【六本木ホラーショーケース -ARTICLE-】#030  サイコな『ロングレッグス』はホラー/スリラーを更新していく

“活きのよいホラー映画、ご紹介いたします”

【六本木ホラーショーケース】
六本木 蔦屋書店映像フロアがお贈りするホラー映画紹介プログラム。
ホラー映画を広義でとらえ、劇場公開作品を中心にご紹介し、そこから広がる映画人のコネクションや文脈を紐解いていきます。
 
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今回ご紹介するのは、『ロングレッグス』です。
 
ポスター画像
(C)MMXXIII C2 Motion Picture Group, LLC. All Rights Reserved.
 
『ロングレッグス』
2023 | 監督:オズグッド・パーキンス
 
 
皆様は映画のジャンルとして、“ホラー”と“スリラー”の違いをどう認識していますか?
どちらも恐怖という感情を揺さぶるジャンルであり、明確な違いを言葉にしろと言われれば中々難しいのではないでしょうか。
一般的なざっくりとした区別として、ホラーは比較的超常現象やオカルト的なフィクショナルな要素が強く、スリラーは人間が引き起こす事件的な意味合いがあるように思えます。
さらにここに、見る者の心理的な負荷を強めた“サイコ”、謎解きの要素が加わった“ミステリー”、ジリジリと引き伸ばされた恐怖を味わう“サスペンス”といったモノも横断的に加わり、恐怖を楽しむジャンルは形成されています。
 
人間の本能的な感覚に触れることもあり、古来から人気を保ち続けていますが、その時々にトレンドというものがあります。
実は、90年代は狭義のホラーが少し低迷した時代でもありました。
その理由として、サイコスリラーと呼ばれるジャンルの台頭が挙げられます。
そして、そのきっかけとなったのが1991年のジョナサン・デミ監督の『羊たちの沈黙』です。
レクター博士という最恐の存在は、幽霊やモンスターというフィクショナルなキャラクターを陳腐化してしまいました。(もちろんレクター博士もフィクションですが)
1995年にはデヴィッド・フィンチャー監督の『セブン』も登場し、益々その傾向に拍車をかけます。
一時期、宣伝会社は映画の謳い文句に“ホラー”という言葉を意図的に避けていたとも言われています。
この潮目が変わるのは、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』とJホラーの世界的ムーヴメントが起こる世紀末から2000年代初頭を待つことになりますが、それはまた別のお話。
 
『ロングレッグス』はそんな『羊たちの沈黙』が引き合いに出される作品です。
「この10年で一番怖い」という宣伝文句はこのあたりからきたのでしょう。
女性捜査官、猟奇的な連続殺人、強烈なサイコパスキャラクターといった要素が重なるのもありますが、ホラージャンルにとどめを刺すのではなく、むしろオカルティックな要素まで組み込まれた全方位の恐怖作品となっています。
 
オズグッド・パーキンス監督は、これまで“オズ・パーキンス”という表記も混在しており、キャリアを遡るのに多少混乱する所もありますが本作が長編監督作4本目です。
デビュー作の原題は、初上映時は『February』、その後『The Blackcoat's Daughter』となりました。
邦題も『フェブラリィ -悪霊館-』と『フェブラリィ 〜消えた少女の行方〜』がありますが、これらは全て同じ作品を指しています。
ややこしいですね。
サイコスリラーを代表する傑作『サイコ』で主演を演じたアンソニー・パーキンスが実の父親という家系も彼のキャリア形成に影響を与えているかもしれません。
今作は全米で、オリジナルのホラー映画としては異例のヒットを飛ばしました。
そしてもう次の作品『The Monkey』も公開され、こちらもまたヒットしています。
間違いなくホラー映画界のトップランナーに躍り出たオズグッド・パーキンス監督の動向からは目が離せません。
 
【六本木 蔦屋書店のオススメ:鑑賞前後に観たい作品】
 
 
『CURE』
1997 | 監督:黒沢清
 
オズグッド・パーキンスがどこまで意識をしていたかは分かりませんが、間違いなく『CURE』の影響は見て取れます。
人に何らかの暗示をかけて操るサイコパスというキャラクターの登場だけでなく、スリラーでありながらオカルトに接近していく様もリファレンスを感じます。

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