【お菓子博 お菓子の物語】 うちのおやつ

 
_うちのおやつの物語_
 
時には奥様お一人、時にはご夫婦でよく足を運んでくださるお客様がいらっしゃいました。いつ見ても仲睦まじくスタッフ皆お二人とお話する時間を大切にしていました。
そんな中、ある日を境にぱったりお二人がいらっしゃる事がなくなりました。お菓子は嗜好品であり生活に必要不可欠な物ではない為、いらっしゃっていたお客様が少しの間離れてしまうことはよくあり心配をしながらもまた来て下さる日を楽しみにしていました。そして去年の年末…奥様が久しぶりにご来店されました。
何か思い詰めたような顔で少しずつ話してくださった内容は旦那様がこの世を去ってしまったというあまりに突然でとても悲しいお知らせでした…実は当店に初めてご来店される前から病を患い闘病生活をしていたようでした。いつも明るく元気な旦那様がまさか病を抱えていたとは誰一人予想だにしませんでした。
久しぶりにご来店してくださった奥様はお葬式をしたその足で来て、「旦那が生前好きだったここのケーキをお供えしたかった」「訃報をきちんと自分の口から伝えたかった」と言ってくださいました。また、お話をする中で「二人にとってここのケーキが闘病生活の中の幸せの時間のひとつとなっていたんです。」と伝えてくださった奥様に涙が止まりませんでした。
 

お店を始めて、ご結婚や命の誕生、お子様の成長など幸せに溢れたお時間を共有させていただくことは多々ありましたが誰か大切な人とのお別れに触れた事は初めてで悲しかったとともにこんな私たちにもわざわざご報告に来てくださる奥様のお気持ちに少しでも寄り添える事ができていればいいなと願うばかりでした。
お菓子屋さんというのもきっと少なからず誰かの幸せな時間になれる事はもちろん、悲しみを分かち合い寄り添う事ができるという事に改めて気付き、大切にしていきたいと前以上に感じられた出来事でした。
 
 
 

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