【六本木ホラーショーケース -ARTICLE-】#034  いつの時代にも『ノスフェラトゥ』はやって来る

“活きのよいホラー映画、ご紹介いたします”

【六本木ホラーショーケース】
六本木 蔦屋書店映像フロアがお贈りするホラー映画紹介プログラム。
ホラー映画を広義でとらえ、劇場公開作品を中心にご紹介し、そこから広がる映画人のコネクションや文脈を紐解いていきます。
 
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今回ご紹介するのは、『ノスフェラトゥ』です。
 
ポスター画像
(C)2024 Focus Features LLC. All rights reserved.
 
『ノスフェラトゥ』
2024 | 監督:ロバート・エガース
 
 
“ノスフェラトゥ”という言葉をご存知でしょうか?
ルーマニア語をはじめとして様々な語源が語られていますが、吸血鬼を意味する言葉になります。
そして、ホラー映画を語る上では外すことのできない重要なキャラクターでもあります。
吸血鬼のオリジナルに遡れば、1897年に出版されたブラム・ストーカーの小説「吸血鬼ドラキュラ」を挙げることができます。
人の血を吸う不死身の存在として登場したドラキュラ伯爵は、後世に多大なる影響を与え、今なお愛されるホラーアイコンの一人です。
 
その小説を基にして作られた映画が1922年の『吸血鬼ノスフェラトゥ』です。
ドイツ表現主義と呼ばれる芸術運動を代表する映画監督F・W・ムルナウが手掛けた作品で、この時に吸血鬼を“ノスフェラトゥ”と名付けられています。
他にもドラキュラ伯爵が“オルロック伯爵”となっていたりと多少の変更がなされています。
サイレント映画でありながら、いや、だからこそ恐怖の根源に触れるような体験を味わえる作品です。
そして、ホラー映画のクラシックとして後世に多大な影響を与えています。
 
直接的な関連作では、1979年に『ノスフェラトゥ』としてリメイクされています。
監督はヴェルナー・ヘルツォークで、クラウス・キンスキーが主演を演じました。
キンスキー演じる伯爵の名前が“ドラキュラ”だったりと、名前の設定はストーカー版に寄せていますが、監督はムルナウ版をリスペクトした上で、リメイクを公言しています。
『アギーレ/神の怒り』で初めてタッグを組んで以降、本作を含め5度も監督・主演として作品を作り上げた二人ですが、怪物的な役者であるキンスキーを過酷な環境に置くことで対峙するヘルツォークという構図は『ノスフェラトゥ』では若干薄れ、オリジナルへの目配せやリスペクトが前面に押し出されています。
それでもキンスキーのビジュアルは強烈ですが。
 
そして、2024年の『ノスフェラトゥ』はロバート・エガースが監督をしています。
長編監督デビュー作である『ウィッチ』で注目された直後、実は早々に本作の製作が発表されていました。
当初は『ウィッチ』と同じくアニャ・テイラー=ジョイの出演が予定されていましたが、企画が停滞する中で降板となっています。
その間に『ウィッチ』の北米配給を手掛けたA24が製作した『ライトハウス』とユニバーサルで大きな予算をかけた『ノースマン 導かれし復讐者』をロバート・エガースは監督しています。
後に監督自身が、『ノスフェラトゥ』という古典ホラーという題材を扱うに当たって、キャリアの積み重ねが役に立ったと語っています。
フォークロアだったり北欧神話だったりと、過去から伝わる物語をモチーフとすることの多いロバート・エガースにとっては、もはやノスフェラトゥの物語はその域に達したという認識なのでしょうか?
何度も同じ物語を語るからこそ、その差異に個性や時代が反映されると感じます。
本作では怪物であるノスフェラトゥ以上に、彼から狙われるエレンにフォーカスを当てた作りとなっています。
彼女を演じるのは、アニャ・テイラー=ジョイから入れ替わる形でキャスティングされたリリー=ローズ・デップです。
ある種狂っていく過程をみせていく役どころですが、美しさと危うさと怪しさを兼ね備えたパフォーマンスは間違いなくこの映画のハイライトでしょう。
本作は全米公開時にスタジオや批評家たちが想定していたよりも大きな興行的成功を収めています。
特に若い世代からの支持が強く、彼女が果たした役割の大きさを感じます。
 
【六本木 蔦屋書店のオススメ:鑑賞前後に観たい作品】
 
(C)2023 Universal Studios and Amblin Entertainment. All Rights Reserved.
 
『ドラキュラ/デメテル号最期の航海』
2023 | 監督:アンドレ・ウーヴレダル
 
“ドラキュラ”と言えば、一般的にはオールバックの髪型をした紳士風な男を想像するかと想いますが、F・W・ムルナウ監督の『吸血鬼ノスフェラトゥ』から分岐した世界線では、丸坊主で異常に肌が白い怪物的な見た目をしています。
1979年版、2024年版もこれを踏襲していますが、実は2023年の『ドラキュラ/デメテル号最期の航海』でもこのタイプのドラキュラが登場します。
ストーカーの原作小説の第7章だけを映画化した変わり種ですが、海上という閉鎖空間でのモンスターパニックを楽しめます。

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