【第5回】コンシェルジュ河出の世界文学よこんにちは『かわいいウルフ』小澤みゆき/亜紀書房

梅田 蔦屋書店の文学コンシェルジュ河出がお送りする世界文学の書評シリーズです。
 
 

ヴァージニア・ウルフが「かわいい」だって? 『かわいいウルフ』

 
 

ヴァージニア・ウルフ。その名前を聞いて、あなたは何を思い浮かべるだろうか。
「意識の流れ」?「ダロウェイ夫人」? 「映画『めぐりあう時間たち』でニコール・キッドマンが演じてアカデミー賞を獲ったあの人」? 人によってイメージはそれぞれだと思う。 この本を作った小澤みゆき先生は、「ごあいさつ」でこう言っている。

 

「実に多彩な著書を残したウルフの文章世界を読みあさるうちに、わたしはある考えにたどりつきました。それは、
『ヴァージニア・ウルフは、かわいい。』
ということです。」

 

かわいい。ヴァージニア・ウルフの文章を読んできた身としても、これには意表を突かれた。ウルフの作品の、型にはまらなさであったり、今でさえ感じる新しさであったり、単純に文章の美しさであったり、そういったものを表現するのに、私だったら一体どんな言葉を使うだろう。よくよく考えてみなければそれはわからないが、それはたぶん「かわいい」ではない。小澤先生にとってウルフは、「かわいい」のだ。かわいい。かわいい...「自分ひとりの部屋」を書いた作家の、「灯台へ」を書いた作家の、「かわいさ」とは。「かわいいウルフ」とは、何だろう、この人にはどんなウルフが見えているのだろう?

 

「推し」という言葉がある。あなたが誰かや何かのファンである時、その誰かや何かはあなたの「推し」だ。この本で小澤先生は、自らのウルフの「推し方(かわいい)」を語る。のみならず、同じく「ウルフ推し」であるいろいろな人にも語ってもらう。かつて作中に出てくる料理を再現してみた人、ウルフ原作の映画「オルランド」のボリウッド版リメイク(!)を真摯に構想する人...「かわいい」がウルフの「推し方」として視界に入っていなかったように、この本で語られる、それぞれのウルフの「推し方」は、私の「推し方」とまるで違っていて、箱の外の世界を見せられたような気持ちだった。あなたがこれまでに一度もウルフの文章に触れたことがなかったとしよう。あるいは、読んだことはあっても特に惹かれなかった(そんなことがもしあるとすれば、だが)としよう。この本を最後まで読めば、この本の熱気あふれるそれぞれの「ウルフ推し」に触れれば、ウルフの本を一度は手に取ってみたくなるはずだ。

「ウルフ推し」の一員としては、この本が生まれたことが本当にうれしい。ちなみに、私の推しは「オーランドー」です。

 

今回ご紹介した書籍

『かわいいウルフ』
小澤みゆき 著  亜紀書房
 

PROFILE  文学コンシェルジュ河出
 
東北でのんびりと育ち大阪に移住。けっこう長く住んでいるのですが関西弁は基本的にはしゃべれません。子どものころから海外文学が好きです。日本語、英語、スペイン語、フランス語の順に得意ですが、どの言語でもしゃべるのは苦手です。本の他に好きなものは映画で、これまでも映画原作本の梅田 蔦屋書店オリジナルカバーを作ったり、「パラサイト」のパネル展を行い韓国文学を売ったりしています。これからもこれはという映画があったらぜひコラボしていきたいです。「三つ編み」「中央駅」「外は夏」「ベル・カント」「隠された悲鳴」…これまで素敵な本の数々に書評を書かせていただきました。これからも厚かましく「書かせていただけませんか?」とお願いしていこうと思います。今興味があるのは絶版本の復刊です。「リービング・ラスベガス」「ぼくの命を救ってくれなかった友へ」などなど、復活してほしい本がありすぎる。ミステリーも大好きです。
 
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