浦和 蔦屋書店の本棚Vol.17 田中啓文

商品紹介
2021年03月30日(火) - 03月31日(木)

ある時は「時代小説家」

また、ある時は「SF小説家」

またまた、ある時は「ミステリ小説家」

またまたまた、ある時は「ホラー小説家」

 

そんな変幻自在のカメレオン作家

その名は「田中啓文」だ!!!

 

様々なジャンルを手掛ける田中啓文氏の作品群は、

同一人物が生み出したとは思えないほど、作品ごとに異なる毛色。

新たな作品を読むたびに、これまでとは全く違った世界観、作中の雰囲気に驚かされます。

つまり、新作を読むたびに未知の世界を見せてくれる田中啓文氏の魅力は、

何作も読むことで倍増していくのです。

「次回作では、いったいどんな景色を見せてくれるのか……!」

そうした期待が膨らむのを抑えきれません。

 

今回の浦和蔦屋書店の本棚では、

文庫担当者イチオシである田中啓文氏の魅力的な作品たちを紹介!

 

これまで出会ったことがないような、

ウィットに富んだ作品の数々があなたを待っています。

 

宇宙探偵ノーグレイ

 

 

・怪獣惑星キンゴジ

怪獣を動物園のように観覧できる惑星で発生した、ゴジラ(によく似た怪獣生物)殺害事件。

・天国惑星パライゾ

モーセの十戒を厳守し、殺人や嘘が禁止された天国のような惑星で起こった連続殺人事件。

・輪廻惑星テンショウ

死者が魂となって浮遊するこの星で、死者の国からポルターガイストによって企てられた生者の殺害計画。

・芝居惑星エンゲッキ

明るく幸せな台本に基づき、全国民が俳優となって稽古日と公演日を交互に繰り返す惑星で起こった、起こりえないはずの殺人事件。

・猿の惑星チキュウ

この惑星は・・・。

 

以上、5つの惑星で起こった事件を解決するのは

銀河を股にかける宇宙探偵、その名もノーグレイだ。

設定もさることながら、

どんな読者もすべて受け入れてくれるであろうこの作品の懐の広さは、

ショートショートの大家・星新一氏を彷彿とさせる。

これまで読んできた田中啓文氏の作品の中でも、特に深く心に刺さった。

本作は間違いなく老若男女だれでも楽しめる作品である。

短編集である都合上、細かな紹介はネタバレとなってしまうため遠慮させていただきたい。

しかし物語の舞台となる上記の惑星が持つ特徴をみるだけでも、それぞれの物語が秘めるポテンシャルは十分に感じられるはずだ。

 

「怪獣殺害事件」「天国での殺人事件」「死者が企てる殺害計画」「台本にない殺人事件」

 

まるですべてがダイヤモンドの原石。

そしてその原石を生み出し、輝きを与えるのは

時代・ミステリ・SF・ホラーなど様々なジャンルを手掛ける

最高の作者・田中啓文その人である。

 

読み終えるのがあまりにも勿体ないと思わせてくれる一冊。

残りのページが減っていくのがあまりにも悲しい。

あぁ、ノーグレイの冒険をもっとずっと追いかけていたいのに……。

 

 

 

 

 

 

件 もの言う牛

 

皆さまは「件(くだん)」と呼ばれる妖怪をご存知ですか?

 

日本に古来より伝わる伝承、「件」。

その伝承に焦点を当てて描かれたのが本作。

主人公は、大学で民俗学の研究をする学生だ。

彼はとある田舎に研究の一環で訪れるが、

そこで「件」の誕生を目撃してしまい、とある組織から追われる身となる。

そもそも「件」とは、牛から生まれる仔牛の形をしたナニか。

そのナニかは、生まれるとたった一言だけ予言を残して死ぬという。

その予言は絶対であり、何があっても覆ることはない。

そして、その予言を利用しようとする組織・みさき教。

大物政治家や過去の偉人も名を連ねたとされる謎の組織の本当の目的とは……。

彼らの目的を解き明かすとき、

日本という国を取り巻く大きな陰謀が見えてきて―――。

 

以上のあらすじからもわかるように、

田中啓文氏の最新作は、なんと本格伝奇ホラー!!!

しかも、そのホラー要素として選ばれたのは

たった一言だけ予言を残して死ぬ妖怪「件」。

どうやったらホラーとして描けるのか、不思議に思いませんか?

鬼や天狗といった妖怪、あるいは口裂け女などの都市伝説などは、

その伝承からもホラーテイストが感じられます。

しかし今回の作品に登場する妖怪は「件」!

仔牛です!

それも、たった一言予言をするだけ!!!

