【ダイレクターズ】『新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる!』

【ダイレクターズ】
六本木 蔦屋書店 WATCH PLANがお送りする日本映画紹介プログラム。
2024年に公開される日本映画の中から、映画監督という切り口で厳選したオススメ作品を紹介していきます。
 
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ダイレクターズ第十二弾は、8/9㈮公開の小林啓一監督『新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる!』です。
 
 
ポスター画像
(C)2024「新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる!」製作委員会
 
『新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる!』
2024 | 監督:小林啓一
 
2024/8/9(金)より
全国公開
 
 
異色の映画監督
本作の小林啓一監督は、そのフィルモグラフィを辿ってみると極めて珍しいポジションにいる監督だと感じます。
乱暴な言葉で括ってしまうと、一貫して“青春映画”を撮り続けていると言えるでしょう。
ただそれは、ティーン層に向けたライトな恋愛物語ではなく、かといって青春の鬱屈を表現したアートハウス文脈の作品とも異なっています。
飄々とした会話や一定の距離感を保ちながら登場人物を追うスタイルは、原作のある作品だとしても小林監督印として感じ取ることができます。
 
世間的に最も知られているのは、前作である『恋は光』でしょうか。
ティーン向け青春恋愛映画群を指して“キラキラ”映画と呼んだりしますが、その“キラキラ”を劇中で可視化したのが『恋は光』という作品です。
恋する人間が放つ“キラキラ”が見える主人公が、恋という現象を分析し解明しようとするお話です。
メタ的な設定が組み込まれ、ある種青春恋愛映画のアンチテーゼのような流れを作り出しますが、見終わってみれば紛れもなく青春恋愛映画の読後感を味わえる作品です。
原作コミックがありますが、小林監督の作家性と呼応してミラクルな輝きを放ちスマッシュヒットを記録しました。
 
今作『新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる!』で小林監督の作家性を語るには、前提として製作の経緯を簡単に説明する必要があります。
日本大学芸術学部映画学科に在籍中だった宮川彰太郎さんが授業で提出したプロットが元となっています。
それを当時講師だったプロデューサーが商業映画として企画し、大野大輔さんを脚本家に起用して作り上げました。
大野大輔さんは『辻占恋慕』などの映画監督で、グダグダしたやりとりの中にキラーワードを忍び込ませる会話劇を得意としています。
なのでクレジットだけを見ると、小林監督の色という意味では薄く感じるかもしれません。
それは半分は正しく、これまでの小林監督作品とは毛色の異なる趣があります。
 
具体的に挙げると、今回の作品は学園を舞台としていますが、ポリティカルサスペンスを思わす展開で進行します。
映画史に確立された型を流用することで推進力が増し、カタルシスへの期待も膨らみます。
これは小林監督の職人的技量がしっかりと示された結果であり、新たな側面と言えます。
同時に、キャラクター同士の絶妙な関係性の在り方は従来の小林監督作品を感じることができます。
今作は映画初主演となる櫻坂46の藤吉夏鈴さんを迎えておりますが、個人としての魅力とアンサンブルで生み出すケミストリーを見事に達成しており、監督としての作家性をより強固に示したと感じます。
 
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『BRICK ブリック』
2005 | 監督:ライアン・ジョンソン
 
ライアン・ジョンソンといえば、『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』に抜擢されましたが、その内容で賛否両論を巻き起こしました。
その後Netflixで『ナイブズ・アウト』シリーズを、Peacockでドラマ『ポーカー・フェイス』を、といった具合に配信プラットフォームを中心に作品を発表していますが、元々は中・小規模のドラマ作品に定評のある監督です。
出世作となった『BRICK ブリック』は、『(500)日のサマー』以前のジョセフ・ゴードン=レヴィットを主演の探偵に据え、学園を舞台にノワールものを展開しています。
実社会の縮図となりやすい学園という設定を、既存のジャンルの舞台とすることで、新たな感触を与えるというやり方は、『新米記者トロッ子』とも近いアプローチです。

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