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【RE:HIROSHIMA インタビュー】武内智弘 宮島の伝統と文化に触れ滞在が特別なものになるために、私たちができることとは

 
宮島にある、創業100年以上続く老舗旅館「錦水館」と宮島桟橋の玄関口に2017年にオープンした「ホテル宮島別荘」の2つのブランドの宿を経営する。宮島の思い出づくりアドバイザーという肩書も持つ、錦水館六代目、代表取締役社長 武内智弘様にご自身のこと、宮島のこと、についてお話を伺った。
 
 
錦水館の六代目になるまで
 
私は親の後を継いで錦水館の六代目に就任しました。もともと、大学は経済学部に行っていたのですが、家業を継ぐという考えはその当時はありませんでした。やりたいことが漠然としていた中、就職活動もいろいろとやっていたのですが、知り合いから、安芸高田市にある神楽を見ることができて、食事や宿泊もできる施設、神楽門前湯治村で働いてみないかというお誘いがあったのです。
私自身家業が旅館ですので、自分がサービスの仕事に向いているのかどうか試したいという考えもあり、そこで4年間接客サービスの仕事を経験しました。その中で、お客様に直接「ありがとう」という感謝の言葉をいただけるこの仕事が素晴らしい仕事だということを改めて感じました。
その後、錦水館に戻ることを決意し、常務取締役としてフロントなどの現場でまずは働くことになりました。2005年当時にインターネットを使ってウェブサイトで予約ができるようにすることや、ウェブマーケティングなどを実験的に始めました。ネットを販促や収益に繋げるという仕事に取り組んでいたのがその頃ですね。
その後、グループの旅館である、宮島別荘の専務取締役として、旅館の経営を始めました。旅館で働く人たちはベテランも多く、自分よりも年齢の上の人たちと働くのは大変だった面もありましたが、現場のたくさんの先輩たちに助けられたという思いもあります。
専務になってからは長く、父親が決めた仕事をやるという形で業務を行っていたのですが、その時の父親との仕事がとても勉強になりました。父親からは今でも助言をいただいています。
そして2019年7月に経営発表会で社長として働くことが決まりました。
 
 
 
 
これからの錦水館で取り組んでいくべきこと
 
まずは将来を担う錦水館のリーダー育成と、DX推進に取り組んでいこうと考えています。おもてなしをするという仕事はとても大事なことだと思っています。そのおもてなしをする仲間を増やしていきたいと思っていますので、従業員の研修なども積極的に行っています。その中で経営の考え方を従業員みんなに広めたいとも考えています。
うちには「お客様の思い出作りのお手伝い」という経営理念があります。お客様に喜んでいただいて、楽しかったという思いを他の人にも伝えてもらって、宮島をもっと知ってもらう、そして関わる人みんなが豊かになる、ということは常に念頭に置いています。
そんな中、課題と言えるのは、日本の人口減少です。宮島は年間485万人と年々、観光客が増えているのですが、島内の定住人口は減少傾向にあります。経営理念でもある、お客様の宮島での思い出作りをサポートするために、やりがいのある仕事が常に創造できるような会社にしてスタッフ達にも安心して宮島に定住してもらいたいとも考えています。
 

 
宮島の伝統と文化
 
宮島には歴史と自然と文化がひとつの町にある、これこそが特徴でもあります。
そういう全てを宮島で体験することができるのです。宮島の人は本当に暖かい人が多く、そういった町の人とも、もっと触れ合ってもらいたいのです。
宮島はフェリーに乗らないと訪れることができない場所であるというのも大きな特徴です。それは、ちょっとした旅行気分を満喫できますし、瀬戸内海の穏やかな波や宮島から見る夕日を味わうこともできます。また、一年を通して、桜や新緑、紅葉と四季折々の風景を感じることができるのも大きな魅力です。早朝の嚴島神社や夜の大鳥居のライトアップなど、泊まらないと見ることができない情緒的な風景も素晴らしいんですよ。
宮島が好きで、何度も来てくださるお客様がいらっしゃるのですけど、その人は、懐かしいと言ってくださるんです。時間がゆったりと流れていて、ここは第二の故郷だと、安心できる場所だと言ってくださいます。それがとても私には嬉しいのです。
 
