【ダイレクターズ】『悪は存在しない』

【ダイレクターズ】
六本木 蔦屋書店 WATCH PLANがお送りする日本映画紹介プログラム。
2024年に公開される日本映画の中から、映画監督という切り口で厳選したオススメ作品を紹介していきます。
 
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ダイレクターズ第七弾は、4/26㈮公開の濱口竜介監督『悪は存在しない』です。
 
 
ポスター画像
(C)2023 NEOPA / Fictive
 
『悪は存在しない』
2024 | 監督:濱口竜介
 
2024/4/26(金)より
Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、
シモキタ - エキマエ - シネマ『K2』ほか
全国順次公開
 
 
世界のHAMAGUCHI
今や世界的に見ても日本を代表する映画人となった濱口竜介監督。
今作は第80回ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞となる審査員大賞に加え国際批評家連盟賞、映画企業特別賞、人・職場・環境賞の3つの独立賞も受賞しました。
これにより、『ドライブ・マイ・カー』でのカンヌ、『偶然と想像』でのベルリンと三大国際映画祭全てで自身の監督作が受賞したグランドスラムを達成した監督の仲間入りを果たしました。
『ドライブ・マイ・カー』ではアメリカのアカデミー賞でも国際長編映画賞を受賞しており、黒澤明監督以来の記録となっています。
国際映画祭での評価が全てとは思いませんが、それにしてもこれだけの評価をここ数年で獲得したという事実は、日本映画の歴史の中でも特筆すべき偉業です。
 
異色なフィルモグラフィ
濱口監督の作品群を語る時、その成り立ちの異色さは大きなポイントです。
そもそも初めて国際映画祭の場で紹介されたのは、東京藝術大学大学院の修了制作である『PASSION』でした。
学生作品の出品は異例ですが、それほどの完成度の作品です。
その後もENBUゼミナールの俳優コースの生徒たちと撮った『親密さ』。
東北記録映画三部作と呼ばれるドキュメンタリー『なみのおと』『なみのこえ』(『気仙沼』編、『新地町』編)『うたうひと』。
ワークショップで集まった人々と撮り、職業俳優ではなかった主演4人にロカルノ国際映画祭で最優秀女優賞をもたらした『ハッピーアワー』。
初の商業映画『寝ても覚めても』を監督する前に特集上映が組まれるほど異色なフィルモグラフィを築いています。
『ドライブ・マイ・カー』での世界的な成功と並行して、短編集として『偶然と想像』を撮ったりと、変わらないスタンスを保っています。
 
そして、今回の『悪は存在しない』はまさに異色さを象徴するような成り立ちをしています。
『ドライブ・マイ・カー』でタッグを組んだ音楽家、石橋英子さんからライブパフォーマンスで流す映像の制作を依頼されたところから企画が始まりました。
最終的には長編映画としての『悪は存在しない』と石橋英子さんのライブパフォーマンスを含むシアターピース『GIFT』という2作品が生まれました。
これらは同じ撮影素材を共有しながら、異なる編集によって補完し合う双子のような存在となっています。
 
濱口監督のこのスタンスは、どのような素材や切り口であっても出来上がるものは“映画”であるという絶対的な確信がそうさせているではと想像します。
そして、ここで言う“映画”とは伝統的な技法や文脈の継承であると共に、常に新しい驚きをもたらすことでもあります。
この伝統と革新こそが濱口監督が評価される所以であり、『悪は存在しない』と『GIFT』は最新作として間違いなくそれらの要素が刻まれています。
 
新たな地平を切り開く
『悪は存在しない』という作品を簡単なジャンル分けに押し込めることは困難です。
ですが乱暴に言ってしまえば、コメディといって差し支えないと考えます。
シチュエーションによって生み出された空気感を、台詞によってかき乱していくような。
これまでもこの技術の巧みさで緊張感や本音をえぐり出してきた濱口監督ですが、『偶然と想像』からは明確に“可笑しさ”に繋がる演出と機能しており、本作も中盤まではその路線を踏襲していると言えます。
 
しかし終盤に向かうに連れ、作品は思いも寄らない方向へと舵を切っていきます。
どういう方向かは実際に作品をご覧頂いて確認してもらいたいのですが、鑑賞後は呆然としてしまいました。
この部分を取っても、濱口監督の新たな地平と言えるのではないでしょうか?
あえて過去作と繋げるなら、『不気味なものの肌に触れる』で見られた“分からなさ”の介入に近いものがあります。
とするなら、『不気味なものの肌に触れる』がまだ見ぬ長編映画企画『FLOODS』の序章として撮られたことを考えると、もしかするとその長編が実際に制作される日も近いのではという妄想を抱いてみたりもします。
 
【六本木 蔦屋書店のオススメ:鑑賞前後に観たい作品】
 
ポスター画像
(C)Mobra Films-Why Not Productions-FilmGate Films-Film I Vest-France 3 Cinema 2022
 
『ヨーロッパ新世紀』
2022 | 監督:クリスティアン・ムンジウ
 
クリスティアン・ムンジウ監督がトランシルバニアを舞台に、移民と地元民の対立を描いた作品です。
単なる二項対立ではないところに現代のヨーロッパ、ひいては世界中の問題の根深さを感じます。
集会所での討論や唖然とするラストなど『悪は存在しない』との共通点もあり、同時代性を味わえます。

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