へいじつのよみきかせ〜親と子の時間〜「絵本『ちょっとだけ』から見える子育て」

 
kidsコンシェルジュが提案する絵本を軸とした親と子の過ごし方。
今回は『ちょっとだけ』(福音館書店)の絵本をテーマにお送りします。
 
いよいよ夏本番ですね!子どもたちはきっと夏休みを満喫していることでしょう。
熱中症や台風や大雨など災害の心配もありますが、家族でしっかり約束をして、親子で楽しい夏を過ごしてほしいなと思います!
さて、今回は「ちょっとだけ」という絵本を参考にしながら、子育てについてお話してみようかなと思います。
じつは私、この絵本が大好きなんです。わが子がまだ保育園だった時にこの絵本に出会いました。夜ベットに入ったら2人の子どもがそれぞれ選んで持ってきた絵本を読んで寝るのが日課だったので、この絵本もよく読んでいたのを覚えています。ある日、読もうと思っていたら見つからず、どこに行ったんだろうと思ってずっと探していたけど(仕事場へ持っていくこともあったので)結局見つからず、2冊目を購入したほどです。(1年くらいして、ベットの隙間に落ちているのを発見!)
この絵本を読んでいると私は必ず涙が出ます。もし子育てをしてなかったら、こういう感情には出会えなかっただろうなーと読むたびに感じます。
 
主人公のなっちゃんはお姉ちゃんになりました。ママはあかちゃんのお世話で忙しいので、なっちゃんは「自分で」やってみようと頑張ります。
ここでなっちゃんが素敵だなと思うところがあります。

● できないところは、ママに手伝ってと言えるところ(忙しいママのことを思って今は言わないけれど)
● 初めてのことでも自分でチャレンジしてみるところ
● ママがあかちゃんのお世話で忙しくしていても、ダダをこねたり困らせたりしないところ
 
しかし、ページをめくるごとになっちゃんの「ちょっとだけせいこうしました」の表情がだんだんと寂しげになっているのがわかります。本当は心のどこかでママにしてほしいし、ママと遊びたい気持ちがよく表れています。
子どもは相手の表情をよく見ているので、大人の感情をすぐに読みとります。時に大人に気遣いも見せてくれます。それは子どもの感情が、育つ環境によって大人びたり、甘えたりしながら、だんだんと豊かになっていくからですね。
なっちゃんのママは、そんななっちゃんの気持ちと表情を見逃すことなく、あかちゃんのお世話で忙しい中でも、なっちゃんを頭の片隅から決して放すことをしません。なっちゃんが必死で我慢している気持ちに上手に答えてあげるのです。
 
「ちょっとだけじゃなくて、いっぱいだっこしたいんですけどいいですか?」
いつもこの場面で私の涙腺が崩壊します。
 
二人目が生まれると、まだ産後の体をひきずって上の子のお世話をしながらあかちゃんのお世話と家事をこなし、めまぐるしく1日が終わっていたあの頃。なっちゃんのママのような言葉を、私は上の子にかけてあげられていただろうか…この絵本をみていると、いつもそんな自分を振り返ってしまうのです。なっちゃんのママは、本当にすごいなあと。
 
あかちゃんがうまれると、上の子は「あかちゃん返り」をしてママの目を引いたり、困らせたりする行動がよく見られます。そりゃあそうですね。今までパパやママを独り占めしていたのですから。嫉妬心もたくさん芽生えるでしょう。
絵本の中のママとなっちゃんはとても気持ちが通い合っています。きっとなっちゃんは、あかちゃんを心待ちにしていたでしょうし、一人っ子の時もママとパパの愛情をしっかりもらっていたのでしょう。でも子どもって、寂しいと感じたときに、なっちゃんのように「頑張って自分で」なんてできないのかもしれませんが、親はそこへ子どもを導くことはできます。ママはどんなに疲れていても、子どもの気持ちから目を離さないでいること。子どもの気持ちを知ろうとすること。ママだけでなく周りの大人もそうです。ママのワンオペ育児にならないように協力体制を作ること。
産後のママに心の余裕が生まれることで、子どもたちの気持ちが安定します。それはなっちゃんのように、上の子があかちゃんに優しく接することにつながります。誰かに優しくしてもらった経験がないと、私たちはそれを誰かに返すことはできませんから。
 
子育てに正解はありません。唯一あるとすれば、家族みんなが毎日楽しく、幸せだなあと感じていられることが子育ての正解なんだと思います。そこに行きつくまでの過程なのであれば、みんなそれぞれの子育てがあっていいのではないでしょうか。
もし子育てにしんどさや、辛さを感じてしまっているなら、それは一刻も早く修正をする必要がありますね。周りの手を借りることももちろんですが、「それまでの自分」を見直すことも大事です。完璧をやめること。子どもが小さいうちは、すべてを完璧にするなんてしなくていいことです。
今日できなかったら、明日しよう。
この子は、ママじゃなくても大丈夫。(パパとの時間も大事!)
別に毎日洗濯しなくてもいいわ。
自分がそう思えるようになることが、毎日を楽しむための一番の近道かもしれません。
なっちゃんのママのように、子育てを楽しんでくださいね!
 


【今月のおすすめ絵本】
『ちょっとだけ』瀧村有子 鈴木永子 絵/福音館書店
 
 
[読み方アドバイス]
あかちゃんが産まれておにいちゃんおねえちゃんになったお子さんへ、また、これから出産されるお母さんへぜひ読んでほしい絵本です。この絵本を手に取ってもらえることで、子どもはママに甘えてもいいんだよというエールと、これからお母さんになる人は、子どもの気持ちに寄り添ってほしいなという願いを込めて…

 
 

 
 
宮本 陽子(みやもと ようこ)
Kidsコンシェルジュ
保育科卒業。保育士として広島市の保育園に勤務。
21年勤続の後、保育士時代に毎日読み聞かせをして培った絵本の知識を、リアルタイムに子どもたちそして親たちへ伝えられたらと思い、2017年広島 蔦屋書店に入社。入社してからも「へいじつのよみきかせ」で平日は毎日1日1回、ほぼ毎日絵本を読んでいる。
「0歳から就学前の子どもたちの好きな絵本」、「親が子どもにぜひ読んであげてほしい絵本」、「おとなの気持ちを癒す絵本等」等、多様な児童書というジャンルのなかでも特に「絵本」が持つ魅力を提案し続けている。
 

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