浦和 蔦屋書店の本棚Vol.16 『中国・アメリカ 謎SF』
素敵で不思議な短編集を紹介します。『中国*アメリカ 謎SF』です。
「日本ではほぼ未紹介の作家であること」を条件に小島氏が中国から4編、柴田氏がアメリカから3編を持ち寄って編まれた一冊です。
読者の目を引くのは“謎SF”というタイトル。
それぞれ独立した作品たちが“謎”というテーマで繋がります。
「謎×SF」となると、本書を敬遠してしまう方がいるかもしれません。それはもったいない。
いわゆるサイエンスをゴリゴリに使ったSFとは一味違うからです。
とはいえ、決してSF度が低いわけではございません。
作品を読んだときに感じる「すげー、やべー、かっけぇ」という感動、いわゆるセンス・オブ・ワンダーに満ちているからです。
また巻末での小島氏と柴田氏の対談が作品の理解を助けてくれます。
本書は不思議な世界への入り口になるでしょう。
それでは具体的に各作品の説明を少々。
ShakeSpace(遥控/ヤオコン)作の「マーおばさん」は謎の試作機との対話で生命や自我、思考の根源へとむかいます。やさしい語り口ですが、物事の本質に迫らんとする直球のSFです。
個人的ベストはヴァンダナ・シン作の「曖昧機械-試験問題」。“謎機械”が存在する世界に、三つの不思議な出来事を仕込む、マトリョーシカ状のテクニカルな語りが印象的。まさしく謎SF。人・モノ・時間の境界がぼやけて薄れていきます。日常のすぐそば、あるいは裏側にあって、ふとした瞬間に垣間見えるような、見えないような、近いような、遠いような。舞台が異国であることも摩訶不思議な世界を際立たせます。
本書でもっともインパクトを持つのが梁清散/リャン・チンサン作の「焼肉プラネット」でしょう。いわゆるバカSFで、タイトルの通りの“焼肉SF”。これ以上は語りませんが、素晴らしいです。必読。
謎の海洋生物・海修道士(シー・マンク)を求めて潜水艦で海底へむかうブリジェット・チャオ・クラーキン作の「深海巨大症」は、時間とともに不穏になる人間関係を楽しみつつ、不条理なラストに思わず脱力。
核戦争で荒廃した世界に過去からのタイムトラベラーが降り立つマデリン・キアリン作の「降下物」は死に覆われた絶望的な世界と彼女の孤独を坦々と描きます。すでに人類の未来が行き止まりにあってそれを受け入れているが故の語りが何とも言えない作品です。
2作品収録される王諾諾/ワン・ヌオヌオは、「改良人類」はテクノロジーと倫理の相克を、「猫が夜中に集まる理由」では猫の集会の秘密が明かされます。
きたしまたくや氏のキュートでダークな表紙や挿絵もじんわりと心に残ります。
一風変わった読み心地をもつ作品が集まった本書がたくさんの方に手にとっていただけたら嬉しいです。