【ダイレクターズ】『すべての夜を思いだす』

【ダイレクターズ】
六本木 蔦屋書店 WATCH PLANがお送りする日本映画紹介プログラム。
2024年に公開される日本映画の中から、映画監督という切り口で厳選したオススメ作品を紹介していきます。
 
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ダイレクターズ第四弾は、3/2㈯公開の清原惟監督『すべての夜を思いだす』です。
 
ポスター画像
(C)2022 PFFパートナーズ(ぴあ、ホリプロ、日活)/一般社団法人PFF
 
 
『すべての夜を思いだす』
2022 | 監督:清原惟
 
2024/3/2(土)より
渋谷ユーロスペースほか
全国順次公開
 
 
PFFスカラシップ作品
こちらの作品はぴあフィルムフェスティバルのスカラシップとして制作されました。
ぴあフィルムフェスティバルとは、1977年から続く映画祭です。
その中で行われる“PFFアワード”は自主映画のコンペティションで国内最大規模を誇ります。
誰に頼まれたわけでもなく、自主的に作り上げた映画の祭典であり、ここからいくつもの才能が発見されました。
そして、今の日本映画界を支えています。
スカラシップはこのアワードで入賞した監督たちから企画を募り、劇場公開を前提とした商業映画を制作する仕組みです。
『すべての夜を思いだす』の清原惟監督は、幾度かアワードに入選を果たしたのち、『わたしたちの家』でPFFアワード2017グランプリを受賞しました。
東京藝術大学大学院の修了制作として撮られた作品で、ベルリン国際映画祭にも出品という快挙を成し遂げています。
ダイレクターズは、映画監督の作家性というのものに着目した企画ですが、清原監督のステップアップはまさにその在り方を示したキャリアだと言えるでしょう。
自主映画、学生映画、商業映画と関わる人数やお金が異なる制作環境にあって、一貫する個性が貫かれています。
その一つとして挙げるのは、ロケーションという概念を超えた“場所”の存在感です。
通常ロケーションは、登場人物たちが起こすアクションの舞台として存在します。
土台としてそこにあることがほとんどです。
しかし、清原監督の作品ではまるで登場人物の一人として“場所”が扱われているように感じられます。
いや、それ以上に映画全体が“場所”を見つめ続ける眼差しを持ち、そこに出てくる人々の営みはあくまでも副次的に存在するようなバランスとも取れます。
『ひとつのバガテル』の団地の部屋、『わたしたちの家』の一軒家、そして『すべての夜を思いだす』ではニュータウンがその場所にあたります。
特殊なロケーションが用意されているわけではなく、むしろ我々の生活に根差した、実世界でもすぐ隣に存在するような場所を、全く新たな視点で見つめ直しています。
そして、それらが提示する世界は不思議な浮遊感を体験させてくれます。
 
記憶と記録
この映画の中には色々な記録メディアがモチーフとして登場します。フィルムカメラ、VHSテープ、はがき、そして土器。縄文土器のように1万年もの時を超えて、その記録を現代に伝えることが出来るメディアもあれば、VHSテープのようにここ数十年の間に既に再生方法が極端に失われてしまったメディアもあります。その正確性やレンジの長さに大小はありますが、どれもが記憶を呼び起こすトリガーとして機能しています。映画の登場人物たちも、これらメディアに触れることで自らの記憶が立ち上がる瞬間に直面します。もちろん土器が作られた1万年前の記憶などは現代人にあるはずもないですが、そこで立ち上がってくるのは多摩という土地が持ち続けてきた記憶かもしれません。そして、この映画というメディア自体も観客の記憶を呼び起こすトリガーとして機能しうる可能性を示しています。まさに“すべての夜を思いだす”ような体験をこの映画は提供してくれるでしょう。
 
【六本木 蔦屋書店のオススメ:鑑賞前後に観たい作品】
 
ポスター画像
(C)たかはしそうた
 
『上飯田の話』
2021 | 監督:たかはしそうた
 
横浜にある上飯田という町を舞台とした3つのショートストーリーから成り立つオムニバス映画です。
『すべての夜を思いだす』の舞台は多摩ニュータウンですが、とても近い空気感を感じます。
それに3つの話から町の輪郭を浮かび上がらせるようなところも、方法論として同じ方向を向いている気がします。
本作は、フィクションとノンフィクションの境目がとても曖昧で、清原監督とはまた違ったやり方で日常を異化する作品となっています。

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