【六本木ホラーショーケース -ARTICLE-】#035  『サブスタンス』が決定付ける新たなムーブメント

“活きのよいホラー映画、ご紹介いたします”

【六本木ホラーショーケース】
六本木 蔦屋書店映像フロアがお贈りするホラー映画紹介プログラム。
ホラー映画を広義でとらえ、劇場公開作品を中心にご紹介し、そこから広がる映画人のコネクションや文脈を紐解いていきます。
 
✳ ✳ ✳ ✳ ✳ ✳ ✳ ✳
 
今回ご紹介するのは、『サブスタンス』です。
ポスター画像
(C)2024 UNIVERSAL STUDIOS
 
『サブスタンス』
2024 | 監督:コラリー・ファルジャ
 
 
『サブスタンス』は紛れもなく、ホラー映画です。
本作をご覧になった方に尋ねても、異論を挟む人はいないでしょう。
もちろんそれだけで語り尽くせるような単純な作品ではなく、様々な角度から論じたくなる要素を内包しています。
ですが、これほどジャンル性が前面に出ている作品が映画祭や映画賞で注目されることは珍しいことです。
というのも、本作は2024年の第77回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、見事脚本賞を受賞しました。
加えて、アメリカのアカデミー賞では作品賞やデミ・ムーアの主演女優賞など5部門にノミネートされ、見事メイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞しています。
ホラージャンル作品として近年では、脚本賞を受賞したジョーダン・ピールの『ゲット・アウト』の躍進が記憶に新しいかと思いますが、それ以来の出来事ではないでしょうか。
 
もちろん本作単体での評価が高いということもありますが、実は新たなムーブメントの萌芽をみることができます。
それは、新世代ボディホラーの担い手たちの登場です。
ボディホラーとは、身体の変容を視覚的に見せることで人間の内的な恐怖を表現するジャンルです。
カナダのデヴィッド・クローネンバーグが切り開いてきたジャンルであり、今なお進化と深化を続けています。
彼の影響下にあり、リスペクトを捧げる監督たちがここ数年活発に活動を行っている状況です。
 
実子であるブランドン・クローネンバーグがまさか父親と同じジャンルで活躍するとは思ってもいませんでしたが、『アンチヴァイラル』『ポゼッサー』『インフィニティ・プール』など着実に実績を残しています。
 
このムーブメントが可視化された最初のハイライトは、ジュリア・デュクルノーが『TITANE/チタン』でカンヌ国際映画祭の最高賞であるパルム・ドールを受賞したタイミングではないでしょうか。
デビュー作『RAW~少女のめざめ~』でも同様のジャンルを撮っており、その一貫性を感じます。
受賞後初の最新作『Alpha』が今年のカンヌに出品されていますので、楽しみに日本公開がを待ちたいところです。
 
『サブスタンス』は、“デビュー二作目にしてカンヌのコンペでジャンル映画にも関わらず賞を取った女性監督作品”という意味で『TITANE/チタン』と重なる部分が多いです。
単なる偶然ではありますが、このシンクロニシティにムーブメントを見出すこともできるでしょう。
その背景としては、セクシャリティやジェンダーをテーマとした映画がアートやエンタメ双方の文脈で多く生み出されているという現状があります。
まさに身体の在り方とそこに宿る心を描くボディホラーが、現代イシューと合致した瞬間です。
デミ・ムーアのカムバックとマーガレット・クアリーの無敵感が、映画の内容ともマッチした最高のキャスティングとなっています。
 
【六本木 蔦屋書店のオススメ:鑑賞前後に観たい作品】
 
(C)2020 SS Animent Inc. & Studio Animal &SBA. All rights reserved.
 
『整形水』
2020 | 監督:チョ・ギョンフン
 
韓国のアニメーション映画です。
エンタメ業界を舞台に美しさを求める人たちがエラい目に遭う、という共通項を持っています。
どちらもタイトルとなっている魔法の薬のような物が、人の潜在的な願望や恐怖を掘り起こすトリガーとなるお話になります。
どことなく藤子不二雄が描くダークサイドなSF的香りがするのも興味深いです。

SHARE

一覧に戻る