浦和 蔦屋書店の本棚Vol.13 『その裁きは死』アンソニー・ホロヴィッツ
『その裁きは死』アンソニー・ホロヴィッツ
今最も注目されているミステリ作家は誰か?
アンソニー・ホロヴィッツです。2018年の『カササギ殺人事件』、2019年の『メインテーマは殺人』が年末の各ミステリランキングを席巻、推理小説愛好家たちは新作の翻訳を待ちわびている事でしょう。
この度紹介するのは『その裁きは死』。これは『メインテーマは殺人』に続く第二弾です。助手役は作家・アンソニー・ホロヴィッツ本人です。単に作者と探偵が同名であるだけでなく、実在の人物や作品が登場して虚実が入り乱れるのがこの作品の面白さの1つです。続編の本作から読み始めても問題はありませんが、第一作『メインテーマは殺人』も傑作ですのでこちらも必読。
では、あらすじを。離婚専門の弁護士がワインボトルで殴られ、その破片で喉を切られて殺害されました。それは被害者のクライアントの相手方である作家が口走ったという脅しに似ていました。さらに現場の壁にはペンキで“182”の文字が。元刑事で探偵のホーソーンはホロヴィッツとともに事件解決に乗り出しますが・・・。
現実とのリンク、ホーソーンの曲者ぶりといったトリッキーな点もありますが、探偵の捜査と推理はクラシックな味わいです。本格ミステリとして、シンプルかつ王道。だからこそ、作者の巧さが際立ちます。謎を解くうえで重要な箇所はきちんと提示されています。ただ目くらましが周到なのでそれに全く気が付きませんでした。読み手に対する徹底的な公平さに驚くばかりです。どんでん返しのための後出しや奇想のための無理やりな展開はありません。それでいてきっちりと予想を覆すのだから「うまい、うますぎる」という言葉しかありません。
安心と信頼の本格ミステリなので、多くの方にオススメできます。
文芸担当:唄