へいじつのよみきかせ〜親と子の時間〜 絵本『3人のママと3つのおべんとう』

 
Kidsコンシェルジュが提案する絵本を軸とした親と子の過ごし方。今回は、絵本『3人のママと3つのおべんとう』をテーマにお送りします。
 
初夏を思わせるような汗ばむ季節になりました。2024年の幕が開いて、もう3分の1が過ぎようとしています。早いですね。そう考えると、1日1日を本当に大切に、心地よく過ごすことが大事だなと痛感します。同じ1日を過ごすなら、「楽しくなかった1日」より「楽しかった1日」のほうが絶対おトクですから!
 
さて、この『3人のママと3つのおべんとう』という絵本、刊行は2020年と少し前なのです、最近読む機会がありとても気になったので、ここでご紹介しようと思います。
 
作者はクク・チスンさんという韓国のかたで、どこにでもある親子の日常を切り取った作品です。共感する場面もたくさんあります。
 
少しだけあらすじをお伝えしますと、
同じマンションに住み、同じ幼稚園に子どもを通わせている3人のお母さんが主人公。1人は会社で役職についているバリバリのキャリアウーマンのお母さん。2人目のお母さんは漫画家。3人目のお母さんは専業主婦で3人の子どもの育児をしています。今日は子どもたちが楽しみにしている遠足の日。お母さんはお弁当を作るのに朝から大忙しです。この3人のお母さんたちは、仕事も環境も子どもの人数も違いますが、それぞれに一生懸命育児をし、家事をしながら、仕事のことや自分や家族の将来のことを考える日々を過ごしています。
 
先日、私は保育士だったころの同僚と久しぶりに会って近況報告をしながらお茶を楽しみました。みんな子育て真っ最中。たくさんの子育てのストレスや、行き場のない思いを抱えていました。同僚たちはみんなたまたま仕事を持っていますが、専業主婦、専業主夫の親だっていつも子どもの姿が見えているからゆえに、しんどいことはたくさんあります。
おしゃべりしていると、私はこの絵本の中のお母さんを見ているような気持ちになりました。だったら、この同僚たちに今一番大切なのは、自分への気持ちのゆとりなのかもしれないなと。
 
この絵本はいろんな子育て、いろんな悩み、いろんな幸せがそれぞれにあることを教えてくれます。そして、今、子育ては大変だけど子どもを大切に思っているお母さんへのエールが描かれていることがステキなのです。
 
子育てに奮闘中のお母さんお父さんは、目の前の今日1日を終えることが精一杯です。子どもが寝た後の自分の時間が至福の時ですね。これで「気持ちのゆとり」を獲得する方法もあります。
 
子どもが〇歳になったら仕事に復帰してみようかな
次の休みは子どものために時間を使おう
明日は、夕飯の時子どもにこんな話をしてみよう
この子はどんな大人になるんだろう
こんなふうに、すぐ先のことや少し先の未来のことを考えながら「今」の子育てをする。これも気持ちのゆとりにつながります。
今日、子どもの部屋がちらかっていて片付けができていなかった
今日、子どもが約束を守らなかった
今日、ご飯を食べるのに時間がかかった
こんなふうに「今日」の子どもにピックアップしていると、必ず疲れます。
それなら、「今日」の子どものいいところに目を向けてみませんか?
例えば、
今日、子どもがケガも熱もなく元気だった
今日、子どもの笑った顔を〇回見ることができた
今日、子どもから話しかけてきてくれた
こんなふうに考えることができるのも、気持ちのゆとりがあるからだと私は思います。
 
子どもは親が忙しそうにしているときによく話しかけてきたりぐずったりしますね。
どこの家庭もそうです。それは、子どもに「忙しくて気持ちに余裕がない」ことを見透かされているから。だから子どもは「自分のほうを向いてよ」って言っているんだと思います。「忙しい時に限って子どもって…」と感じることが多いなら、自分の気持ちにゆとりを持つことを、少しだけ意識してみるといいと思います。
 
自分の子育てはダメなんじゃないかと思っているお母さん、お父さんへ。ダメなんかじゃないですよ。今、目の前のことに一生懸命なだけなんです。でも、子どもは、目くじらを立てて家事をしたり、ガミガミ言ってくるお母さんのことを好きになれるでしょうか?この絵本の中の3人のお母さんたちのように、ふと嬉しいことに遭遇し表情がゆるんだ何気ない瞬間。そんなお母さんのことが、子どもは一番大好きなんです。
だから、少しだけ立ち止まって聴いてみませんか?
いつの間にかたくましくなった子どもの話や、移りゆく季節を感じさせてくれる風の音。日々の子育ての中に響く家族の笑い声を。わが子が18歳を迎えるとき、どんな人になっていてほしいでしょうか…その時、親と子が笑顔を交わし、お互いを思いやれる関係でありますように。
 

【今月のおすすめ絵本】
『3人のママと3つのおべんとう』
クク・チスン 作 齋藤真理子 訳 /ブロンズ新社
 
 
[読み方アドバイス]
桜の花が満開の場面がたくさんあり、春を思わせる描写が印象的ですが、季節にとらわれず心が沈んだときにこの絵本を開くと、気持ちが落ち着きます。
 
 
【プロフィール】
宮本陽子(みやもとようこ)
Kidsコンシェルジュ
保育科卒業。保育士として広島市の保育園に勤務。
21年勤続の後、保育士時代に毎日読み聞かせをして培った絵本の知識を、リアルタイムに子どもたちそして親たちへ伝えられたらと思い、2017年広島 蔦屋書店に入社。入社してからも「へいじつのよみきかせ」で平日は毎日1日1回、ほぼ毎日絵本を読んでいる。
「0歳から就学前の子どもたちの好きな絵本」、「親が子どもにぜひ読んであげてほしい絵本」、「おとなの気持ちを癒す絵本等」等、多様な児童書というジャンルのなかでも特に「絵本」が持つ魅力を提案し続けている。
 

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