【第47回】コンシェルジュ河出の世界文学よこんにちは『五月 その他の短篇』アリ・スミス/河出書房新社
梅田 蔦屋書店の文学コンシェルジュ河出がお送りする世界文学の書評シリーズです。
小説を書く人 『五月 その他の短篇』
アリ・スミスは小説を書く人だ。
この短編集の最初に置かれた「普遍的な物語」を読み始めて、そう感じた。
「普遍的な物語」で、語り手は、ある物語を語ろうとする――主人公は男、いや、女。この言葉はちがう。やめておこう。視点はどこに置く? 文章はいろいろなところから、いろいろな方向に向かって書かれる。まるで小説家がある物語を語ろうとして、それをいかに書くべきかを、書きながら試行錯誤しているようだ。一つのやりかたを採用して立ち止まり、やっぱりべつのやりかたを採用して立ち止まり、しかし不思議と後退することはなく、話はじわじわと前に進んでいく。試行錯誤の一つ一つもまた、この小説の一部であって、しかも欠かすことのできない一部なのだ。
こんなふうに小説を書く作家に会うと、小説を書く人だ、と思ってしまう。物語を書く人と小説を書く人の違いはたぶん、ある物語がいかに語られるべきかにどれだけ意識的であるか、にあるのだろう。「普遍的な物語」を書いた時、アリ・スミスはまちがいなく、小説における語りに意識的だった。この短編は、語りに意識的な小説の中でもきわめて素晴らしいものではないだろうか。
はじめてアリ・スミスの小説を読んだのは、表題作「五月」だった。読み返してみると、木に恋をしてしまった「わたし」の物語は、やはり細心の注意を払って語られていたのだとよくわかる。この稀有な物語を含む短編集が日本語でまるごと読めるようになったことは、幸いであると言う他ない。
今回ご紹介した書籍
PROFILE 文学コンシェルジュ河出
東北でのんびりと育ち大阪に移住。けっこう長く住んでいるのですが関西弁は基本的にはしゃべれません。子どものころから海外文学が好きです。日本語、英語、スペイン語、フランス語の順に得意ですが、どの言語でもしゃべるのは苦手です。本の他に好きなものは映画で、これまでも映画原作本の梅田 蔦屋書店オリジナルカバーを作ったり、「パラサイト」のパネル展を行い韓国文学を売ったりしています。これからもこれはという映画があったらぜひコラボしていきたいです。「三つ編み」「中央駅」「外は夏」「ベル・カント」「隠された悲鳴」…これまで素敵な本の数々に書評を書かせていただきました。これからも厚かましく「書かせていただけませんか?」とお願いしていこうと思います。今興味があるのは絶版本の復刊です。「リービング・ラスベガス」「ぼくの命を救ってくれなかった友へ」などなど、復活してほしい本がありすぎる。ミステリーも大好きです。
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