【第43回】コンシェルジュ河出の世界文学よこんにちは『ノーマル・ピープル』サリー・ルーニー/早川書房

梅田 蔦屋書店の文学コンシェルジュ河出がお送りする世界文学の書評シリーズです。
 

恋をしていない時も 『ノーマル・ピープル』

 

 マリアンは裕福な家庭に育った一匹狼。コネルはシングルマザーに育てられた学校の人気者。コネルの母がマリアンの家で働いていたことをきっかけに、ふたりはやがて親しくなるが……

 この物語は、ふたりの主人公マリアンとコネルの恋愛を描いてはいる。けれどこれを恋愛小説と呼ぶことには、幾分かの抵抗を覚える。確かにふたりは、ひっそりと恋人同士になる。しかしそれも束の間、学校での立場の差が、まずはふたりを引き裂く。だが、この物語を特別なものにしているのは、思うにふたりが一度は引き裂かれた後の展開だ。お互い恋人ができ、同じ大学に通い、家族との関係に傷つき、精神的な問題に悩み……ここに描かれるふたりの人生のいろいろな段階において、ふたりの隣り、一番近くにいるのは、必ずしもお互いではない。それでも、マリアンはコネルの、コネルはマリアンの中でいつも特別な位置を占めている。たとえ実際に、一番近くにいて一番長い時間を共に過ごしているのが、その時々に付き合っている相手であったとしても、たぶんふたりはふたりともが、誰よりもお互いを理解し、誰よりもお互いのことを想っている。

 一冊の本の形に収めるには、小説はどこかで終わらなければならない。本書も例外ではなく、最後のページというものがある。本書の最後の一ページに記された最後の一行は、まさにふたりの関係をそのまま言葉にしたものだ。どれだけ時が経ち、何が起ころうと、このふたりはこのようにしてお互いを想い続けるのだろう。恋はいつか終わるかもしれない。しかしふたりの間にあるものに終わりはない。それは恋よりもよほど強い絆だ。


 

今回ご紹介した書籍

 
ノーマル・ピープル
サリー・ルーニー
・著
山崎まどか・訳
早川書房
 

PROFILE  文学コンシェルジュ河出
 
東北でのんびりと育ち大阪に移住。けっこう長く住んでいるのですが関西弁は基本的にはしゃべれません。子どものころから海外文学が好きです。日本語、英語、スペイン語、フランス語の順に得意ですが、どの言語でもしゃべるのは苦手です。本の他に好きなものは映画で、これまでも映画原作本の梅田 蔦屋書店オリジナルカバーを作ったり、「パラサイト」のパネル展を行い韓国文学を売ったりしています。これからもこれはという映画があったらぜひコラボしていきたいです。「三つ編み」「中央駅」「外は夏」「ベル・カント」「隠された悲鳴」…これまで素敵な本の数々に書評を書かせていただきました。これからも厚かましく「書かせていただけませんか?」とお願いしていこうと思います。今興味があるのは絶版本の復刊です。「リービング・ラスベガス」「ぼくの命を救ってくれなかった友へ」などなど、復活してほしい本がありすぎる。ミステリーも大好きです。
 
コンシェルジュをもっと知りたい方はこちら:梅田 蔦屋書店のコンシェルジュたち
 
ご感想はこちらまで:umeda_event@ccc.co.jp

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