【第4回】絵本通信 『怪物園』のできるまで―その2 Cozfish祖父江慎さん、藤井瑶さんにインタビュー取材してきました!

『怪物園』刊行迫る2020年11月、cozfishを訪ねてブックデザインを担当された祖父江慎さん、藤井瑶さんにお話を伺いました。
その1ではjunaidaさんの絵本作りのはじまりから『怪物園』のデザインの目指すテーマが明らかになりました。
今回は印刷のことや、いよいよ『怪物園』の内容についてもお話しいただきました。
 
※祖父江慎さん(祖父江)・藤井瑶さん(藤井)
 
 
 
――この見返しにも驚きました。はっきりはみえないんですけど、暗闇の中をぼんやり発光したような怪物たちが行進していて。
これは何か特殊な方法で印刷したんですか?

祖父江:普通に4色で印刷してます。けっこう暗い緑色の紙に印刷したらこうなった。

藤井:濃いグレーと薄いグレー、それからこの紙でテストしたんですけど、この紙に刷るとこうなるんだっていうふうにまったくイメージしてなかったから、色校が出てきた時の得体の知れなさに、全員、なにこれヤバイってなりました。



祖父江:なんでこうなっちゃったのっていって、盛り上がり感はすごかったんだけど、実は最初は、没にしたんです。原画は表紙から続いている絵で、ものすごくきれいな色で怪物たちが描いてある。これはちょっといくらなんでもなしだろうと思って。
でも、junaidaさんはこれをすごく気に入っていて、失敗とも見えかねないものを選んできた。junaidaさんをちょっと甘く見ていたな、しまったー、と思いました。原画はこんなにきれいに描いてあるのに、この印刷じゃまずないよなって思ってしまったところからもう自分のゼロ地点への戻り方が足りなかったっていう。junaidaさんと仕事すると、自分の人生と照らし合わせながら作ってる感覚がするよね。そんな分かったようなつもりで考えちゃいけないっていう。素に戻りますね。
なんか慣れでできない。

藤井:見返しをこうしたことで、本の存在感もさらに増したように思います。普通の絵本の顔をした表紙をめくると、なんだかただごとじゃないことが見返しで起こってる。さらに1枚めくると、タイトルのはいった扉のところで、ぱっと灯りが点いて物語の中に入っていく、みたいに。あと、実際に暗闇で怪物たちに遭遇したら、こんな風に見えるのかなとも思えて。この浮かび上がってくるような感じが好きですね。


純粋な絵本

――『怪物園』の内容について、お二人はどんな印象を持たれましたか。

祖父江:見た目は普通の絵本のポーズをとってるんですけど、でも、お話自身がものすごく現代的というか変わってるんですよ。怪物と子どもって本当に会ってるのかどうかもわからないし、何の怪物かもわからないし、ただ一方で、すごい日常感もある。もしかしたら子どもの方が幻想かも知れないしとか。いろんな読み方が、何とでもできる。

藤井:初めてラフを読み終わったとき、自分の中に残った感覚をうまく言語化できなくて悩みました。でも、junaidaさんから、子どもたちの場面と怪物たちの場面とで別の人が描いてるくらいの差があってもいいとか、むしろ二つの絵本が間違って合体しちゃったくらいのギャップがあっていいというのを聞いて、あ、この読み終わった後の、これはいったい何だったんだっていう感じは、そういうものなんだと。



祖父江:繰り返し読んで、やっと自分なりの読み方が定まる。昨今特にね、絵本ってこういう読み方をした方がいいんじゃないか、みたいなのを制作側が勝手に考えて、ある意味道徳的な方向にもっていこうだとか、楽しんでもらおうとかそういうねらいのようなものが割と見えやすくなってきちゃってるのに対して、『怪物園』は本当に純粋に絵本的であるから、なんか作家側も読む側も読ませる側も、特にこういう読み方をしてほしいっていう基準がないんですよ。

藤井:日々、いろいろなコンテンツを提供される中で、必要十分な説明が用意されていたり、物語が最後には何らかの形で決着することが、いつの間にか当たり前になってる気がするんです。それって思考を甘やかされてるというか、読む側が想像する余地が限られてしまう側面もあって。だからこういう話がすごい今新鮮だなーって思います。

祖父江:最近の本ではあまり見ない、北欧の古典とかがもっていた物語の原点がありますね。

藤井:「こういうことを伝えたい」といったことから離れて、放り出される快感がある。わからない、っていう気持ちよさがあります。

祖父江:鏡みたいに読んだ人が照らし出されちゃう。この絵本は、ああこれを言おうとしたのねというようなこととか、こういう風に考えた方がいいんだっていう、考え方の方向を指さすものではない。メッセージはあるんだけども、こんなメッセージが隠されてますとか、別の言葉に置き換えられるようなメッセージじゃなくて、なんだかどうしようもないメッセージがあるっていう素晴らしさ。だから、もっとも純粋な絵本になってると思う。これは海外でも未来でも昔に戻っても、みんな困るよね。どういっていいかわからない絵本。ただ存在がすごい。

藤井:純粋ですよね。

祖父江:売ってくれる人はどうなんでしょうね。どういう人にどう売ろうとするのか想像してみると面白いね。すごいダイナマイトな絵本ですね。こう来たかってみんなでびっくりしてた。この本についてどう話していいか、どう書いていいか悩んでしまう。編集の人も、制作もデザイナーも売る側もそれぞれに悩んじゃいますね。全員で人としていろいろと試されてるような気持ちかも。

藤井:説明しようとすればするほど、本当に語りたかったことから離れていく葛藤がありますよね。全員に読んでほしい、みたいなことを言うのがすごく難しい。

祖父江:だね。どう言っていいかね。人によって好きなところもが違う感じがするから、みんなに送る言葉が難しいね。届くかな。これはもう、皆さんのところに怪物を送るしかないね。こんないいものがあったんだなあ、これはぜひみんなで見て喜ぼう。いいわあって。

 

キッズコンシェルジュ
瀬野尾 真紀
 
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