を重ねて描いているかのような一冊。前に進むでなく後ろに下がるでなく、世界に自分が占めている場所に両足で立ってただ生きていくことについての本と言えるかもしれない。
「わたしを離さないで」はここにはとても書くことのできない秘密を抱えた物語。一作ごとにちがう顔を見せる作家、カズオ・イシグロが、どうしようもない切なさを書いた一冊だ。
カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』
若松英輔 著 / 文春文庫
ジャンニ・ロダーリ 著 / 講談社
三角みづ紀 著 / ナナロク社
シェル・シルヴァスタイン 著 / あすなろ書房
カズオ・イシグロ 著 /
ハヤカワepi文庫