 
撮影 武内智弘
 
 
宮島の残したい文化 変わっていく文化
 
宮島は非常に恵まれた観光地ではあると考えています。
努力せずとも集客が見込めると思っている人もいるのかもしれませんが、私はずっとそれが続くとは考えていません。
宮島という土地の歴史をきちんと次の世代に伝えないといけないという使命感も持っています。それは昔から続く伝統工芸や風習など、先人が宮島の為に考えたモノ・コトなどです。例えば、江戸中期の天明の大飢饉と言われた時代に、宮島にいた誓真さんというお坊さんは、島民の生活が苦しい中、生活水として使用できる井戸を10箇所掘ってくださり、今も使われている井戸が複数存在しています。また、今では宮島の縁起物と言われている杓子も開発されています。そういった歴史や文化が宮島にはたくさんあります。その歴史や文化を、観光客の方や地元の方にも、もっと知っていただきたいなと考えています。
 

そのためには、もっと宮島を知ってもらえるためのコンテンツを考えていくことが大事だと思います。地元の人にインタビューをするなどして、地元の人しか知らないスポットなどを紹介してもらって、もっと宮島に住んでいる人と観光の人との触れ合いが持てるようなことをしていきたいと考えています。
 
 
 
宮島の伝統産業のこの先
 
宮島の伝統産業をそもそも知らない人が多いと感じています。ワークショップなどの体験会を通して、気軽に触れ合えるようなことをしたいのです。そうして知ってもらうということができれば、伝統工芸に興味がある若い方を繋げることができる。そしてその若い方のリアルな声を聴いて、その仕事を継ぎたいという強い想いのある方とのマッチングができるような機会があるととてもいいのではないかと考えています。
 
 
 
武内社長の知っている、知る人ぞ知る宮島の魅力
 
実はですね、宮島の入浜というところにハート岩というのがあるんですよ、そこがすごくお勧めです。なかなか地元の人しか夜には行けないと思うのですが、入浜に星空を見に行ったんです。真夜中、テントから出ると、今にも降ってくるかのような、一面に広がる星空を見た時は感動しました。これは、どこでもみたこがない星空でした。その時に私が撮った写真がこの写真です。
 
撮影 武内智弘
 
夕日も実は毎日違うんですよ。その夕日を見ることもすごく好きなことです。
宮島の魅力の一部は泊まってみないと味わえないこともあります。観光シーズンの嚴島神社は多くの人が並んでいる状態ですが、実は朝は6時半から参拝できるんです。フェリーの始発はそのあとに着きますので、朝の凛とした雰囲気の中、人の少ない嚴島神社を参拝いただけます。非常に得難い体験です。夜は夜で、とても静かですので、波の音を聞きながら宮島で過ごすのもとても贅沢な時間だなと考えています。観光地ではない宮島の姿もとてもいいものです。これは宮島に泊まらないと味わえない醍醐味とも言えますね。
 
 
 
撮影 武内智弘

 
 
広島のREとは
 
再発見という見方で宮島を見るとまだまだ気が付いていなかった魅力を私自身も見つけることができました。
私自身も宮島を離れていた時期がありました。そしてまた戻ってきた時に、住んでいた時には毎日の日常の景色の中にあった宮島の日々が、実は当たり前の日常ではなかったということに気づかされました。宮島の四季の移ろいや、その時にしか見られない景色や日常というのが、実は当たり前ではなく、ある意味「非日常」でもあるということを再発見して、ますます宮島が好きになりました。
 
