浦和 蔦屋書店の本棚Vol.8『線は僕を描く』砥上 裕將
水墨画について、私たちはいったいどれだけのことを知っているでしょう。
雪州や与謝蕪村などの巨匠については、学校などで習う機会も多かったと思います。
しかし水墨画そのものの美しさを学ぶ機会は少なかったのではないでしょうか。
本作は、両親をなくし心に穴が空いてしまった主人公・青山霜介が水墨画を通して自分自身を見つめ直す物語です。ひょんなことから現代水墨画の巨匠である篠田湖山に弟子入りすることになった彼は、師匠から出されるお題をこなすうちに、筆で命を吹き込み創り上げる水墨画にのめり込んでいきます。
一方、師匠の孫娘である千瑛は、自分ではなくどこの馬の骨とも知れぬ青年に手解きする祖父に反感を覚えます。その結果、二人は次の「湖山賞」をかけた勝負をすることに。1年後に控える「湖山賞」へ向けて特訓をする青山君は、大学生活で出来た新しい友人や日本を代表する水墨画家たちと深く関わっていきます。
主人公はゼロから「水墨画」を習うため、私たち読者も安心して「水墨画」の世界に入ることができます。
その際、作中に登場する「水墨画」に対する向き合い方や細やかな技法は、著者であり水墨画家でもある砥上裕將先生の実体験を基にしたものです。
そのため青山君が作品を作り出す場面では、まるで読者自身が実際に筆をとって挑戦しているかのような臨場感があります。
感覚を研ぎ澄ませ、張りつめられた糸のように鋭く、けれども心穏やかに。
世界を表現するのは墨の濃淡のみ。
真摯に芸術に向かう姿勢が、これまで気づけなかった自身の心の奥深くまで、明るく照らし出してくれます。
本作の魅力は、未知なる美を知りその奥深さを体験できる点です。
主人公とともに「水墨画」を学び、いま一度自分自身の心を見つめ直してみませんか。
文芸担当:細矢