浦和 蔦屋書店の本棚Vol.12 USJシリーズ
USJシリーズ
表紙を飾る重厚なロボットにご注目。この度紹介するのは、ピーター・トライアスのUSJシリーズです。テーマパークですか?いいえ、歴史改変・ディストピア・サイバーパンク・ロボット・戦争SFです。全3作、刊行順に『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』『メカ・サムライ・エンパイア』『サイバー・ショーグン・レボリューション』。攻めたタイトルにふさわしい尖った作品です。各作品の世界観は共通していますが、それぞれ時代や主人公が変わり、独立しているので、気になる作品から読み始めていただければ問題はありません。
シリーズ全体の世界観
歴史改変ものである本シリーズの最大の特徴は“第二次世界大戦で枢軸国がアメリカに勝利した”という点です。アメリカは日独に二分された植民地。題名が示す通り日本合衆国です。戦勝国の日本文化が米国文化を上書きすることで混沌とした世界が生まれています。この“もしも”のシミュレーションを丁寧に行っているため、荒唐無稽な出オチで終わる作品では決してありません。そしてもう一つの特徴、巨大ロボット。日本合衆国が誇る兵器・メカです(ガンダムでいうモビルスーツ)。多種多様な巨大兵器が街や戦場を闊歩します。作者自身がゲームやアニメの影響を公言しており、ロボットを筆頭にテレビゲームなどのポップカルチャー、オタクな要素が満載です。
キャッチーな設定が目にとまりがちですが、監視社会が徹底された陰惨なディストピア小説の側面もあります。国際関係・戦争・人種・政治・宗教・革命・テロ。どの作品においても、これらが生み出す歪みが残酷な現実を突きつけます。登場人物は、命が軽んじられる世界で巨大な奔流に必死で抗わなければなりません。ポップとグロテスクがせめぎ合う文学性が本シリーズの魅力でしょう。
各作品の特徴
『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』
食いしん坊で女好きのプログラマーの石村紅功と思想犯を取り締まる特別高等警察で過激な国粋主義者・槻野の凸凹コンビのバディもの。謎のゲームとその背後の陰謀を追いかけるスリラー。シリーズの中ではロボットバトル成分は少なめ。しかし、戦争文学としてのキャラクターの内面の掘り下げが非常に魅力的です。のらりくらりとしてつかみどころのない紅功の振舞いの謎が明かされる最後のシーンが深い余韻を残します。
『メカ・サムライ・エンパイア』
パイロット候補・不二本誠が主人公の学園モノで冒険成長譚。主人公が若いこともあり1作目とは作風がガラリと変わります。ロボ成分が高く、バトルに継ぐバトルの熱い展開が続きます。バイオメカという独製メカが非常におどろおどろしく、敵としてのキャラ立ちが抜群です。もちろん主人公機も魅力的でロボットアニメや戦隊ものが好きな方はここから読み始めるのもいいかもしれません。
『サイバー・ショーグン・レボリューション』
堂々の最終巻。主人公の軍人・守川怜子が特別高等警察の若菜ビショップとともに、日本合衆国にテロを仕掛ける正体不明の暗殺者ブラディマリーを追いかけるポリティカル・アクションです。怜子は革命とテロに直面し日本合衆国の暗部を知ることで、己の正義を揺さぶられます。政治的内部抗争をテーマにしており、第一作に近い作風です。それに加えて、メカの市街戦、義体やドローン兵器を利用した対人戦などのバトル・アクションが盛りだくさんなのでストーリーが全く緩みません。シリーズの醍醐味である要素が詰め込まれている本作から読むのもありです。
余談