にもかかわらず、怖いのです。

正体不明の生々しさが私たち読者の体を這いずりまわります。

「件」の本当の恐ろしさは、本書を読んだ人にしかわかりません。

 

あぁ、丑寅御前は恐ろしや―――。

 

 

 

信長島の惨劇

 

彼の有名な【本能寺の変】から二週間……。

秀吉、家康、右近、勝家という四人の武将の元に、殺されたはずの織田信長から手紙が届く。

手紙には「貴様は、余が知らぬと思うておるかもしれぬが、余は知っておるぞ。」という一文と、とある小島への招待が記されていた。

武将たちはそれぞれが後ろめたい事情を抱えていたため、

しぶしぶと小島へ向かうこととなる。

小島に集められた四人の武将たちは姿を見せない信長に代わって

千利休、森蘭丸、弥助、そして光秀の娘・玉の四人から接待を受ける。

武将たちは信長に何を言われるのかと最初こそ怯えていたものの、

いつまでも姿を見せない信長に痺れを切らし始めた。

そんな中、近頃流行りのわらべ歌にそって彼らの中の一人が殺される。

彼らは疑心暗鬼に陥るが、殺人の手が緩むことはない。

ひとり、またひとりと殺されていく。

犯人は姿を見せない信長なのか。

それとも、信長の名を騙る第三者の仕業なのか。

もしくは、武将たちのなかに裏切り者がいるのか。

徐々に減っていく武将たち。

最期に待ち受ける衝撃の事実とは――――。

 

アガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』へ捧げられる本作は

ミステリとしての要素も含みながらも、時代小説として傑作だ。

序盤から中盤にかけて描かれる各武将たちが抱える事情と織田信長へと向けられた思い。

その様は、まるで本人たちから事情聴取してきたかのよう。

淡々とした筆致にも関わらず心を揺さぶる武将たちの内面の描き方には、驚きを禁じ得ない。

読み手の心に直接響かせるこの文章こそが、作家・田中啓文の真骨頂といえる。

物語を紡ぐのは遠き時代を生きた戦国武将たち。

彼らに立ちはだかるのは、死人から投げかけられる強大な謎。

まさに奇想。

時代小説にミステリを突っ込む。

時代物は史実という制約があるから奇想ミステリと相性が悪い。

ましてや死人・織田信長からの手紙である。

歴史の空白にあらん限りの「奇想天外さ」と「ミステリ」を。

この組み合わせを実現できる技量こそが、田中啓文を田中啓文たらしめる所以だと言える。

他の誰にも真似できないどころか想像すらしえない最高の一冊だ。

 

 

 

最強の娯楽小説に出会ってしまいました…。

その名も『力士探偵シャーロック山』だ!

 

探偵を自称する力士、斜麓山(しゃろくやま)。

部屋中ミステリー小説だらけの彼は

「自分は頭脳で戦う力士だから」と練習はサボり、

体づくりのちゃんこ鍋はホームズを真似して一人だけサンドイッチとローストビーフ、

それに紅茶とやりたい放題。

にもかかわらず、彼は相撲界で上から4番目の小結に位置する三役力士。

付け人の輪斗山(わとさん)はそんな彼に振り回されてばかりである。

やる気のない彼の手綱を握り、力士として活躍してもらう方法はただ一つ。

彼の大好物である「謎解き」を献上することだ。

それは日常に潜む些細な噂から、刑事事件に至るものまで。

彼の興味を惹く「謎」と引き換えに、その重い腰を上げてもらう。

頭・技・体。

心以外のすべてが揃っている斜麓山の探偵生活が幕を開ける。

 

この物語は、読了後にとてつもない脱力感を与えてくれます。

各章で繰り出される渾身のギャグは、肩の力を抜くのにぴったり。

実生活で張り詰めた緊張の糸も、何気ない不安な毎日も、

この小説を読んだ暁には全てがほぐされていることでしょう。

まさにちょうど良い脱力感。

無意識のうちにこわばった体を、やさしくほぐしてくれます。

本家シャーロック・ホームズへのオマージュも。

そのアプローチの仕方も。

その全てに心をほぐす温かな笑いが潜んでいます。

ダジャレやおやじギャグを作品へと落とし込みお笑いへと昇華させる技術は、

作家・田中啓文氏が持つ魅力の一つです。

謎を解いて、心も解きほぐす。

学習のための読書ではなく、完全なる娯楽のための読書をしてみませんか?

最後まで読んだ暁には、

名探偵を自称するわけのわからない面白力士がもつ不思議な引力に

きっとあなたも虜にされることでしょう。

読んでいるだけで心が明るくなる、本書はそんな一冊です。

 

 

 

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