【クリスマスコラム】あなたに贈りたいことば | 文学コンシェルジュ 河出

 

あなたに贈りたいことば

 

本を贈る時、それがどんな言葉でできているかを考える。その本に書かれている言葉で、贈る相手に何を感じてほしいのか。それは驚きか。懐かしさか。優しさか…それはいろいろだけれど、少なくともこれだけは言える。もしあなたが誰かに本を贈るとしたら、それは贈る人の目に触れてほしい言葉で書かれているはずだ。ここにこの5冊が集まったのは、その単純な理由による。

 

心優しく、昨日見た夢のようで――

あなたが子どもだった時、おはなしを読んでくれる誰かはいただろうか。いたとしても、あなたはもうその大切な時間を覚えていないかもしれない。私がもう一度子どもになれるとしたら、おはなしの時間にロダーリの物語を聞きたい。心優しく、昨日見た夢のようで、見たこともない景色のようで、温かい物語を。「緑の髪のパオリーノ」にはそういう物語が収められている。

ジャンニ・ロダーリ『緑の髪のパオリーノ』
 

あなたが少女だったことがないとしても――

あなたが少女だったことがあるならば、「どこにでもあるケーキ」という、美しい本のページに綴られている言葉のどれかが、「わかる」かもしれない。あなたが少女だったことがないとしても、あるいはこれらの言葉のどれもわからなかったとしても、ここに書かれている言葉が本当であることを、どうか信じてほしい。

三角みづ紀『どこにでもあるケーキ』
 

どうしようもない愛のかたち――

愛というものはいろいろな形をとる。「おおきな木」で描かれているかたちを、あなたは受け入れることができないかもしれないが、けれどもそれは確かにひとつの、どうしようもない愛のかたちである。

 

自分自身の奥底にゆっくりと降りていく――

「悲しみの秘義」は、大きな喪失を経験した著者が、様々なことばを引きながら、自分自身の奥底にゆっくりと降りていく、その様を静かな文章を重ねて描いているかのような一冊。前に進むでなく後ろに下がるでなく、世界に自分が占めている場所に両足で立ってただ生きていくことについての本と言えるかもしれない。

 

ここにはとても書くことのできない――

「わたしを離さないで」はここにはとても書くことのできない秘密を抱えた物語。一作ごとにちがう顔を見せる作家、カズオ・イシグロが、どうしようもない切なさを書いた一冊だ。

カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』
 


PROFILE|文学コンシェルジュ 河出
東北でのんびりと育ち大阪に移住。けっこう長く住んでいるのですが関西弁は基本的にはしゃべれません。子どものころから海外文学が好きです。日本語、英語、スペイン語、フランス語の順に得意ですが、どの言語でもしゃべるのは苦手です。本の他に好きなものは映画で、これまでも映画原作本の梅田 蔦屋書店オリジナルカバーを作ったり、「パラサイト」のパネル展を行い韓国文学を売ったりしています。これからもこれはという映画があったらぜひコラボしていきたいです。「三つ編み」「中央駅」「外は夏」「ベル・カント」「隠された悲鳴」…これまで素敵な本の数々に書評を書かせていただきました。これからも厚かましく「書かせていただけませんか?」とお願いしていこうと思います。今興味があるのは絶版本の復刊です。「リービング・ラスベガス」「ぼくの命を救ってくれなかった友へ」などなど、復活してほしい本がありすぎる。ミステリーが大好きで、不定期でBOOK&COMMUNITY「ミステリー研究会」を開催し、おすすめミステリーを紹介しまくっています。
 
今回ご紹介した書籍
『悲しみの秘義』
若松英輔 著 / 文春文庫
『緑の髪のパオリーノ』
ジャンニ・ロダーリ
著 / 講談社
『どこにでもあるケーキ』
三角みづ紀
著 / ナナロク社
『おおきな木』
シェル・シルヴァスタイン
著 / あすなろ書房
『わたしを離さないで』
カズオ・イシグロ 著 /
ハヤカワepi文庫
ご感想はこちらまで:umeda_event@ccc.co.jp

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