【第18回】コンシェルジュ河出の世界文学よこんにちは『自由研究には向かない殺人』ホリー・ジャクソン/東京創元社

梅田 蔦屋書店の文学コンシェルジュ河出がお送りする世界文学の書評シリーズです。
 
 


正しさを信じるということ『自由研究には向かない殺人』

  

 高校生のピップは自由研究と言う大義名分のもと、自分の住む町でかつて起こった事件について調べ始める。十七歳の少女が失踪し、今も見つかっていない。町の人々が信じるように、少女の交際相手の少年が彼女を殺し、自殺したのだろうか?

 この物語の最大の魅力は、なんといっても主人公のピップだろう。ミステリーの世界には魅力的な謎を追い求めるタイプの探偵もいる。退屈だから謎を解く探偵もいる。ピップは違う。個性的な家族に囲まれ楽しい友人たちを持つピップは、物語の舞台の町で何不自由なく幸せに暮らしている。既に解決したと思われている殺人事件を追いかけなければならない理由がはたしてあるだろうか。しかし、あるのだ。それでも事件を調べ、たとえ危険な目に遭おうとも止まりはしない、それだけの理由が。

 ピップが事件の謎を解こうとするのは、交際相手を殺して自殺したとされている少年は無実だと信じているからだ(彼女が少年の無実を信じる理由がまた、いいのである)。彼が殺人犯の汚名を着せられ、遺された家族が酷い仕打ちを受けるのは間違っていると、そう信じているからだ。だからこそ真実を解き明かし、間違いを正す――それが彼女の正義であり、ピップの行動はこの正義に支えられている。
 「自殺した」少年の弟を相棒に、時には危なっかしいことをしながらも手がかりをたどり、点と点を線で結んでゆく、そんな彼女の努力の前に、町の人々の秘密が徐々に明らかになっていく。時には知りたくないような秘密まで。きっと見ないふりをした方が、回れ右をした方がいい時、彼女はそれでも正義のために、真っ直ぐに進む。そんな彼女の忘れがたい姿が、本書を特別な一冊にしている。

 

今回ご紹介した書籍

 
自由研究には向かない殺人
ホリー・ジャクソン・著
服部京子・訳
東京創元社

PROFILE  文学コンシェルジュ河出
 
東北でのんびりと育ち大阪に移住。けっこう長く住んでいるのですが関西弁は基本的にはしゃべれません。子どものころから海外文学が好きです。日本語、英語、スペイン語、フランス語の順に得意ですが、どの言語でもしゃべるのは苦手です。本の他に好きなものは映画で、これまでも映画原作本の梅田 蔦屋書店オリジナルカバーを作ったり、「パラサイト」のパネル展を行い韓国文学を売ったりしています。これからもこれはという映画があったらぜひコラボしていきたいです。「三つ編み」「中央駅」「外は夏」「ベル・カント」「隠された悲鳴」…これまで素敵な本の数々に書評を書かせていただきました。これからも厚かましく「書かせていただけませんか?」とお願いしていこうと思います。今興味があるのは絶版本の復刊です。「リービング・ラスベガス」「ぼくの命を救ってくれなかった友へ」などなど、復活してほしい本がありすぎる。ミステリーも大好きです。
 
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