へいじつのよみきかせ 翻訳絵本『アインシュタイン 時をかけるネズミの大冒険』

 
Kidsコンシェルジュが提案する絵本を軸とした親と子の過ごし方。
今回は翻訳絵本『アインシュタイン 時をかけるネズミの大冒険』をテーマにお送りします。
 
夏休みが終わりましたが、まだ暑い日がしばらく続きそうですね。
台風が多発する時期ですし、長い休みのあとのスタートはなかなかエンジンがかかりませんね。心と体をしっかりいたわって、残暑を元気に乗り切りたいですね。
さて今回のテーマは金原瑞人訳の『アインシュタイン 時をかけるネズミの大冒険』
です。いつも子育てに焦点をおいたコラムを書いているのですが、翻訳絵本の書評にチャレンジしてみようと思います。この「ネズミの冒険シリーズ」には『リンドバーグ』『アームストロング』『エジソン』『アインシュタイン』の4冊があります。この絵本の対象年齢は、小学校2,3年生くらいでしょうか。絵本というよりは、読み物に近い文章量があります。でも、とてもかわいい挿絵が、絵本さながらにページいっぱいに描かれているのでとっつきやすい作品だと思います。
私がこの4冊の中でなぜ『アインシュタイン』を選んだのかというと、私は世界で1番好きな食べ物がチーズだから。
さらに、9月初旬、広島蔦屋書店に金原瑞人さんがお越しになり、トークイベントを開催してくださることになりましたので、ぜひ彼の作品を読んでみようと手に取ったのです。
 
主人公のネズミは、世界最大のチーズフェアに出かけることを心待ちにして毎日入念にカレンダーをチェックします。もうこれだけで、「読みたい」と思ってしまったのです。
絵本はもちろんですが、小説なら推理小説、恋愛のバイブル本と占いの本くらいしか興味がなく、ハリーポッターにも心が動かなかった私が、翻訳物を「読みたい」と思ったのは久しぶりのことでした。
 
アインシュタインの「相対性理論」はとても有名ですね。相対的にですが時間は必ずしも常に同じように進んでいるわけではないことを教えてくれます。楽しい時間はあっという間に過ぎ、退屈な時間はまるで意地悪をされているようにいっこうに前に進まない。こんなふうに私たちは何かと何かを比べながら物事を見ていることが多いのです。
主人公のネズミは、チーズフェアの日にちを入念に確認し1枚ずつカレンダーを破っていたにも関わらず、どうしたものか1日ずれてしまい、チーズフェアの次の日に会場にやって来てしまいます。そこでネズミは、「どうしてもチーズフェアに行きたい!」と過去に戻ることはできないか考え、アインシュタインの存在を知ることとなるのです。
どう考えてもファンタジーなのですが、よくできているなあと感心させられます。ファンタジーと現実が合わさって完成した物語は、アインシュタインの実験に貢献したネズミへの愛着からできあがった作品だとも思うのです(だって、とても可愛らしく賢く描かれているから)。この作品が伝記ではなくファンタジーとして完成した理由が想像できる気がするのです。
ネズミがクイズを出題し、それを必死に回答するアインシュタインとの場面は、それこそ現実であったかのようなおもしろさがあります。そしてそれは、ネズミがチーズフェア当日に時間を戻したいがための作戦であり、まんまとのせられたのがあの賢いアインシュタインかと思うと、私はもう時間を忘れて読みすすめる楽しさを感じていました。
 
私が翻訳本を少し苦手な理由は、「日本語らしくない」から。確かに、海外の人の長い名前や聞きなれない地名なども理由ではありますが、やっぱり読んでいてむずがゆくなること。
私は日本語に慣れ親しんでいるので、心の中にしっくりと入ってきてくれる文章が心地いいと感じます。海外小説がどっぷり好きな方は、非日常的な情景に魅了されて豊かな感性を磨かれるのだと思います。私にはそんなことはもうムリなのではと諦めているのですが…。
『ネズミ冒険シリーズ』を翻訳されている金原瑞人さんは、主にYA(ヤングアダルト)作品をご担当されています。だからでしょうか。彼の日本語はとても日本人の心に馴染みとても読みやすい。彼の翻訳絵本作品にはそんな印象を受けます。
児童読み物の中にも翻訳本はたくさんあります。低学年からおすすめの『エルマーの冒険』や、名作『赤毛のアン』、大人も夢中になる『ハリーポッター』など、有名どころの作品が日本語訳で出版されています。
私のように苦手意識を持ってしまっている子どもさんがご家庭にいらっしゃる方は、ぜひ、今のうちに翻訳本に一度触れてみることをすすめてあげてほしいのです。海外の作品に小さいころから触れることによって、未知の世界に気持ちが動かされ、何か1歩踏み出したような感覚になれるというか、うまく言えないのですが、「知る」楽しさを覚えます。今まで、身近な「知っている」ことで安心して楽しんでいた絵本から、ファンタジーの世界を絵本で楽しむようになり、さらに日本を越境した物語に触れてみる年齢が6、7歳ごろではないかと思います。
私がこの本を読んで感じたことは、時間について深く考えてみたり、主人公のネズミがかわいくてチーズフェアに間に合わなかった時に同じように落胆してたくさんチーズを食べさせてあげたいと思ったり、アインシュタインという人について深堀りすることができたことです。たくさんの私の中の未知の感情を動かすことができました。
苦手意識を払拭させてもらえた金原瑞人さんの翻訳作品に、出会えてよかったなと心から感じています。きっと世界一大好きなチーズに導かれたのだと。
次は、大人向けの海外小説にぜひチャレンジしてみようと思っています。
 

【今月のおすすめ絵本】
『アインシュタイン 時をかけるネズミの大冒険』
トーベン・クールマン 作 / 金原瑞人 訳 / ブロンズ新社

 
 
【あらすじ】
主人公のネズミは、どこかで聞きつけた世界最大のチーズフェアの日にちを入念に確認し、1枚ずつカレンダーを破っては当日を心待ちにしています。それにも関わらずチーズフェアの次の日に会場にやって来てしまい、フェアはすっかり片付いてしまっていました。
どうしてもチーズフェアに行きたいネズミは、時計職人のネズミに力を借り、たくさんの知恵を絞って、過去に戻ることを思いつきます。偶然にもアインシュタインが生きた時代へと戻りすぎてしまったネズミは、無事チーズフェアにたどり着き、お腹いっぱいチーズを堪能することができたのでしょうか?
小学校低学年から
 
 
【プロフィール】
宮本陽子(みやもとようこ)
Kidsコンシェルジュ
保育科卒業。保育士として広島市の保育園に勤務。
21年勤続の後、保育士時代に毎日読み聞かせをして培った絵本の知識を、リアルタイムに子どもたちそして親たちへ伝えられたらと思い、2017年広島 蔦屋書店に入社。入社してからも「へいじつのよみきかせ」で平日は毎日1日1回、ほぼ毎日絵本を読んでいる。
「0歳から就学前の子どもたちの好きな絵本」、「親が子どもにぜひ読んであげてほしい絵本」、「おとなの気持ちを癒す絵本等」等、多様な児童書というジャンルのなかでも特に「絵本」が持つ魅力を提案し続けている。
 

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