【六本木ホラーショーケース -ARTICLE-】#036  都市の『VENUS/ヴィーナス』、田舎の『デビルズ・バス』、コミュニティの闇は至る所に

“活きのよいホラー映画、ご紹介いたします”

【六本木ホラーショーケース】
六本木 蔦屋書店映像フロアがお贈りするホラー映画紹介プログラム。
ホラー映画を広義でとらえ、劇場公開作品を中心にご紹介し、そこから広がる映画人のコネクションや文脈を紐解いていきます。
 
✳ ✳ ✳ ✳ ✳ ✳ ✳ ✳
 
今回ご紹介するのは、『VENUS/ヴィーナス』と『デビルズ・バス』です。
ポスター画像
(C)2022 Pokeepsie Films SL – The Fear Collection II A.I.E.
 
『VENUS/ヴィーナス』
2023 | 監督:ジャウマ・バラゲロ
 
 
ポスター画像
(C)2024 Ulrich Seidl Filmproduktion, Heimatfilm, Coop99 Filmproduktion
 
『デビルズ・バス』
2024 | 監督:ヴェロニカ・フランツ
      ゼヴリン・フィアラ
 
 
『VENUS/ヴィーナス』と『デビルズ・バス』の2作に直接的な繋がりはなく、明確な共通点としては日本配給をどちらもクロックワークスが行っているということにあります。
公開日も近い2作を敢えて繋げてみることにします。
 
『VENUS/ヴィーナス』は、H・P・ラヴクラフトの短編小説「魔女屋敷で見た夢」を原案とした作品です。
監督のジャウマ・バラゲロは、パコ・プラサと共同監督で『REC/レック』シリーズを世に放ち一世を風靡しました。
そして、スペインのジャンル映画界の顔となりつつあるアレックス・デ・ラ・イグレシアがプロデューサーとして参加しています。
 
『デビルズ・バス』は、ヴェロニカ・フランツとゼヴリン・フィアラの共同監督作品です。
このコンビは2014年に『グッドナイト・マミー』を発表しました。
アカデミー賞でオーストリア代表となったり、アメリカでリメイクされたりと世界的にも注目を浴び、待望の新作となります。
前作に続きウルリヒ・ザイドルがプロデュースで参加しており、『VENUS/ヴィーナス』とは有名映画監督による製作作品であるという共通点を見出すことができます。
 
作品のストーリーに目を向けると、どちらも間違いなく“女性の物語”です。
主人公がそうであるというだけでなく、女性というジェンダーが請け負う役割というものをホラージャンルの作法を用いて露わにしていきます。
男性と女性の対立や格差というような単純な構図にはならず、物語上で敵対者として立ちはだかるのもまた女性であったりと、より解像度を高める意欲的な姿勢を感じられるでしょう。
これはコミュニティの闇とも言い換えられるテーマです。
『VENUS/ヴィーナス』で舞台となるマンションの中にも、『デビルズ・バス』の田舎の村にも人が集まればコミュニティが形成されます。
個人的な意思や因縁ではなく、コミュニティの生存本能が生み出した歪みを表現したのがこれらのホラー作品です。
 
とは言っても、『VENUS/ヴィーナス』はラヴクラフト作品らしくクトゥルフ的な怪異が出現するフィクションラインの高い映画で、現代的なイシューが前面に出ている訳ではありません。
一方『デビルズ・バス』は、18世紀のヨーロッパで実際あった事件を基にした物語となり、かなりテイストは懸け離れています。
アート映画の文脈でホラージャンルを語る近年のトレンドにも近接していると言えるかもしれません。
いずれにしろ、並べて鑑賞することで見えてくるものがある作品たちです。
 
【六本木 蔦屋書店のオススメ:鑑賞前後に観たい作品】
 
(C)2019 A24 FILMS LLC. All Rights Reserved.
『ミッドサマー』
2019 | 監督:アリ・アスター
 
ここ最近、海外でも日本でも閉鎖的なコミュニティの恐ろしさを描く作品が改めて増えているように感じます。
いわゆる“因習村モノ”です。
脈々と続く設定ではありますが、明確なブレイクポイントを示すとすれば、やはりアリ・アスター監督の『ミッドサマー』でしょう。
これには功罪もあり、ホラージャンルの盛り上がりと共に食傷気味になってしまっていることも否めません。
ただ、ホラーというジャンルは数多のフォロワーが登場しシーンが飽和してからが勝負です。
定石を取り入れながら、いかに逸脱していくか。
これまでもそうやって進化してきたので、まだまだこのムーブメントからは目が離せません。

SHARE

一覧に戻る