include file not found:TS_style_custom.html

広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.202『雨はこれから』東本昌平/モーターマガジン社

蔦屋書店・江藤のオススメ『雨はこれから』東本昌平/モーターマガジン社
 
 
東本昌平という漫画家は、おそらくバイク好きなら誰もが知っているのだが、バイクに興味がない人であれば、たとえ漫画好きな人であっても馴染みが無いのかもしれない。
というのも、最近は漫画雑誌ではなく、バイク雑誌が活動の中心となっているので一般の漫画好きであっても、その作品を目にすることが少ないからだ。
コミックの単行本も定期的に出ているのだが、集英社や講談社などの出版社ではなく、モーターマガジン社という車・バイク系の出版社なので、コミック売り場ではなく、バイク雑誌のコーナーに新刊が出たときだけ置いてあるという状態。バイク好きが買うだけでおわってしまう。
 
でも、それはとてももったいないのではないか!というのが今回の主張です。
では、ミスターバイクというバイク雑誌で連載中の漫画『雨はこれから』の魅力を、バイクに興味がない人に向けてプレゼンしてみようと思います。
 
まずこの漫画のいいところ。
絵がめちゃくちゃ上手くて、出てくるバイク描写がとんでもなくかっこいい。
これはもう、他の漫画の追随を許さないところです。
 
いや、これではないですよね。
今回のテーマは、バイクに興味がない人へのプレゼンですから。
 
では、私がこの漫画を誰に勧めたいかと言うと。
まずは、40代半ばから50代の男性です。
というのも、この漫画の主人公「松ちゃん」の年齢が57歳。
定年間際で会社をやめた中年男性なのです。
 
ある意味、この漫画はその年代の男性の夢を具現化したファンタジーでもあります。
こんな生き方いいな、こんなふうに暮らしたい、こんな男になりたい、こんな生活してみたい、こんな仲間が欲しい、こんな女性に好かれてみたい、などなど、男の夢がだいたい全部詰まっているんですね。
 
では、その要素をひとつずつ検証してみましょう。
 
この漫画は、あまり多くを語りません。読んでいくと、そのストーリーを通してだんだんと登場人物の背景がわかってくるタイプの漫画です。なので、今回は、現在7巻までコミックは出ていて話も続いているのですが、前半部分から読み取れる内容だけで話を進めます。
 
まずは、主人公の松ちゃんがどういう人物かと言うと。
もともとテレビマンだったようですが、自分らしい生き方とは、という疑問を抱えて定年間際で会社を辞めます。年齢は57歳。
この松ちゃんのルックスがいい。無精髭も似合っていて、スリムですがガタイがいい、という理想的な体型でバイクに乗る姿も渋い。こんな57になりたいという理想形です。
 
イラつくことがあり、バイクで走っていたところで見つけた、打ち捨てられたドライブイン。その荒れ果てたドライブインを借りて住み始めます。
草を刈り、掃除をし、補修をして、自分のバイクを建物内に持ち込み、カウンターでコーヒーを淹れ、ひとりで住もうとするのですが。
 
ですが、ですよ。
松ちゃんの周りにはいろいろな人が集まってきます。
 
まずは、バイクで夜な夜な走り回っているだろう近所の若者たちです。
荒れ果てたドライブインに落書きをしようと集まるのですが、松ちゃんに脅かされ、草むしりをさせられます。意外と気のいい彼らはそれから定期的に草刈りにやってくるのです。
 
やんちゃな若者たちを手下にする。
いいじゃないですか。
 
この漫画のヒロインといも言える女性も現れます。
松ちゃんがバイクで走っていると、付きまとってくる女性ライダーに気が付きます。
そんなある日、ついに彼女が松ちゃんの住むドライブインまで付いてきます。
ちょっとネタバレになるのですが、彼女はとある出来事で松ちゃんと過去に接触したことがあって、その時から気になって探していたようです。そしてそのまま松ちゃんのドライブインに来るようになり、カウンターでコーヒーを淹れるようになります。
どうも彼女は松ちゃんに惚れているらしい。そして彼女の年齢設定が絶妙で、28歳。若くもないが松ちゃんからすると小娘って感じです。
 
生意気な小娘に惚れられる。
これもいいじゃないですか。
 
他にも、故障したバイクを押す大学生の若い男性が出てくるのですが。バイクを修理してもらったことから松ちゃんに懐いてしまって、いつもやってきてはコーヒーを飲んでいます。
自称ソウルスピードと名乗る、ゼファーに乗った強面の男性も登場するのですが、実は見掛け倒しなところがあり、松ちゃんには嫌われて無下にされるのですが、結局懐いてしまってドライブインの常連になります。
 
大学生のバイク乗りや強面のバイク乗りに慕われる。
これもいいんじゃないですか。
 
松ちゃんの古くからの知り合いも、なかなかいいキャラクター揃いです。
友人のバイク屋の主人はもともとGPのメカニックとして世界を転戦していた男だったり、めちゃくちゃ渋いイケメンお爺さんのコーヒー屋の主人とか、中学からの悪友のアメリカ人の父を持つガブ・ロウという男、元芸人で今はスクラップ場で働く男。などなど、こんな仲間がいたら人生飽きないだろうなという人物ばかり。
 
そして極めつけは、松ちゃんがコーヒー豆の配達を請け負っているサーフショップの、とてもきれいな女性クミちゃんです。おそらく40代前半ぐらい。
クミちゃんは松ちゃんのことが気に入っているようですが、松ちゃんはそのサーフショップの主人が旦那さんだと思いこんでいたので、普通に親しくしていました。
しかし、実はその男性はクミちゃんの弟だという設定が明らかに。
この漫画に出てくる登場人物で、もっともイイ女であるクミちゃんは、松ちゃんに影響されて、バイクの免許を取ってバイクに乗り始めます。
一方的に惚れられている小娘には全くと言っていいほどなびかない松ちゃんですが、バイクに乗り始めたクミちゃんに浮足立ってしまうのです。
クミちゃんにいいところを見せたい思いがあるのでしょうか。
松ちゃんは、昔やっていたというサーフィンをまたやってみようかと思い、自宅にしているドライブインで自らサーフボードを削りはじめます。
松ちゃんとクミちゃんの関係はどうなっていくのか。
 
どうですか。
コミックでいうと3巻ぐらいまでの内容ですが、男の夢が全部詰まっていると言ってもいい内容じゃないですか。
 
まあ実際、こんなことはありえないですよ。
ファンタジーですから。
でも、だからいいんじゃないかな。
 
現実なんか忘れて、この漫画の世界に没頭して、夢のような男の生き方を追体験してみましょうよ。
 
あなたの心の中にそういう世界がひとつでもあれば。
クソつまらない日常もなんとかやりすごせるんじゃないですかね。
 
 

SHARE

一覧に戻る