浦和蔦屋書店の本棚Vol.26 『超新星紀元』劉慈欣/早川書房

商品紹介
2023年08月30日(水) - 09月30日(土)
『超新星紀元』劉慈欣/早川書房


『三体』の著者・劉慈欣先生の第一長編『超新星紀元』がついに刊行されました。
ノンシリーズかつ一冊で完結する作品です。結論からいえばハチャメチャで最高に面白いので、三体読者はもちろん、劉先生の作品を未読の方にも手にしていただきたい作品でしょう。
 
まずはあらすじから。舞台は現代の地球。超新星爆発の放射線が地球に降り注ぐ。これにより14歳以上の人間は一年以内に死に絶えてしまう。僅かに残された期間で大人たちは子どもたちに知識や技術を託して去っていく。
 
そして世界には子どもだけが生き残ったが・・・。子どもたちだけの世界はどうなるのかという思考実験のような側面もある一大エンターテインメント作品です。まず、死にゆく大人たちが子どもたちに何を残せるかということから始まります。ここでクローズアップされるのは親と子の関係です。この親や教師たちが子を想うエピソードはしんみりと感動させられます。

しかし子どもたちだけとなった世界、超新星紀元がスタートしてからが本番です。親という存在はある時は庇護者であり、またある時は枷でもあります。今まで存在していた社会のレールが残っているといえど、大人たちのように生きることはできません。子どもたちは浮遊時代、慣性時代、キャンディタウン時代という変化を経ながら新しい世界を模索します。かつて大人が動かしていたのは大人の社会であり、ならば子どもが動かす子どもの社会にはそれにふさわしいかたちが存在するはずです。大人と子どもは、お互いが存在するがゆえの関係性なので、子どもだけの世界になった時の子どもの姿は以前とは違います。

このように人間と社会に対する洞察や思考実験が物語と並走するのも劉先生の作品の面白さのひとつです。しかし本作の最大の凄みは本当の子どもの世界の滅茶苦茶ぶりでしょう。あの感動はどこへやら、予定調和なんてくそくらえという具合で、読者は訳が分からないまま、遥か彼方の想像もできなかった着地点へとぶん投げられてしまいます。第一長編ということもあり、少々粗削りな箇所もあるにはあります。しかし、それを補って余りある面白さ壮大さ豪快さがあります。その粗さは劉慈欣という作家が小さくまとまるような存在では決してないことの証明でもあるわけです。
 
唯一無二の想像力を有する作家のビジョンはあなたにセンスオブワンダーを感じさせてくれるでしょう。
 

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