 
撮影 武内智弘
 
宮島に限らず、広島のどこの地域でもローカルな魅力があると考えています。その地域に住んでいると当たり前になって魅力に感じないが、別の場所から来た人にとってはそれがかけがえのない魅力になるということもあります。それをもっと知ることで、自分の郷土の魅力を伝えられるようになるはずです。もっと広島の魅力を発信するためには、自分自身がそれに気づける目を持つ必要があると考えています。
当たり前と思わずに、今ある歴史・文化・場所を違う角度で見ると新しい発見があるはずです。私自身、再発見をこれからも探して、体験していきたいなと考えています。

 
 
 
武内社長のおすすめする本
 
 
福島 正伸さんの『リーダーになる人のたった1つの習慣』(KADOKAWA)をお勧めします。
カラオケ店で働く3人のリーダーが悩みながら成長していく物語になっているのですが、この本を読むことで、私は人と人とのコミュニケーションの大事さと、リーダーとしての覚悟について学ぶことができました。
私にとって、コロナというのはターニングポイントとなった時期でした。コロナの影響で観光客は6割減ったのです。旅館も毎月資金ショートに陥るような事態で、なんとかつぶさないように、弁当を売るなど、とにかく工夫をして乗り切ろうと頑張りました。その中で気づいたのは、旅館を守るということが、従業員の雇用を守るということと同義だということでした。それはとても大きな課題でした。
その時、たまたま野菜を仕入れていた農家さんから、コロナで従業員が困っているので収穫時に応援をもらいたいとの要請を受けたのです。私たちの旅館では、料理に地元の農作物を使うという観点から、小さな農家さんとの付き合いも多かったのですが、それら農家さんが従業員を農作業の為の人材として受け入れてくれたんです。他にも、そのような取り組みをしていることを知った方々から、いろいろな支援の手が差し伸べられました。
人と人との繋がりのありがたみ、コロナ禍という大きな負の時期ではあったのですが、その時でなければ繋がれない人たちと多くつながることができました。それはとても大事な経験でしたし、私はその時期を通して、経営者としての覚悟を学ぶことができました。
旅館というものは人がいないとできない。人ありきの商売です。そのためには、お客様というのはもちろん大事なのだけれど、私たちの旅館で働く従業員を大事にしなければならない。働きやすさ、やりがいを作っていかなければならないのです。
私が、お客様や知り合いの人から言われて一番嬉しいのは、旅館のスタッフがとてもよかったという声をいただくことです。とても楽しそうに働いているのが印象に残ってとても過ごしやすかった、などの声をいただくと経営者としては一番の喜びを感じますね。
私自身もまだまだ旅館の仕事も宮島の魅力についても知らないこともありますので、これからも宮島、そして広島のREを探していきたいと考えています。
 
 
 
 
【プロフィール】
武内智弘(たけうちともひろ)
宮島生まれ宮島育ち。1981年9月24日(O型)42歳。                                    
大学を卒業を家業を継ぐために、広島県安芸高田市にある神楽門前湯治村で約4年、接客サービス、フロント・予約業務など色々な仕事を経験。錦水館に入社後、現場の仕事、WEBマーケティング、現場の支配人を経験し、2019年7月に代表取締役社長に就任。宮島が大好きで、一眼レフカメラで四季折々の宮島の風景を撮影し、SNSのInstagramで発信。自身のフォロワーは1万2000人。 
 
 
株式会社錦水館
創業1902年。世界文化遺産の宮島で温泉旅館「錦水館」と「ホテル宮島別荘」の2つのコンセプトの宿を運営。宿泊事業以外に、飲食事業、催事通販事業、パン事業などにチャレンジ。「お客様の思い出づくりのお手伝い」をミッションとし、お客様・スタッフ・地域社会に貢献できる企業を目指しています。コロナ過でもお客様の付加価値向上となる投資やスタッフ育成を行い、お客様・スタッフの幸せのために「全員経営」に取り組む。                                    
 

撮影_中野一行
宮島撮影_武内智弘
構成_広島 蔦屋書店 文学コンシェルジュ 江藤宏樹
撮影場所_錦水館、ホテル宮島別荘
 

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