【コンシェルジュのコラム】ラブレターのようなもの|文学コンシェルジュ 永山

梅田 蔦屋書店にはそれぞれの分野に特化した知識をもったコンシェルジュや売場担当者がたくさんいます。担当するジャンルについてはもちろん、本のこと、日々のこと、それにも当てはまらない❝まさか❞のことまで、一人ひとりの個性を大切にしながら紡ぐ、コラムのコーナーです。第八回目は文学コンシェルジュ永山がお送りします。
 
 
ラブレターのようなもの
 
 
―― 全集の醍醐味

初めて、全集を買ったのは多分、ポーだったと思う。 東京創元社のポオ全集、単行本で全3巻。漆黒の箱で、おお、これぞポー!といったような造りだった。 その後、いくつか我が家に全集がきたが、読み通すことはどの全集もなかったと思う。 そう、全集は読まない。読まなくてもいいのだ。持っているだけで。 いつでもあの作家の全てに触れられると思う幸福感が、全集の醍醐味で、ただそこにあればいいのだ。 そんな基本持っているだけでいい全集なのに、なぜか、これだけは読むものがある。

付録の月報だ。全集に必ず付いている、薄い小冊子。 著者に縁のある人物や、思いがけない作家が、自分にとっての「特別な作家」について、あれやこれやを語っている、薄いリーフレットだ。 これは大概読む。何度も言うが、本体は読まないのに。


「レイモンド・カーヴァー全集」(中央公論新社)
 
―― 作家の魅力を伝える月報

そんな月報ばかり集めた本が、実は結構出ていて、特に面白いのが『この人を見よ 小林秀雄全集月報集成』(新潮文庫)だ。 小林秀雄の全集は、実は存命中に四度、没後に二度(作品のみの集成を含むと三度!らしい)、出ている。 いくらすごい批評家だって、六回は出すぎじゃないか、と思うが、これを読むとやっぱり魅力的な人だったんだなと思う。 相手が泣き出すまでやるという有名な絡み酒の様子など、あんまりお近づきになりたくない所も多々あるが、様々な人が語る、小林秀雄についての文章は、在りし日の小林秀雄の息遣いや存在を生き生きと伝えてくる。

講談社文芸文庫の、個人全集の月報ばかり集めたシリーズの第4弾である『個人全集月報集 武田百合子全作品 森茉莉全集』(講談社文芸文庫)も面白い。 どちらも、今なお根強い人気を誇る作家だが、一見似ているようで全然違う二人の作家の生き方が、寄せられた文章からよくわかる。特に、森茉莉について、中島梓や、中野翠、佐野洋子が書いた文章は、いかに森茉莉が自分にとって特別な作家なのか、切々と訴え、心に残る。

『日本SF・幼年期の終りー『世界SF全集』月報よりー』(早川書房)は、1968年に刊行された早川書房の『世界SF全集』に付録としてつけられた月報、全105篇のなかから34篇を収録したもので、日本SFの黎明期の熱気を伝える読み物になっている。 書いているのは、星新一、小松左京、筒井康隆、眉村卓、三木卓、谷川俊太郎、手塚治虫、松本零士、石ノ森章太郎、都築道夫、生島治郎など錚々たる顔ぶれ。 第一巻収録のオーウェル『一九八四年』がSF全集に入れられるのは心外、というオーウェル夫人の抗議は今となっては信じられないくらいだが、そんなことを言われた当時の編集部はさぞかし大変だっただろうと思う。

 
 
―― 全集内容見本のニッチなおもしろさ

全集の月報の魅力はわりと多くの人に知られていて、月報を集めた本は結構あるが、最近みて、これはすごいと思ったのが、『推薦文、作家による作家の 全集内容見本は名文の宝庫』だ。 ちょっと、タイトルだけではよくわからないと思うが、出版社が全集を販売する時、一枚の宣伝用パンフレットを作る。 全集刊行に当たって、販売促進と予約を募る目的で作る紙なのだが、その紙に載せられた作家の推薦文を集めた本がこれだ。

「私の漱石 『漱石全集』月報精選」(岩波書店)と「推薦文、作家による作家の 全集内容見本は名文の宝庫」(風濤社)

新潮社の『〈決定版〉三島由紀夫全集』に推薦文を寄せるのは、デビュー当時、三島の再来と言われた平野啓一郎。「天才は欠点に於いてすら多くを語る」というのは、確かに三島評として深く納得させられる。 福武書店の『色川武大 阿佐田哲也 全集』の推薦文は井上陽水。「結局、人を惹き付けなければ話にならない」なんだか、いかにもそれっぽい。

晶文社の『吉本隆明全集』に寄せた、吉本ばななの文章はもう本当に泣ける。 講談社の『蕪村全集』に推薦文を寄せた司馬遼太郎は、蕪村に「なによりも愛を感じてしまう」と言う。こちらも、ものすごく司馬遼太郎らしい。この人が好きなんだな、というのが司馬遼太郎作品を読むと、わかりすぎるくらいわかるのだが、確かにあんなに長い物語を書くには、登場人物への過剰なほどの愛が必要なのかもしれない。

 

一人の作家が、ある作家に思いをこめて綴る文章は、まるでラブレターのようだ。 ああこんな作家だったんだ、という書かれた作家の人間像と共に、そして、それ以上に、文を書いた作家の本質が否が応にも出てしまうところが、もうなんというか味わい深い。 この作家がこの人を押すのか、という驚きがあったり、まぎれもない愛情がもうこれでもか、と痛いほどに伝わってくる。

全集の月報や内容見本。文芸書は、実はこういうニッチなところが面白いと思う。

 


PROFILE|文学コンシェルジュ 永山
1979年高知生まれの高知育ち。大学在学中に、小説の生まれた場所を訪ねてバックパッカーとして世界一周の旅に。卒業後、中国語の語学書を出す出版社に営業として入社。その後新刊書店、大阪の老舗古書店を経て梅田 蔦屋書店に。好きな作家は幸田文、須賀敦子、山田風太郎、小林勇、鷺沢萠、吉野朔実、デュラス、サローヤン。趣味は俳句。
 
今回ご紹介した書籍
『この人を見よ 小林秀雄全集月報集成』
新潮社小林秀雄全集編集室 ・編 新潮社
 
『個人全集月報集 武田百合子全作品 森茉莉全集』
講談社文芸文庫・編 講談社
 
『日本SF・幼年期の終り―「世界SF全集」月報より』
早川書房編集部・編 早川書房
 
『推薦文、作家による作家の 全集内容見本は名文の宝庫』
中村邦生・編 風濤社
 
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