【六本木ホラーショーケース -ARTICLE-】#023  シリーズの新たな可能性を提示した『ソウX』

“活きのよいホラー映画、ご紹介いたします”

【六本木ホラーショーケース】
六本木 蔦屋書店映像フロアがお贈りするホラー映画紹介プログラム。
ホラー映画を広義でとらえ、劇場公開作品を中心にご紹介し、そこから広がる映画人のコネクションや文脈を紐解いていきます。
 
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今回ご紹介するのは、『ソウX』です。
 
ポスター画像
(C)2024 Lions Gate Ent. Inc. All Rights Reserved.
 
『ソウX』
2023 | 監督:ケヴィン・グルタート
 
 
“ソウ”シリーズがまた帰ってきました。
ご存じの方がほとんどかと思いますが、ざっとシリーズをおさらいしてみます。
2004年に発表された第1作目『ソウ』は、無名の新人が作った小規模な作品でしたが、サンダンス映画祭での上映以降サプライズヒットを飛ばし、世界中を驚かせました。
その後フランチャイズ化され、第7作目となる『ソウ ザ・ファイナル 3D』まで毎年ハロウィンシーズンの定番として新作が発表され続けました。
2010年に一度完結が発表されますが、2017年に『ジグソウ:ソウ・レガシー』、2021年に『スパイラル:ソウ オールリセット』として新作が作られました。
これらはこれまでのナンバリングタイトルの直線的な続編ではなく、再構築やリセットと言った特殊なアプローチがとられています。
そして、今回の第10作目にあたる『ソウX』ですが、時系列としては1と2の間の物語が描かれています。
シリーズを追いかけているファンだとこの時点でお気付きになるかもしれませんが、この時期だとジグソウが生きているのです。
実はこの『ソウ』というシリーズは少々変わったフランチャイズ作品でして、メインキャラクターでアイコンでもあるデスゲームの主催者、ジグソウは『ソウ3』では瀕死状態、『ソウ4』ではすでに死亡しております。
シリーズの半分以上をメインが退場した状態で継続するという離れ業をやってのけていました。
死してなお影響力を持つジグソウという存在を描いた画期的なシリーズではあるのですが、後半は回想シーンなどでしかジグソウの姿が見られないというもの寂しさもありました。
なので久しぶりに元気な(でも余命宣告はされている)ジグソウの活躍を見られる『ソウX』は、ファンが待ち望んだ新作でもあります。
常に人の先を読む天才ジグソウが、医療詐欺に騙されるというプロットもひねりが効いており、見応え抜群です。
 
『ソウ』を作り上げたのは、オーストラリアからやって来た二人の若者でした。
監督を務めたジェームズ・ワンは二作目以降はプロデューサーとして関わっていきます。
『インシディアス』『死霊館』など現代ホラー映画界を語る上で欠かせないフランチャイズを次々と生み出し、『ワイルド・スピード』や『アクアマン』など超大作でも手腕を発揮する大物へと変貌を遂げました。
もう一人のリー・ワネルは脚本と出演を兼ねていました。
同じくプロデューサーとして関わりながら、自身も『インシディアス 序章』で監督デビューを果たしました。
その後『アップグレード』や『透明人間』など良作スリラーを撮り続けています。
このシリーズは各部署のスタッフを監督デビューさせるという役割も果たしてきました。
『ソウ5』のデヴィッド・ハックル監督はプロダクション・デザイナーとしてシリーズに関わってきており、『ソウ6』と『ソウ ザ・ファイナル 3D』そして『ソウX』を監督したケヴィン・グルタートはシリーズの編集マンとして支え続けた人物です。
興行だけでなく、人材発掘の場としても『ソウ』シリーズがホラー映画界にもたらした恩恵は大きかったことが分かります。
 
【六本木 蔦屋書店のオススメ:鑑賞前後に観たい作品】
 
 
 
『ブラック・ウィドウ』
2021 | 監督:ケイト・ショートランド
 
まったくホラー作品ではありませんが、シリーズにおける『ソウX』に近いポジションを考えた時に、この作品が思い浮かびました。
既に発表されているシリーズ作品で退場が示されているキャラクターを活躍させるには、時系列を過去に戻すしかありません。
ただ、公開作品で起こってしまった出来事は変えられないので、隙間を縫ったストーリーテーリングが必要とされます。
『ブラック・ウィドウ』も『ソウX』もその枷を上手くクリエイティブに活かした作品と言えるでしょう。

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