【六本木ホラーショーケース -ARTICLE-】#024  シャマラン家による家内工業としての『トラップ』

“活きのよいホラー映画、ご紹介いたします”

【六本木ホラーショーケース】
六本木 蔦屋書店映像フロアがお贈りするホラー映画紹介プログラム。
ホラー映画を広義でとらえ、劇場公開作品を中心にご紹介し、そこから広がる映画人のコネクションや文脈を紐解いていきます。
 
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今回ご紹介するのは、『トラップ』です。
 
ポスター画像
(C)2024 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED
 
『トラップ』
2024 | 監督:M・ナイト・シャマラン
 
 
我らがM・ナイト・シャマラン監督の新作です。
今年は次女であるイシャナ・ナイト・シャマランの監督作『ザ・ウォッチャーズ』の公開もあり、そちらではプロデュースを行っていましたが、しっかりと自身の監督作品も撮っていました。
しかも今回は、長女でありミュージシャンでもあるサレカをメインキャストに起用しています。
劇中歌も彼女が全て手掛けており、まずその才能に驚かされます。
もちろん今回も監督自身も出演しています。
シャマランと言えば、一度キャリアが沈んでしまって以降新作の度に自宅や所有地を抵当に入れ製作費を捻出するというのがお約束のようになっています。
復活の狼煙を上げた『ヴィジット』の際は、そうしなければ映画が撮れない状況だったのですが、キャリアが再び軌道に乗ってからもこの方法を続けていると言います。
それは、監督自身が様々なことに決定権を持つための手段であるそうなのですが、毎回住まいを手放す可能性に晒される家族はたまったものではありません。
そんな父親を子どもたちはどのように感じているのか、他人ながら心配していましたが、ここまで彼女たちもショービズの世界に入り込んでいたのであれば、何となく納得してしまいます。
 
シャマラン作品は意外と、というかずっと家族の話を描いてきました。
そして今回は特に父親と娘の関係、さらに父親の家庭以外での活動という部分にフォーカスした物語となっています。
既に公式のあらすじでも語られている部分ですが、ジョシュ・ハートネット演じる父親は家庭では善良な消防士ですが、実は世間を騒がすシリアルキラーという設定です。
否が応でも監督本人のパーソナリティを重ねてしまいますが、この設定の作品に実の娘をキャスティングしてしまうシャマランは、やはりサイコパスなのでしょうか?
 
今作は改めてジョシュ・ハートネットという役者の素晴らしさを実感する作品でもあります。
彼の代表作と言えば何でしょうか?
『パラサイト』?
『パール・ハーバー』?
それとも『ブラックホーク・ダウン』?
印象としては20代の頃の作品が強く残っているのではないでしょうか。
恵まれた体格と印象的な瞳を持ったルックスは、彼を瞬く間にスターへと押し上げました。
どことなく闇を抱えた若者を演じれば右に出る者はいないというほどの存在感を見せます。
一時期、スターとしての生活の喧噪から逃れるように休業してたこともありましたが、近年はまた活発に活動しています。
最近ですと『オッペンハイマー』での物理学者の役はサブキャラクターでしたが、オッペンハイマーとの友情と別離を見事に表現しており印象深い演技でした。
そんな彼が満を持しての主役として演じた『トラップ』でのクーパーというキャラクターは、家庭思いの優しい父親と狡猾なシリアルキラーという極端な二面性を持ち合わせています。
しかし、この2つが全く矛盾することなく一人の人物の中に納まっているように見えるのは、ジョシュ・ハートネットという役者の身体性があってのこと。
歳を重ねたからこその説得力も加わった魅力に今後も目が離せません。
 
【六本木 蔦屋書店のオススメ:鑑賞前後に観たい作品】
 
 
 
『ナイトクローラー』
2014 | 監督:ダン・ギルロイ
 
ジェイク・ギレンホール演じる報道パパラッチの男が野心を持ってのし上がっていくサスペンスです。
こちらの主人公もサイコパスなのですが、『トラップ』と同じく完全に偽って普段の生活を送っているわけではなく、人当たりの良い側面と非人道的な側面が本人の中で矛盾なく同居している人物となっています。
なので、記号的なサイコパスより不可解さと身近さがあって恐ろしい存在になります。

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