梅田 蔦屋書店のコンシェルジュたち 北村[文学]

※こちらのインタビューは2020年の5周年企画として行われたものです
 
私と本、私と梅田 蔦屋書店

「どんな本が好きですか」という質問をよく受けます。
私は、文学コンシェルジュを務めているので、小説、エッセイの類もよく読みますが、それに限らず、社会や経済、料理やスポーツ、絵本でも写真集でも、何でも読みます。本は好きですが、読書という行為のほうがもっと好きです。読書の楽しさを伝えたいといつも考えています。
 
高野文子『黄色い本 』をご存知でしょうか。主人公の女子学生がロジェ・マルタン・デュ・ガール『チボー家の人々』を読み、そして読み終わる、それだけの物語です。学校の図書室から一冊ずつ借り出し、枕もとのライトの下や通学のバスに揺られながら、ゆっくりと読みすすめていく。卒業や就職といった現実の問題よりも、登場人物たちの運命のほうが重く心に迫るほどに没入します。ジャック・チボーへの友人のように親密な感情。ほぼ一年を費やした大長編が、ついに終わってしまうことの喪失感。本を読むという行ないの孤独と幸福が、圧倒的な実感をもって描かれています。
 
読書は私たちの暮らしの小さな隙間を、とても長く豊かな時間で埋めてくれます。梅田 蔦屋書店が、お客様にとって読書のある生活の基点であってほしいと願っています。
 
 
梅田 蔦屋書店のこれから 

私は、2018年に梅田 蔦屋書店に参加しました。
それまで、およそ15年、規模も業態も異なる4店の書店で書店員として働いてきた自分にとって、梅田 蔦屋書店は新しいチャレンジでした。
 
梅田 蔦屋書店を選んだ理由は、ここには本と書店にとって必要な仕事があるからです。全国の書店の数はピーク時の半分ほどに減少し、生活圏に書店が無い地域も拡がり続けています。人々の読書離れ以前に、そもそも本に触れる環境が失われつつあります。
 
これから新しい読者となっていく子どもたちにとって、身近に本と出会うことができる場所は絶対に必要です。これからの梅田 蔦屋書店での仕事を通して、全国にひとつでも多くの書店、本があるところを増やしていきたい。
 
 
梅田 蔦屋書店を代表する一冊

 
 
 
書籍名:『読む時間』
著者:アンドレ・ケルテス 出版社:創元社
 
梅田 蔦屋書店に入社以前、初めて〈読書の学校〉に参加した際に、選書した一冊。写真家ケルテスがライフワークとして撮り続けた、「読む」という世界中の普遍的な営み。大切なのは何を読むかではなくて、読むという行為そのもの。この写真集に映し出される読書に流れる豊かな時間を、自分の仕事を通して提案していきたい。
 
 
私を代表する一冊

 
 
書籍名:『チェーホフの感じ』
著者:ロジェ・グルニエ  訳:山田稔 出版社:みすず書房
 
色んなところで見つけるたびに買ってしまい、今では本棚に6冊も並んでいるくらい、大切な一冊。6冊の同じ本を眺めるたび、それぞれに纏わる思い出が浮かんでくる。仕事で暮らした名古屋の書店、旅行先の金沢で偶然入った古本屋、翻訳者の山田稔さんと出会った左京区の喫茶店。私にとって、そんなことのすべてが読書です。
 
 
コンシェルジュプロフィール

1980年神戸市生まれ。ナショナルチェーンの大型書店、駅前にある町の本屋、創業100年の老舗書店、雑貨併売・カフェを併設のセレクトショップと、さまざな業態の書店勤務を経て、2018年に梅田 蔦屋書店へ。好きな作家は、チェーホフ、山田稔、藤沢周平。影響を受けた作家は、安田謙一と荻原魚雷。好物はコーヒーと豚汁。好きな野球選手は、クリス・ジョンソン(広島カープ)。最近うれしかったことは、マメイケダのキュウリの絵を買ったこと。『Meets Regional』『暮しの手帖』『神戸新聞』『図書新聞』などに時々書評を寄稿。定年したら自分で本屋を開業したいと思っています。
 
 
 ワークスタイル 渡邉  アート 山下 雑誌 久住 雑誌 沖野 洋書 大山 文学 河出 古書 小林   
 
 

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